頂き物語 | ナノ


未練


 ▽未練


幽霊というのは大抵未練でできている。
生前あぁしていれば、もっと生きたかった、あいつを殺したいなどの未練があって幽霊という者ができる。
私も例外ではなく未練の塊からできたものだ。
詳しく言えばジオと言う青年の未練
幽霊になった時点で生前のジオと幽霊の私とではもはや別人といっても過言ではない。
生前とはいっても記憶はあいまいで死ぬ直前くらいしかよく覚えていない。

ただ単に私の記憶力が悪いだけなのかはわからないけど。

それでも確かに叶えたい夢はあったし願いもあった。
もう一度やり直せたらなとも思ったし、生きていたらなぁ・・・なんてことも考える。

そんな中2人の人いや、化け物と出会った。
幽霊になって初めてできた友達だった。
友人と言っても阿弥央は人が嫌いだし、シバは美代命だから友人と言ってはいいのか時々わからなくなるが勝手に友人ってことにしている。

あいつらといるとほっとするし、楽しいし。
もっと仲良くなりたいなっていう欲も出てくる。
それと同時に私の未練がなくなっていった。

未練がないと私と言う者はこの世に留まれない。

私は寝ていた体を無理やり起こし、手を太陽に向けて伸ばす。
だんだん、私の体が透けているのがわかる。
それは微々たるもので自分自身にしかまだわからない。
だけどいつ、あいつらにバレるかわからない。

「うーん・・・・・まずいなぁ」

誰もいない公園で小さくつぶやく。
噴水の音とハトの鳴き声しか聞こえない。

また寝転がり、考える。

一度知ってしまった感情は、戸惑いはしたが不快なものではなくむしろ
喜ばしいことだと思う。
しかし、呪いとして機能していた私の体はそれを拒絶するかのように
体を蝕んだ。

指先がじんわりと赤く染まる。
タイムリミットが迫っていると予告していた。

「   ・・・・にバレれたら笑われそうだなぁ
  には心配かけたくないし」

ふとつぶやいた言葉に冷や汗が流れる。
あれ・・・?今私はなんていった?
    ? あれ?
名前なんだっけ?

先ほどまで覚えていた名前が出てこない。
歩実・・・これは言える。
だけど    と言えない。
  っと叫ぼうとした
だけど、どうやら私の体はもうすでにやばいらしく2人の名前が言えずにいた。

   って言いたいなぁ。
歩実って名前もいいけど私は  って言いたい。
その方が特別って思えるし、もっと仲良しみたいに思えるのに。

ごろんと寝返りを打ち、瞼を閉じる。
最終的私の残された選択肢は2つ
怪に取り込まれるか、成仏するか。
成仏とは言っても、呪いとして完成しているこの体ではもはや転生という者はできず
存在の削除そう言った方があっているかもしれない。

転生とは違う削除。つまりは私と言う存在がひとつも残らず消えていくと言う事だ。
それは嫌だ、寂しい。
けれど怪に取り込まれたとしても私の自我が失うのは明白だった。
きっと欲望のまま動くんだろうなぁ、  が一番嫌いそうだ。
本当の私をみたらきっとがっかりする。
普段の私も相当な狂人だろうが、本音はまだ言ってない。
言ったらきっと拒絶するだろう、軽蔑するだろう。
  達に拒否されるのは一番嫌だ。

このまま消えていくのなら一体私の人生はなんだったのだろうと思う。
瞼の中で父親があざ笑うのが見える。
あぁ、あの人の言うとおり生まれてこなければよかったのかな?
そしたらこんな感情生まれてこなかったし
テッソも幸せになったのかもしれないし。リサだって死なずにすんだかもしれない。
私の呪いのせいで孫たちが不幸にならなかったのかもしれないな。

「あーもうめんどくさいな」

「なにがじゃ?」

「うおっ・・・・あぁなんだいたのか。びっくりした」

瞼をあけると  の姿が見えた。
とはいっても下半身だけだが、角度的に着物の柄と言い長髪といい  だってすぐにわかった。
  に手を引かれ起き上がる。

「  が待っているぞ。はやく行こう今日はわしが料理してやる!」

「おぉ!それは楽しみだな!すぐいく」

はりきる  を見て私もうれしくなってほほ笑んだ。
だけどな、つらいんだ。

彼の顔はすでに真っ黒い何かに覆われていて
まるでクレヨンで塗りつぶしたように見える。
あぁ、もうすでに姿まで見えないのか・・・

このまま消えてなくなるのならたとえ自我を失っても
2人と共にいたいと思う私はきっと滑稽だろうな。

後ろで涎を垂らして見ている怪を見つめながら思った。


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