ギャップは魅力の一つです
まさか追ってきてはいないだろう。
後ろを確認しながら走っていた鬼村に、衝撃があった。
誰かとぶつかったらしい。鬼村も少しよろけてしまった。
「っ……と、失礼」
「っ……ざけんな」
鬼村が謝るのと、その声が聞こえてきたのはほぼ同時だった。
聞き取れなかったため、鬼村は顔を上げる。
ぶつかったのは、同年代くらいの男だった。綺麗な銀髪をしていて、何故かボロボロな燕尾服に身を包んでいる。
彼は肩を震わせながら、地面を眺めている。その視線の先には──ソフトクリーム?
「並んで並んで並んでやっと買えた超有名店の1日100個限定の牧場ミルクで作った濃厚ソフトクリームが……」
「それは……申し訳な」
「殺す!!!!!」
「ひっ!?」
鬼村は隙をつかれ、その燕尾服にあっという間に路地裏に連れ込まれてしまった。
何が起こっているのかも分からない。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!ぜってー殺す、です!!!!!!」
「ち、ちょっと待っ……確かに僕の不注意ですが!落ち着きましょう!お金は出します!だからとりあえず……」
「これが落ち着いていられるか!ですよ!!」
話を聞いてくれそうもない。
燕尾服は涙目のまま鬼村の胸ぐらを掴みガクガクと揺らす。その力の強いこと。
不意に片手が外れ、逃げられるかと思ってほっとしたが、そうではなかった。彼はポケットから、ナイフを取り出して、鬼村の首筋に当てたではないか。
「せめて苦しまないように殺してやるから、安心しろ、です」
「……っ!」
恐怖で声もでなかった。
その時。
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