彼らと彼女たちの冗談みたいな日
肌寒くなった秋の日の午後。三桜のショッピングモールにとある男女が歩いていた。男の方は金髪でじゃらじゃらとシルバーアクセサリーをつけている。その格好だけ見ると不良と言われそうだが、顔は幼くお人好しそうに見えないこともない。女の方は黒髪ショートカットで、一見男に見えるが、彼女はれっきとした女だ。だが、ぴったりとしたジーパンとパーカーというシンプルな格好がまた、「少年?少女?どっち?」と道行く人を惑わせる。
そしてその二人を遠目に見つけ驚きを隠せない一人――
「ど、どうして……田村さんと山月くんが一緒に……!!?」
彼は、たまたまこの街に用事があった茶髪の少年――平城真也。女――田村沙弥に想いを寄せる少年であり、男――山月小虎とも友達であった。
「田村、そういえば最近先輩に美味しいケーキ屋、教えてもらったんだよ」
「へぇ…良いね、行こっか」
「腰落ち着けて話したいしなぁ…」
「なっ……なっ……近い!近いから!距離が近すぎ……あ…」
真也は仲睦まじげに歩く二人を見て膝から崩れ落ちそうになった。単純な彼は、男女が一緒に居る=デート=付き合ってるという思考に至った。
「そっ、そんな……田村さん……」
彼は一度想いを寄せる彼女に断られている。だが諦めてはない。それも伝えてある。……のに、友達である小虎と付き合ってしまうなんて信じられない。確かめる前に、もう彼の頭の中では二人は付き合っているという事実が出来上がっていたのは言うまでもない。彼女が生き甲斐の彼は直面した事実に死にたくなった。
目の前が真っ暗になった彼の視界に……一人の少女が入る。電柱に身体を隠し、頭を少しだけ出した姿は目に余る光景だった。ワンピース姿の少女は、じっと、前方の二人を見ていた。二人と付かず離れずの距離を保っている当たり……真也が声をかけようと思う動機には十分だった。
「あの、すみません」
「なんですか?」
くるっと振り向いた少女を見て平城は吹き出した。
「ぶふっ……な、なんで鼻眼鏡!?」
――少女が漫画でしか見たことがないような鼻眼鏡をかけていたからだ。少女がかけていると、アンバランスで可笑しかった。
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