維持っ張り同盟
「こーとらくーん。だいじょーぶかー? 生きてるかー?」
「……んん。生きでる……」
項垂れながらベットにくるまる真っ赤な顔をした小虎の脇に、胡座をかいて座り込んだ。
小虎が風邪になってしまったと聞いたのは登校中だった。道端で少しおろおろした小虎の親父に遭遇して、小虎の事情を知った。
大丈夫だから、 の一点張りで親父を仕事へ向かわせたらしい。人の気を使う小虎らしい。
「重症そうだなぁ。この間、高坂さんのために雨ん中走り回ったんだって?」
「頼むから思い出させないでくれ……!!」
「おちょくるつもりはねぇよ。まぁ、私が一番乗りでここに来ちゃったけど、後から来る愛しいガールフレンドとか金髪の小悪魔レディとか、毒舌オカンがどう言うか……んや、案外ショウとか平城がダークホースか……?」
「アイツらくんのかよ……!?」
「来るなって言ったらむしろ来るし、言わなかったら普通に来るやつらだからなぁ。諦めな」
高坂さんが学校に小虎が来ないことを不信に思わないはずはない。たぶんだけど、そこから鈴原とかに訊ねて、高坂さんも一緒にお見舞いに行こうかなんて言うんだろうな。……面白半分、本当に心配してるけど素直にお見舞いにいけない辺りか?
んで、私が来ていないということを平城が気づかない訳がないので……何とかしてでもここにたどり着くだろう。行動は一番平城が早そうだけど、効率的にみんな放課後に乗り込んでくるだろう。
そんなことを考えていたら、布団から顔を覗きだして私の様子を伺った後、上半身を起こして小虎はそんな質問をする。
「……たむら」
「ん? どうした?」
「おまえ、がっこうはどうしたんだ?」
「さぼった」
「さぼっ……!? ごほっ! ごほっ!」
そう答えたら、急に咳き込むもんだから慌てて背中をさすると、涙目で私を睨み付けてきた。うぉ、やっぱりコイツ真面目だわ。どうしよう。
「……ああもう、興奮すんじゃねぇよ。ショック療法で全裸になるぞ」
「げほっごほっ! ふっ、ふざけごほっ!!」
やばい。相手を間違えた。
「わ、悪い。でもなぁ、小虎。弱ってん時に一人はダメだよ。誰かいた方が、絶対いい。例え家事が全くできない私としてもだ!」
「おまっ……けほっ」
「そもそも、早乙女や平城がいなけりゃ私は中卒で働いていたよ。だから、一日くらいいい。それに、小虎が一人なのは午前中だけだろうからな」
「……?」
「お前はお前が思っているより、人徳があるんだよ。その分心配もされる。そんな小虎を午前中でも独り占めできるんだよ? 一日の授業抜けたってお釣りがでるくらい儲けもんさ」
そう軽口を叩いてシニカルに笑うと、小虎は苦笑して、もういいよとベットに寝転がった。どうやらおれてくれたみたいで、胸を撫で下ろす。
「……あ。なんか作ろうか? 携帯があるからググれば作れないこともないけど」
「……いまは、いい。おなかすいてないんだ」
「そっか。プリンいるか?」
「……ほしい」
なんだかなぁ。
スーパー袋からプリンを取り出すものの、なんか釈然としない。
病気なんだから、もっと甘えてもいいのに。もっと弱音を吐いてもいいのに。小虎は私に気を使っている。
友達なのに、なんか寂しいなぁ。
でも、それも小虎のいいところであり、悪いとこかもしれないな。
プリンを手渡そうとした時、触れた指先から伝わる小虎の手がすごく熱くて、目を丸くさせてしまう。そして、頭で考えるよりも先に、小虎のおでこに自分のおでこを重ねていた。
「っ!?」
「おま、ただの風邪じゃねぇじゃん。熱もあるっておいおいシャレになら」
「たむっ、はなれ……!!」
私の肩を押して拒否しようとするから、なんか理不尽なんだろうけどちょっと嫌な気分になって、逆に小虎を押し倒した。いくら小虎が男だろうと、病人と一般女子よりはるかに力が強い男女なら、勝てる。
汗が首や額にたくさんにじんでいて、真っ赤な顔をして石みたいになって私を見上げている小虎の首に少し触れてみると、案の定、すごい熱い。
「まぁ、なんだ。大人しく寝ろ」
「……!!」
「たっく。本当甘えないんだなお前。ちょっとくらい私を頼れよ友達だろ? 汗拭くのは流石にはずいか。タオル浸して来るからちょっと待ってろよ」
小虎の上からのいて、キッチンへと向かおうとしたら、ズボンの裾を掴まれているような気がした。下に視線をおとすと、小虎が、耳まで真っ赤にさせて私のズボンの裾だけつまんでいる。
「……たむら、いかないでくれ」
そっぽを向きながらだったから、どんな表情をしているかわからなかった。もしかしたら、逆に気を遣わせてしまったのかもしれない。
だけど、小虎に頼られたと理解すると、胸の奥が小虎に触った時みたいに熱くなって、口角が自然とつり上がる。
「……小虎が望むなら、私は喜んでここにいるよ」
君を大好きな大切な人達が来るまで、私は隣にいるからね。
prev / next