捧げ物語 | ナノ


禁忌の言葉


「おやおや。おやおやおやおや? そこに居るのは幾多の命を葬るマフィアのボス、アルベルト・ヴェンチェンツォさんではありませんか。いやぁ奇遇ですね。いやいや、もしかしたら運命なのかもしれません」
「…………いい加減、その話し方なんとかならねーのか。うぜぇぞ」
「アハッ。考え方を変えればキュートに見えるかもしれませんよ」
「……見えるか」
「まぁ見えたら気持ち悪いですがね。ここは人間用語を正しく使わせて頂いてます」


 鼻で嘲笑いながら腕を組む白い髪を肩まで伸ばした女の名前は中原歩実。いや、本当は女というよりはバケモノだろう。
 頭から生えてる二つのぴょこぴょこと生きてる犬の様な耳は暖かそうで触りたい。すげぇ、触りたい。
 だが、その魅惑の耳が急に無くなった。頭から中原の顔に視線を落とすと、愉しそうにニヤニヤと笑みを浮かべているヤツがいた。


「そんなに“けもみみ”とやらが好きなのですか。オタク趣味らしいですね」
「…………」
「おや黙りですかぁああ? くすくす」
「黙れ。触らせろ」
「嫌ですよ。人間に私の一部を触らせ」
「   ――!!」


 ふいに、中原の背から金髪の男が抱きついていた。どこかで見たことあるツラだったが、正確に思い出せない。
 だけど、耳以外を触らせねーくせに他の男だと体もいいって言ってんのかコイツは。


「   ――。お腹空いたぞ! ご飯! ご飯をくれ!!」
「またですか!? さっき食べたばかりでしょう!? 貴方はボケたジジイですか!? ちょっとは我慢しなさい! どうせ膨れないものは膨れないのですから!!」
「いーやーだぁー! お腹空いたお腹空いたお腹空いた!!  ― ― ―!」


 普段と違う中原の反応は、金髪に振り回されていることを理解させられる。
 散々俺を振り回そうとするくせに、こんな男に簡単に振り回される中原。何故か胸の奥底を抉りたい程ムカムカがたまっていく。何より……。
 また現れた耳が俺と一緒にいる時より生き生きしてるとはどーいうことだ。

 金髪と中原を引き剥がして、中原の腕を引っ張って中原の頭に顎をのせた。真っ白のふわふわした髪は毛並みたいで、時々頬に触れる耳が可愛くて、思わず耳に頬ずりする。


「あ゛ーー!!   ! お前にも男がいたのか!? 私だってアプローチしたのに!!」
「貴様は飯目当てであろうが!! ええい離せアルベルト!! 人間ごときが我に触るでない!!」
「嫌だ」
「嫌だと言えば犯罪も許されると思っているのか!?」
「私も   をギュッとしたい」
「何が目当てだ」
「胸が」
「ああ、確かにでけぇ」
「離せ発情期の人間共が!!」


 胸の中でもがきまくる中原は、普段の中原とは全く違うもので、なかなか、はまる。


「可愛い」
「ひっ……!?」


 ただ、思ったことを口にしたら、中原は耳も真っ赤にして、ヘタリと耳を伏せる。
 なんていうか、こう初々しい反応ばかりされてるということは、こいつ……。


『処〇か?』


 丁度、金髪と同じことを口にしていた。それから中原はジャンプをしたらしく顎にクリーンヒットした。顎に手を当てる俺に、中原は金髪をロープで縛っていた。そして凄まじい殺気を露にしながら俺らを睨み付ける。


「次言ったら、殺す」


 中原の触れられたくない所が、分かった瞬間だった。



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