捧げ物語 | ナノ


恋愛シュミレーション

※注意!!
■彗様が運営する空色ペンシルの他所の子 と我が子のコラボ
■彗さんのキャラが違う可能性あり
■あくまで管理人の妄想(捏造)

以上が大丈夫な方どうぞ。



 授業が終わり、街に帰宅する生徒が賑わっていく中には私、田村沙弥に平城真也、あと早乙女春樹も例外ではない。
 私達は喫茶店で世間話をしながら宿題を片付けていた。

 そんなありふれた日常の中、早乙女を呼ぶ声から全てが始まった。
 怪訝そうな表情を浮かべ、振り返った早乙女だったが、その声主に見覚えがあったらしく、早乙女にしては珍しい朗らかな笑みを浮かべていた。


「なんだ、一真じゃない。珍しいね。君がこの町に来るだなんて」

「いや、ちょっと頼み事があってね。そっちの人達は……ああ! もしかして、沙弥ちゃんに真也くん? 俺は戌井一真。よろしくね」


 茶髪の少年はフワリとアイドルがファンに微笑みを浮かべるように口角を上げた。そんな様子を見た瞬間、何故か隣で平城が肩を震わせた理由は後程身をもって理解させられるだろうことは私達には分からない。
 とにかく、何がともあれ挨拶をされたら返すのが礼儀だろう。


「私は田村沙弥。早乙女のクラスメートだよ。よろしくね」

「お、俺は……平城真也って、いいます……」

「えーと。沙弥ちゃんに真也くん」

「沙弥じゃなくて田村」


 何かに怯えていたような素振りをしていた平城の視線が一瞬だけ鋭くなって、その視線は戌井に向けられた。犬井はそれに気づいたのか苦笑しながら肩をすくめる。


「春樹の言う通りだね。あーあ、俺の友達もそのくらいハッキリと態度を……いや、態度は分かりやすいかな」

「さ、早乙女!? この人に何の話をしてるの!?」

「別に僕が何を話そうが勝手でしょ」

「プライバシーの問題があるよ!」


 平城が顔を真っ赤にさせて大きい声を出すもんだから、店内のお客さんは顔を真っ青にさせて口を閉ざしていく。
 平城も自分がしたことに気付いたみたいで、罰が悪そうに席に深く座り直して苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
 平城の姉さんはここの地域じゃ知らない人間はいないだろうってくらい有名な暴れん坊だった。いや、現在進行形で手がつけられないような問題児ではある。そのせいで、身内である平城まで被害が及び、人に避けられるような存在になってしまった。

 気まずい雰囲気を何とかして変えたくて、静まった店内に私の声を響かせた。


「えと、戌井のダチって……何か問題アリなの?」

「うん。気持ちは回りから見たらバレバレなくせに、当の本人には気づかれないし。だからって本人に告白するほどの度胸はないヘタレだしね」

「好きって言っても伝わらない人だっているよ」

「平城のは特別例外ケースだよ。あれは鈍感じゃない」

「あ、平城好きなヤツいたんだ。頑張れよ」


 何、飼い主に捨てられた犬みたいに泣きそうになってるんだろ。
 平城はそのまま立ち上がって、何処かに走り去ってしまった。呆然と背中を見送る私をゴミを見るような視線で見下す早乙女に、同情のような、哀れみ似た視線で肩をポンと叩く戌井が癪にさわる。


「ちょ、そんな目で見んなよ!」

「田村はキング・オブ・バカだから」

「私はバカの代名詞かコラ!」


 とにかく、平城の悪い所を突いてしまったなら私が悪い。謝りに行かなければと席を立とうとしたら、戌井が私の両肩に手を置いてる……というか、圧いてるせいで立てない。


「そんな沙弥ちゃんにちょっと頼みたいことがあるんだけど……いいよね?」


 顔を覗き込まれたが、その時の戌井の笑顔は笑顔とは言い難く、他人を抑圧するような恐ろしい笑みで、思わず承諾してしまった。



 戌井の頼み(むしろ命令に近い内容)は、とある女のコをナンパしてほしいという、何とも話の趣旨に合わないものだった。
 
 いや、正確には戌井の友達がヘタレ過ぎるから、行動を起こさせる為に私に悪役になれということだろう。そこで何で私を抜擢したかというと、女子受けしそうな顔に性格の割には女というギャップがいいとか。つまり男っぽいってことですね。くそぅ。
 ターゲットの名前は川崎桃。写真で見た彼女の容姿は『現代風な女子校生』といった印象だった。
 ピンクブラウンの髪はゆるいパーマがかけられている。さらに睫毛は人工的なのか、黒い。逆に凄くパッチリしていて可愛らしい。他にもピアスにだぼっとしたカーディガン、太もも丈のスカート、黒のニーハイ……明らかなギャルだ。

 そんな彼女に想いを寄せているのが猿山祐樹という男だった。野球部キャプテンらしく、短い黒髪に切れ長の目から見られる印象は「うっわコイツすげぇ頑固そう」だった。
 戌井曰く、猿山は女の免疫が皆無らしく、天然の川崎にやられたらしい。

 ――……他人の恋愛沙汰に関わってロクな目にあったことないけど、言うこと聞かなきゃ……。
 戌井に恐らく殺される。
 何だろうか、戌井の笑みからそう言っているように感じた。怖かった。かなり怖かった!!

 とにかく、私はさっさと用件を済ませて平城に謝らなきゃいけない。少しの辛抱だ。

 戌井の作戦は至って単純、私が川崎さんを口説いてる間に猿山が乱入して助けたらいいだけの話。そこでいかに私が煽れるか……。
 やべ、すげぇ楽しみ……!!

 もう少しで部活が終わる頃だろう。予め川崎さんは戌井が呼び出していて、公園の噴水広場のベンチに座っていた。
 よし、行くか。


「あの、すみません」

「え?」

「このあたりに本屋ってありますかね?」


 内心、すげぇビビってる。だいたいナンパなんて振られてなんぼのもんだからな。だけど、川崎さんは親切にも近場のブックストアの道順を教えてくれた。今郷町でない見慣れない町並みだから道が分からないのは強ち間違いじゃない。


「アハハ。ありがとうございます。この町に来るのは始めてで迷子になってたんです。すげぇ不安だったんですよね。本当、こんな可愛くて優しい人に道を教えて貰えるなんて俺ついてたのかな」

「へ!? そんなことないですよぉっ! じょーずなんだからー!!」

「あだだっ」


 背中をバンバン叩かれた。結構嬉しそうというか……普通はちょっと警戒を解くか更に警戒するかの二択なんだけど……凄く、騙されやすそうなタイプだなぁ。


 それから、川崎さんとの会話は盛り上がった。というより、私が川崎さんが話すように誘導して全部肯定してるだけなんだけど。
 嘘でも、相手の味方ってことを表意すると警戒心は和らぐ。それに思った以上に川崎さんは単純なようだ。
 これなら簡単に挑発できそうだな……。
 でもなんか川崎さんを利用してるみたいで心苦しい。


「田村君田村君」
「ん? どうしたの? 川崎さん」
「田村君って他の町に住んでるの?」
「まぁね。今度来る? 川崎さんなら大歓迎だし、俺、頑張っていい店とか場所紹介するよ!」
「面白そう!!」

「おい!!」


 私と川崎さんの会話を遮った時にやっと役者が揃った。
 眼鏡の男はわなわなと震えていて、もうあからさまに川崎さんへの好意がまるわかりで……。
 いじめたくなる。


「えっ。もしかして、川崎さんの彼氏? うわー、俺、川崎さんいいなって思ってたのに……なんか申し訳ない……」

「え? 彼氏じゃないよ? 祐樹は私の友達にしてお供なの!」

「そう言ってる場合か!! お前は知らねー男にノコノコと付いてっ」


 猿山が川崎さんの腕を掴もうとした瞬間、私が先に彼女の腕を引いて背後から軽く抱き締めた。


「彼女じゃないならいいじゃん。川崎さんが誰と仲良くしてようが、ね」

「てめっ……!!」

「だってさ、こんな可愛くて、明るくて笑顔が素敵な子なかなかいないよ? たかがお友達に指図されたくないねぇ」

「……っ、じゃね……」


 唸るような声、川崎さんの腕を掴み、私と川崎さんを引き剥がした猿山の鋭い視線が私に向けられる。ああ、この目は好きだ。
 燃える。


「俺は、コイツのお供だ!! バカがバカするのを止めんのも俺の役目だ!」
「ちょっ! バカって何よ!」
「ちょっと褒められたくらいでいい気になるお前をバカと言わずなんて呼べばいいんだよ!!」

「ククッ。ブッ、アハハハハハハハ!!」


 ついつい笑ってしまった。
 いやぁ、まさかお供とは、そこで「俺は川崎が好きだ」くらい言えば伝わるものの、コイツもなかなかのバカなのかな。
 お腹を抱えて笑い出す私に視線を向けていた二人だったけど、見知った人が現れた瞬間に、猿山の顔色が変わった。


「ねぇ、ここまで僕達がヘタレ猿の君にキッカケを提供してあげたのに何ソレ? 猿はやっぱり人間様を越えられないのかな?」

「でも春樹、祐樹はヘタレだけど学年トップの成績を誇っているんだよ」

「ハッ! 学校の勉強しかできないお子ちゃまなのかなぁ? 機転を生かせられない堅物なんだろうね」

「うるせー! 黙れバカ!」

「黙れバカしか言えないんだ。田村を殴ってそのピンク頭連れ去るくらいすりゃあいいのに、それさえできない低脳だもんね。仕方ないか」

「ププっ! やっぱり春樹は最高……超面白い!」

「え……一真どーいうこと!?」

「全部川崎さんと猿山が悪いんだよ。川崎さんが魅力的過ぎるのと猿山がヘタレ過ぎるのが悪いんだ」

「よくもまぁそんな歯が浮くような台詞を言えんな! つーかコイツら誰だよ!!」

「二人にはまた事情を話すよ。とりあえず、こっちが早乙女春樹君で、こっちが田村沙弥。ああ、沙弥は女のコだよ」

『はぁ!?』


 川崎さんと猿山の声が重なった。何となく察しはついてたけど……やっぱり男だって思われていたんだね。
 それから猿山には戌井が、川崎さんには私が事情を説明した。私は川崎さんに「私が川崎さんと仲良くなりたかったんだ。ごめんね」と言ったら許してくれたし「そんなことしなくても友達になったのに!」と笑ってた。人が良いな。


「ってめーら何余計なことを……!!」
「残念だけど、祐樹の為にした訳じゃないから。楽しそうだからしただけだからね」
「この外道が!!」


 あっちもあっちで盛り上がっているようだ。
 ふと息をついた瞬間、噴水広場に私の名前を呼ぶ大きな声が響き渡った。噴水広場の入口には肩で息をしている平城の姿。


「平城……あっ! そうだ……平城、さっきは……」

「俺、諦めねぇからなっ!!」

「は?」


 金色のような、だけど少し充血している目を擦りながら、平城は私を指差して、宣言する。


「俺は、お前が大好きだ!! 絶対に、絶対に好きって言わせてやる!!」


 多分、裏の平城だろう。覚悟しておけよとだけ言って平城は立ち去って行った。
 そんな様子を見ていた私達。早乙女や戌井はポンと猿山を叩き。


「あれぐらいしてこい」

「……んなことできるかぁああああああああああ!!」


 確かにアレは無理だな。
 ……私は何時まで誤魔化せるだろうか。逃げられるだろうか。
 そんなことを考えながら、私は猿山や川崎さん、戌井に早乙女がぎゃあぎゃあと話しているのを目に焼き付けて、その場を去った。


 

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