殺人拳は誰が為に
我ながら、自分の性格は悪いと思ってる。いや、最近は更に人にトラウマを抱かせるほどの毒舌野郎や、物腰柔らかなくせに常に拳銃を所持する極道のお嬢、ドジでそう見えないけど凶器を振り回す馬鹿、機械的に相手を責め苦に貶める似非メイド……まぁ、ロクな性格な奴は見たことがない。
この道場の師範らしい平城の姉さんも例外じゃなかった。竹松曰く、あのマフィアや殺し屋等の育成機関で歴代最強の番長だったらしい。
平城に誘われ(というより、変態にセクハラされそうになったら平城が投げただろうベンチが凄まじい速さで変態を踏みつけ気絶させたのちに変態を死なせない為にもとりあえず)平城の家に来たんだ。血まみれの変態を背負う弟に目を丸めさせた夜美さんは変態の治療を受け持ってくれたんだ。ホントに良くできた人だと思う。
そして平城とお茶を飲んでた時に、その女のコが現れた。
「お邪魔しまーす。一発で人を惨死させる必殺技とかあったら教えて欲しいんですけど」
なんて末恐ろしいことを言うんだ。私でも、早乙女でも言ったことなさそうだぞ。しかも何と言うか……オーラが普通じゃない。コイツもきっとそっちの人間なんだ。
「えーと……姉ちゃんに用事?」
(平城落ち着け!! 話しかけちゃダメだって!! 関わっちゃ……!!)
「そうそう。ここの師範が鬼みたいに強いって聞いたからさ。とりあえず木刀とか釘バットか一式頂こうかなって」
なんだアレ笑顔じゃねーだろ。般若とか次元じゃなくてこの世に居ていい存在じゃないって!
「っぎゃああああああ!? とうとう刺客が人外になってしまったのか!?」
「姉ちゃん姉ちゃん。あの人(多分)人間だって」
「あのさぁ。失礼じゃない?」
鬼神と謳われた姉さんもびびりまくる恐ろしさだったようです。
▽△
「は、はぁ……ウザイ奴がいると……」
「師範が小学生とは思ってなかったな……」
あ、夜美の姉さん泣いた。平城がちょっと慰めてるけど父親に娘にしか見えない。
唯という般若少女(普通にしていたら見た目は悪くない)は夜美の姉さんに文字通り殺人技を学ぼうとわざわざ学校をサボって来たらしい。
「姉ちゃんはさ、(多分)殺人はしたことないよ……?」
「えっ……くそ、当てが外れたか……じゃ失礼します」
スクッと茶をすすっていた唯さんが立ち上がって、道場から出ていこうとした。これで一件落着……。
かと思ったのに。
「沙弥さーーん!!」
「変態が蘇生したぁあああ!! うわぁ引っ付くなボケェ!!」
「沙弥さんは本当に細くてスッポリ腕の中に入りますよね! ああやらかい……ぬがせて首筋から全身をしゃぶりたい……」
「いやぁあああああ!!」
「あら、そうですか」
ガシッと何かが掴んだ音がした。私を抱きしめる変態に、今にも木刀で殴りかかりそうな真っ赤な夜美さんに目が据わりかけの平城、目を丸めた唯さん。だけど、最後に声を発したのは誰でもない白い髪からたった猫のような耳を覗かせた少女だった。
「いい加減……沙弥さんに迷惑かけんなっつっただろうがクソ兄貴がぁあああ!!」
「ふごぉっ!!」
背中から変態を抱きしめた歩実さんはそのまま海老反りになり、地面に変態を叩きつけた。あのきしゃな体の何処にそんな力が……。
止めとばかりにドスリと腹を蹴った歩実さん。「流石我が妹……そのまま鬼畜ぷれ」まで呟いて沈んでしまった。
唯さんはその変態と歩実さんを交互に見た後に、ふむと顎に手を置いて何かを考え始めた。
「沙弥さん、すみません。麗しい沙弥さんの滑らかな肌が汚れてしまいましたね……お背中をお流ししましょうか?」
「いや、いいわ」
「そうですか……毎度ながら迷惑をかけてしまいましてすみません。故に、私が責任を……」
「とらなくていいわ」
「そうですか。残念です」
「ちょっと、白髪さん」
おや、と顔を上げた歩実さんを見下ろす唯さんは何か企んだタチの悪い子供のように、にぃっと歪んだ笑みを浮かべて、こう口にした。
「いろいろ戦い方、教えてくれない?」
「……私が何時何処で戦ったか分かりませんが、貴女が望むならば、私は力の限りお手伝いしましょう」
天然変態と般若少女が手を組みました。
般若と狼少女の契約
それは何処かの誰かを殺すための契約。
――――後書き
こんにちはヒロさま。リクエストありがとうございます!
実兄さんをあまり出さなくてすみません! 本当は大梨も出したかったのですが……またもし書けたらそれは別でお送りさせていただいてもよろしいでしょうか? その時には唯ちゃん以外のキャラクターも出してみたいなと企んでいます。川村君とか川村君とか川村君とか!!
こんなサイトですが相互本当にありがとうございました!
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