捧げ物語 | ナノ


間違いだらけのチョコ


「沙弥ちゃん。バレンタインデーはね、身体にチョコをかけて相手に「チョコはわ・た・し」って言えばいいんだよ!」

「な、なるほど……」


 今まで、バレンタインデーというものが何かと具体的には分からなかった。女子の会話には入れなかったし、毎年何故か私はバレンタインデーが貰うほうで、ホワイトデーが返す日だった。

 しかし、私は女だ。しかも好きな人がいる。なら男が喜ぶチョコをインタビューしていけばいいと現在は市ノ瀬に相談したわけだった。


(チョコと私を……メモメモ)

「あとねー、やっぱり真心かなぁ」

「マゴコロ」

「そう! 大好きって気持ちを伝えるのが大切だよ!!」


 可愛い笑顔でウインクする市ノ瀬。これで男子は何人堕ちるんだろうか。私でさえキュンとしてしまったからな。
 市ノ瀬に相談し終わり、次は鷹野さんに相談することに。バレンタインがなんちゃらーって言ってたし……。


「あ? バレンタイン? 何が喜ぶって……あれかな、防犯ブザーとか刀とか……」


 バレンタインとはそんな物騒なものだったのか。とりあえずメモはするけど護身用……ううん。薬……とか?


「えと、沙弥ちゃんは平城にあげるの?」
「な、何で知って……!?」
「あー、見たら分かるよ。くそー。私も沙弥ちゃんみたいな普通の子から普通のチョコが欲しいなー」
「……作ろうか? 友チョコでよければ……」
「お、サンキュ。楽しみにしてるよ」
「ところで鷹野さん」
「ん?」
「それは、一体……」
「ああ……市ノ瀬撃退機。今年こそこれで市ノ瀬を……フフフッ」


 これ以上彼女に関わらないことにした。殺人に関与なんてゴメンこうむる。
 しかし、情報は揃った。えと……男は「チョコはわたし」でマゴコロで薬……つまり。


「バファ〇ンチョコ……!!」
「なんだ、その凶器的なチョコは。ちっとも優しくなんかねぇぞ」
「あ、アルベルト先生。こんにちは」
「おう」


 そうだ、アルベルト先生は男だし、男心分かってるんじゃないのか。
 事情をアルベルト先生に説明した所、彼は顎に手を置いて、しばし考えた素振りをした後、不適に笑った。


「…………教えてやるよ」


▽△


「どうしよう。シン、鷹野さんからチョコ貰っちゃった」
(今すぐ茶藤にやれ。アイツは胃は丈夫だ)
「…………これ、大丈夫なの?」


 手に持ってるチョコは明らかにチョコじゃない科学薬品だ。まだ伊織の訳のわからない薬を飲む方がマシかもしれない。
 ……それより、もう夕方だし、鷹野さんに貰ったものの……田村さんからは無かったし。やっぱり、田村さんはそーいうの興味ないのかな。


「……はぁ」

「ひ、らじろ……!!」

「え、田村さ……ん!?」


 目の前に現れたのは、冬だというのにかなり薄い生地の白いワンピースにカツラをかぶったのか、髪の長い真っ赤な顔をした田村さんだった。ちょっと待って俺ついていけない! か、可愛いけどななな、何と言うか肌が、肌が見え……!!


「こ、これやる」
「え、ええ?」


 真っ赤な顔で渡されたもの。もしかしてチョコなんじゃって期待したら……バファ〇ンだった。……えー。
 この期待を裏切られて泣きそうになったら、胸ぐらを掴まれて、かなり顔が接近した。息もかかる距離に田村さんの白い肌が視界いっぱいに広がってクラクラする。
 そして、掠れた声で田村さんは言った。


「わ、私は……平城の、だから……食べていいよ……」
「…………は?」
「だい、すきです」


 ちゅ、とおでこに感じる暖かな柔らかいもの。バファリ〇の入った袋を押し付けられて、田村さんは真っ赤な顔をして逃げていった。


「…………ふぁあ。やばい、これ……夢?」
(…………だったら、泣くぞオイ)


 ドキドキが、止まらない。



間違ったバレンタインチョコ


「アルベルト先生のアドバイス通り、薄着で私は貴方のものって言った。あと優しさ護身用としてバファ〇ン。あと私はチョコ……だっけ? んで大好きって言った。
 これが男子が喜ぶチョコなの?」

「とりあえず平城に同情するよ」



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