カゲプロ | ナノ




モモキド


 モンブランの上に生クリームを乗せた。
 芳ばしいダージリンに小豆を沈める。
 余った小豆をモンブランに乗せ、ラー油を取り出したところで細い腕が止めに入った。
 嗚呼、なんて無情。モンブランがラー油を悩ましげな瞳で見つめてる気がして、私はまた手を伸ばすがやはり邪魔をされる。
 咎めるように視線を送ると腕の持ち主、メカクシ団の団長であるキドさんは困ったように眦を下げた。

「お前のその味覚は何とかならんのか?」
「美味しいですよ」

 どうですか、とラー油を差し出す。キドさんはラー油とモンブランを見比べ、やがて渋い顔で私を見た。

「絶対に、いらない」
「えー……カノさんは食べてくれたのに」

 キドさんに出していたラー油を渋々下げ、自身のモンブランにかける。ラー油のかかったモンブランが誇らしげに胸を張ったような気がした。こんなに美味しそうなのに、どうして嫌がるのだろう。
 カノさんはその辺ノリが軽いよなぁ、と呟くとキドさんが目を見開きながら顔をバッと上げた。

「た、食べたのか!?」
「えっえぇ。何か急用が出来たとか言って直ぐにいなくなっちゃったから感想は聞けなかったですけど。あ、でも笑顔だったから多分美味しかったんだと思います!」

 キドさんの勢いに気圧されながらも頷く。もう二週間も前の話で、その後セッターさんから謎の尋問を受けたけど。
 いただきます、と呟き、モンブランを一口掬うと口に含んだ。甘味と甘味と辛味。なんというバランスだろう! 絶妙なスパイスの具合に口元が綻ぶ。
 ところで、キドさんの口角が微妙にひきつっていたのは何故だろう? やっぱり食べたかったのではなかろうか。
 上目でキドさんを見上げると、キドさんと目があった。ぱっちり目が合うとキドさんはそわそわと視線を泳がせ、そして心配するような目で私を見るのだ。

「な、なぁキサラギ。無理しなくてもいいんだぞ?」
「え? 何がですか?」

 やっぱり食べたいのだろう。一掬い持ち上げ、キドさんの目の前に差し出す。
 キドさんは迷うように口を開きかけ、しかし口を閉ざした。そして勢いよく顔を上げると、

「お、俺は食べないからなっ!」

「えいっ」

 口を開いていたのを良いことにフォークを口に突っ込む。我ながらナイスなタイミングだった。キドさんが目を見開くのが分かる。そして恐ろしい勢いで青ざめていった。えっ?

「――っ!」

 がたん、とテーブルに足をぶつけながらキドさんは立ち上がる。あまりの美味しさに感極まったのかと思ったら、どうやら違うらしい。
 手で口を押さえ、肩を震わせ、目の縁が微妙に濡れている。やっぱり感動しているのだろうか。というより、睫毛長い。普通に綺麗な人なんだよなぁ。
 一応、合わせるように立ち上がるとキドさんは肩を大袈裟に跳ね上げ、共有スペースから飛び出した。

「うえっ!? ど、どうしたんですか!?」

 食べ物に対する冒涜だ!!、とトイレの方から叫び声と共にえずく声が聞こえたような……多分気のせい。
 モンブランを一口掬い口に含む。うん、やはり美味しい。いや、先ほどよりも甘いのだろうか。
 だって、これって、

「間接キスじゃないですかっ!」

 言葉にして漸く結論に至り、頬が熱を帯び始める。どうして気付いてしまったのだ!
 そもそも女の子同士なんだから……ってあんな綺麗な娘は規格外だ!!
 ああもうっきっとキドさんも間接キスに気付いて照れて逃げてしまったのだろう。なんて可愛い人だ。
 ヤバイ、ニヤけてしまう。赤い頬とつり上がった口角を隠すように膝の間に顔を埋めた。
 すると、トイレから帰ってきたらしいキドさんが私の頭を撫で、腹でも壊したか?、と優しく声をかける。その声音に私は何も言えなくなった。
 頭が真っ白になって、そして頬が熱い。黙っているとキドさんが本格的に心配し始めたので私は仕方なく、小さな声で「はい」と返した。
 キドさんは呆れた風な声で馬鹿、と呟き、モンブランの皿を下げる。待って、の一言が言えず、それを見送った。
 今度は二人で完食できるといいな、なんてね。



モモは人の話を聞かない子で思い込みが激しそう(残念な方に)
今回の被害者はキドと見せかけて、多分カノです。セトがびっくりして出動する程度には酷かったと思われます。

百合といっても二人きりの空間に入り込むのではなく、周りがいるんだけどそれはともかくって感じ。
フリートークみたいなノリです。





- ナノ -