四巻とか関係ないけど、四巻妄想小咄・断片的です。
※三巻から四巻にかけての幕間、セトカノです。
早朝、日が昇りきる前にアジトを抜ける。まだ目覚めないヒビヤのことが心配であったが生憎今日は朝からバイトが入っていた。
せめてキド達を起こさないように細心の注意を払って玄関を開けるとそこには不機嫌そうな顔をしたカノが、腕を組みながら塀に寄りかかっていた。
「おはよう、セト」
「おはよッス。今日は随分早いんスね」
「うん、ちょっと話があって」
そういってカノは塀から背中を離す。
今日のカノは本当に不機嫌そうだ。まだ一度も笑顔を見れてない気がする。
能力を使わないでいてくれている、そう思うことにしよう。怒らせた覚えはないのだから。
「セトはさ、シンタローくんのこと、どう思ってるの?」
「シンタローさんッスか? 根は良い人なんだと思うッスよ。ただ運動不足ッスね」
「うん、まあ大体僕も同意見だよ。けど、そうじゃなくて」
カノは一旦そこで言葉を区切り、言葉を選ぶ。
カノの言わんとしていることが分からないでもない。けれど時計の針は悠長にここで話すべきではないと告げていた。
「カノ、その話、移動しながらでもいいっスか?」
アジトを出る前、セトは共有スペースの床で眠るシンタローをソファーへと移動させた。頬に幾つか涙痕が出来ていたのはきっと見間違いではなかった筈だ。
セトはそれを知らない振りをするかどうか悩んで、結局濡れたタオルで痕を消した。
昔は自分もよく泣いていたものだ、なんて独白すると自然と記憶は懐かしい方へと向かう。カノはセトが泣くと決まってそれを言い当て、冷えたタオルを目に押し当てたものだ。カノは何時だって目に見えては分からない程度の優しさで触れる。カノは贔屓を善しとはしなかったけど、決して向こうから手を伸ばすようなことはしなかったけれど、それでも嫌な顔一つせずに待っていてくれた。
それがどれ程有り難いものだったのかを、バイトを始めてつくづく思った。
セトはタオルをそのままシンタローの瞼に被せたままにしようとし、縁起でもない構図に気が付き止めた。
あまり泣いたわけでもないだろう。腫れも小さいし、大丈夫だろうとソファーを離れた。
玄関にはコノハが寝ていた。
ソファーに運んだが、果たして意味はあるのか。すでに足がはみ出してるんスけど!
道中、セトは自分から何かを聞き出そうとはしなかった。
それは知ろうと思えば知れるからではなく、昔、セトが上手く話せない時によくアヤノやカノがやっていたからだ。人から受けた好意を他人に与えることができるというセトの愚直なまでの素直さがカノは好きだった。
「セトは僕がわりと酷い奴だったりするって知ってた?」
「勿論ッスよ」
「即答って、セトもわりと酷い奴だね」
「カノ、責められたい気分なんでしょ?」
セトは自分よりも低い位置にある小さな頭を思いきり掻き混ぜながら笑う。
カノは心底嫌そうな顔をしたが、ぷ、と小さく声を漏らすと肩を震わせながら笑った。
「分かってるなら頭なんて撫でないで思いっきり罵倒してよ。本当、セトは酷い奴だ」
「シンタローさんに何かしちゃったんスか?」
「うん、僕はそれをやって然るべきだと思ってやったけど、やっぱり間違いだったのかもしれない。けれど、間違いという根拠もなく酷く座りが悪い。だからいっそ一思いに第三者であるセトに否定してほしいんだ」
ああ成る程。だから、故にシンタローは床で泣きながら寝ていたのかとセトは納得し、朝からカノが不機嫌であった理由を理解した。
カノは求めるようにセトを見上げる。
カノは第三者であるセトに否定されたいらしいが、蚊帳の外である自分が正しいとも付かないカノを罵るのも畑違いのように思え言葉を詰まらす。カノは常にカノ自身の価値観で動き、それが正しかろうと何だろうとその行為にはカノなりの優しさが含まれていた。
それを知っているからこそ、容易には否定できない。
「バイトが終わってアジトに帰ったら一緒にシンタローさんのところに行くっていうのはどうッスか?」
「……どうして?」
「カノ、自分じゃ気付いてないと思うッスけど、カノがそこまで悩むのって中々ないんスよ? 後悔がないように選択しないと。シンタローさんのこと、気に入ってるんでしょ?」
彼にもカノを理解してほしい。カノが優しくて存外回りくどいことを教えてあげたい。セトはそんなことを考えた。
カノが気に入っているのなら、それでいい。誰かの幸せを願うことほど嬉しいことはないのだから。
カノは頬を赤く染めながらセトの手を退け、フードを目深に被った。
「今日、何時に終わるの?」
―――――――――――――――
何気後悔してるカノも可愛いと思うのですが! まあカノなりの意図がありそうなんでなんとも言えませんけど。
四巻における深刻なカノ不足。
これ、三巻の時に書いとけば良かったですね(笑)