カゲプロ | ナノ


カノさんのプチ発情期


「んっ、」

 ふるりと身体を震わせ、カノはソファーに身を埋める。
 身体が熱い。身体の奥の方からじわじわと押し寄せてくる熱を逃がすようにソファーに横たわり、冷たいエナメルの革に頬を寄せた。
 はぁ、と荒い息を吐きながら手を下肢へと伸ばす。かちゃかちゃとベルトの留め具に指を絡め、その指がズボンの膨らみを掠めてはびくっと身体を震わせる。
 決して直接的ではない、焦れったい刺激はカノの被虐心を酷く煽った。

※微えろ未満、セトカノ


性交というものは幾ら愛し合っていたとしても必ずマンネリというものがやってくる。
そう、まさに今の俺達のように!

「カノ、やりたいッス」
「えー?僕は別にやりたくないんだけど?」

ベッドで寝そべりながら雑誌を捲っているカノは俺に視線を寄越すことすらしない。まるで性交になど興味はないといった風だ。
思えば、最初は良かったものだ。カノは凄いびくびくして可愛かったし、フェラだって恐る恐る俺の反応を窺いながらやって、俺が気持ちいいッスよって笑うとふわりと嬉しそうに目を細めたものだ。それで顔にかけちゃうと真っ赤になりながら、どうしようどうしようと涙目になってたっけなぁ。口に出してやると噎せながらも飲み込もうと必死で。逆に俺がフェラすると内股をきゅっと締めながら恥ずかしそうに喘いで、出したのを飲み込んでやると恥ずかしさのあまり泣いて。
今は十分に慣らさないで入れようとすると蹴られるし、フェラも上手くなって恥ずかしがることも減ったなぁ。顔にかけると怒られるし、口に出すとペって出されるし、飲み込むとキスしないでって言われるし。
え…あれ?涙が…。

というわけで!俺は復讐を考えたわけッス!!
エネちゃんにこっそり相談して裏口から回してもらった媚薬の入った小瓶がちゃぷんとポケットの中で音を立てた。

「コーヒー、淹れてくるッス」

さりげなく当たり障りのない理由で立ち上がると、カノがようやく顔を上げて此方を見てきた。

「あ、じゃあ僕の分もよろしく」

なんて可愛いお願いなのだろう。

「了解ッス」

勿論、カノがここで自分の分もと言ってくるのは分かっていた。いや、言わなくたって入れてくる予定だったし。
部屋を出て台所に入るとさっそく瓶をテーブルに出した。
インスタントの安いコーヒーを入れたカップに媚薬を入れようとして、ふと手が止まる。

『原液を250rですよ!?いいですか、入れすぎちゃ駄目ですからね!』

彼女の忠告がやや引っ掛からなくもないが、コーヒーで薄めるのだから言われた量より多く入れた方がいいのではないか。カノが全部飲むとは限らないわけだし。
そう、念のため。念のため、少しだけ多く入れるというのはどうだろうか。
そう思い、言われた数字よりやや多めにカップに傾けると、

「あれ?あと、これしか残ってないんスか」

瓶の中身は半分もない。
このまま微量残したところで他に使い道はないわけだし、

「勿体無いし、全部入れちゃってもいいッスよね」

かくして、規定量の大幅に越えた媚薬を投入されたコーヒーがセトによって生み出されたのであった。
ちなみにセトは、瓶一本に二回分の量が入っていたとはまだ知らない。



誰も報われない

※シン(→)←カノ

暴力表現とか、バットエンド苦手な人には残念ながら一切向いておりません。
読む人をかなり限定させていただいてます。
人外パロディっぽい。



愛した人は人じゃなかった。
それでも、愛せると、愛し合っていけると信じていたのです。


「俺を、騙してたのか?」

暗い獣道に横たわる人のようなものを足で突いて、仰向けにさせる。それから気を失いそうなカノの肩を思いっきり靴の踵で踏み下ろして意識を無理やり引き戻した。

「俺を騙したのかって聞いてんだよ!」
「…―ぃ゙っ!…ちがっ…ぼく、そんなつもりじゃっ」
「うるさいっ!」

手に持っていた棒を顔のすぐ横に振り下ろし、膝をついて髪の毛を掴み上げる。カノの苦悶に歪む顔が心地良かった。
苦しめ、苦しんで苦しんで苦しみ抜いて、苦しめばいい。
俺が感じた幸せの分だけ苦しんでくれ。
それが、喜びも悲しみも怒りも憎しみすらも幸せと感じられた日々を俺から奪ったお前に対する罰であり、俺がお前に捧げられる最後の愛だ。



あの日、薄暗い森の奥で道に迷っていた俺を助けてくれたカノ。俺の唯一の話し相手となってくれた。
手を握れば温もりを感じて、抱き締めれば愛しさを感じられた。好きと伝えると恥ずかしそうにはにかみ、頬を薄紅色に染めると、僕も好きだよと返してくれた。
そんな甘い思い出すら演出で、全て嘘だったというのか。

「俺を騙して、欺いて楽しかったか!?」

さぞ、滑稽だったであろう。騙されてるとは気づかないで勘違いしていく馬鹿な俺を見て。腹を抱えて笑ったか?床を叩いて笑ったか?言葉もでないほど呆れたか?
許さない。許せない。許したくない。
お前は俺を最悪の形で裏切ったんだ。

「この化け物がっ!!」

お前なんかと出会わなければよかった。

くしゃりと悲しげに歪むカノの表情に何故か、視界が熱く濁った。
ぽろぽろと溢れる滴がカノの頬に伝い、まるでカノが泣いているようにも見えた。嘘、お前みたいな道化が泣くわけない。

「し、たろー…くん、泣かないで…」

カノの手が頬に触れて、優しく涙を拭う。やめろ、やめてくれ。俺に優しく触れないでくれ。
これ以上、俺を惑わせないでくれ。

「もういい…もう行けよっ!お前の声なんて二度と聞きたくない!」
「…ごめんね、」

苦しそうに笑うカノを見て、どうしてか息が苦しくなった、胸が締め付けられた、心臓がきりきりと痛んだ。

「…ありがとう」

どうして、そんなこというんだ。許して、手を伸ばしたくなる。嫌だ、許したくない。でも、愛したいとも思う。
裏切られても、わりに合わなくても。愛してしまっていたんだと思う。
だけど、これ以上愛してしまったら、続けてしまったら、きっと憎しみが消えてしまうから。俺は恨んで突き放すことしか出来なかった。

なぁ、神様。もし、あんたが本当にいたとするなら、
どうして、俺は愛せないのでしょうか。
どうして、俺は許せないのでしょうか。
どうして、幸せになれないのでしょうか。
どうやったら、幸せになれるのでしょうか。

嗚呼、俺達はあんなにも深く愛していたというのに。
今さら愛すのには、俺達は残酷すぎた。


↑微妙に続きっぽいかも

「ここは、どこだ…」

軽い散歩のつもりが、いつしか森の奥深くまで迷い込んでしまっていたらしい。薄暗い獣道が進路はおろか、退路すらも塞ぐように生い茂っている。
家族にも告げてない外出だったので助けは無理だし、餓死するしかないのかなぁ。
そう思って、ぶらぶらと歩いていると不意に後ろから、

「ね、」

と声が聞こえた。
振り返ると、色素の薄い青年が貼り付いたような笑顔を浮かべ、そこにいた。

「もしかして、道に迷った?」
「え…なんで、」
「だって、キョロキョロしてたし。まぁ、この辺よく迷う人いるんだよね」

そういうと青年は背を向け、

「おいで、出口まで案内してあげる」

と小さく手を振った。


男の背中を追いながら歩いていくと、だんだんと見慣れた道に入っていくのが分かった。

「さぁ、ついたよ」

青年が振り返り、先を指差しながら横に退ける。
案外、あっさりと出口に辿り着いてしまった。こんなに簡単に着いてしまうものだったのか。
お礼を言おうと、青年の方を向くと、

「あれ…誰も、いない…?」

周りを見渡しても、いなくて。

「明日、もう一回行ってみるか」

迷ったら終わりだけど。



「君さぁ、馬鹿なの?」

次の日、また同じ場所に行くと同じように青年がやってきた。
今日はあの笑顔じゃなくて呆れ顔。

「昨日のお礼をいいそびれたからな」
「…別に言わなくてもいいよ。僕が何か分かってるんでしょ?」
「それこそ、別にどうでもいいだろ?お前が俺に危害を加えるとは到底思えない」

何処にそんな根拠が。そいつは呆然と、そんな顔をしていた。
俺はただ笑って、

「少し、話さないか?」

と、誘ったんだ。


あの人間を助けたのは気紛れで、アホみたいにノコノコとまた来やがったから気紛れにまた出向いてやった。それだけ。それだけだよ。
あれから、たまに来る人間の彼奴と話すのはただの暇潰し。偶然、気紛れが彼の来た日に当たっただけなんだ。
でも、最近彼がくると胸がぽかぽかと温かくなって、心地良い。


「カノ、また人間の匂いがするッス」

棲み家に帰ると、目敏く仲間のセトがやってくる。
最近、頻繁に外に出ている僕を怪しんでいるようにも見える。彼には暫く森に近寄らないように行っておかないといけないかもしれない。

「あー…町に降りてたからかもしれない」
「町?」
「うん、ちょっと面白いものを見つけてね」

嘘ではない。僕が人に紛れることはわりと珍しいことじゃないから、きっと気づかれないはず。

「ふぅん…カノの面白いものッスか?それ、」
「だーめっ!セトはすぐに壊しちゃうから教えてあげない!」
「ちぇー…カノのケチ」
「可愛く言ったってダメだからね」

セトに目を付けられたら、もう僕なんかじゃ庇えない。
なんで僕があんな人間なんかの為にと思ったけど、とりあえず新しく見つけた玩具を横槍に壊されたくないのだろうと強引に納得。

「…カノ、」
「ん?なに、」

「カノは、俺には嘘つかないッスよね?」

セトの鋭い視線に僕は何の躊躇いもなく、笑って「もちろん」と答えた。




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