朝、起きると僕のベッドには沢山の花弁が散っていた。
寝惚けていた僕は夢かと二度寝してしまったけれど、それは消えてなくて。次に起きた時、掃除が大変そうだなと何となくそう思った。
「また、ですか?」
キサラギちゃんが怪訝そうな顔でかき集められた花弁を見つめる。
あれから毎日のように朝起きるとベッドには花弁が散らばっていて、それをキドやマリーにも伝えたのだが心当たりがないと言われた。セトは帰って来ないし、キサラギちゃんは性格的にそんな細かいことするわけないし(と伝えたら、何故か鳩尾を殴られた)。
「呪われてるんだろ」
キドが横でぼそりと呟く。
「や、やめてよ!洒落にならない!」
「しかし、誰がこんなことしてるんですかねぇ」
「ロマンチックでいいじゃないか。次回、さよならカノ、お前のことは忘れない的な」
「それ死んでるよね!?僕、死んじゃってるよねっ!?」
「お前、ちょっと今日は胸の前で手組んで寝てみろ。出来れば、白い服を着てだな…」
「やらないよっ!!」
なにこの「え?他人事ですが、なにか?」みたいな態度の団長!
絶対面白がってるよね!?そうなんだよね!?そうじゃなかったら言えるわけないですもんね!!分かってますよ、分かってました!!もうっ、もう、
「キドのばかぁあああーっ!!」
「ありゃりゃ…少し意地悪だったんじゃないですか?」
「……知らん、俺は知らんからな」
「なんで、ちょっといじけてるんですか」
「別にいじけてない!」
キドのばかばかばか!!僕のピンチなんだよ!なんでもっと真面目に考えてくれないの!
こういう時に限って、セトはいないし!もう頼れるのは自分しかいない!
そうだ、今日は寝ないで待ち伏せしてやろう。それで犯人を捕まえて、あぁでも幽霊だったらやだな。
「とりあえず、夜に備えるとしますか」
がばっと毛布を被り、目を閉じた。
「あーぁ、なんでこんな無防備なんスかね」
ベッドの上で寝息を立てているカノを見下ろしながら笑った。
「別に夜にこだわってたわけじゃ…、ないんスけどねぇ」
そう、別にいつでも良かったのだ。カノさえ気づかなければ。
夜を選んだのは寝ているからで、昼間に寝ているのだとしたら自分は昼間に来る。ただそれだけのことだった。
今日の花は真っ赤な薔薇の花ッスよ〜。両手に抱えた花束から一本だけを抜き取り、一枚一枚丁寧に花弁を毟り、毛布を退けたカノの上に落とす。
「綺麗ッスよ。カノ」
柔らかな髪に触れながら額に唇を押し付けた。
そして、ふとキドの言葉を思い出した。直接あの場に居たわけではなかったが、知っている。
『お前、ちょっと今日は胸の前で手組んで寝てみろ。出来れば、白い服を着てだな…』
確かにそれも綺麗かもしれないけど、それじゃまるで
「花嫁みたいじゃないッスか」
花弁のない茎で輪を作り、眠るカノの左の手の薬指に通す。すると、薔薇の棘がすぅっとカノの指に赤い筋を作っていくものだから、欲望のままに指に舌を這わした。
舐めるたびに広がる甘い鉄の香りが堪らなくて、抉るように舌で傷口を広げた。
「…んっ、」
痛いのか、微かに顔を歪ませるカノの額に優しくキスをした。
「…大丈夫、痛くないッスよ」
ゆっくりと低く呟けば、カノは安心したように力を抜く。これを無意識にやってのけるのだから、敵わない。
愛しく思う。
もし白雪姫のように、その唇に唇を重ねたら幸せになれるのだろうか。思いは通じ合えるのだろうか。
「……カノ、」
穏やかな寝顔をじっと見つめる。束の間の幸せ。
それから残りの花弁を散らし、茎を片付け、最後にカノの左手に触れた。
薬指に嵌まった歪な指輪がどうか、本当になりますように。
「なんちゃって、」
その差はほんの僅かだというのに
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お題はDOGOD69様より