カゲプロ | ナノ


優雅にシンカノ


「みっともなくってよ、シンタローさん」

「か、かの……?」


三人掛けの大きなソファーを一人陣取り、座っていたカノは何を思ったのか、唐突に馬鹿なことを言い出す。

「お前、(頭は)大丈夫か?」

携帯から顔をあげ、本当にカノの(頭の)心配をしながらシンタローはカノを見た。カノはシンタローの視線が自分に向いたことに気を良くしたように、何時もより(馬鹿さ加減が)三割増しくらいの爽やかな笑顔を浮かべる。

「シンタローくん、いや、さん。ぼ……私、喉が渇きましたわ」
「キャラぶれぶれじゃねーか」

つーか、自分で何とかしろよ。
とりあえず、ミネラルウォーターのペットボトルをカノに差し出す。飲みかけだが文句があるなら飲むな、という意味合いを込めて。
しかしカノはそのペットボトルを受け取らず、ナンセンスとばかりに首を横に振った。アメリカンなコメディ映画にありそうなその仕草が様になっている辺りが腹立つ。

「シンタローく、さん、全然なってなくってよ!」
「え、なに? くさん?」
「普通、そこは『畏まりました、お嬢様』で紅茶を用意してくるところでしってよ!?」
「お前が何言いたいのかはさっぱり分からんし、分かった試しは一度もないが、これだけは言わせてくれ。…………お嬢様でいいのか!?」


学パロでシンカノ

授業中、こいつの能力が酷く羨ましくなる。
シンタローは横目でしゃんと背筋を伸ばし、真面目な顔で授業を受ける男を見た。いや、受けていそうな男というのが正解だろう。
何せ、優等生然とした見た目とは相反し、隣から聞こえるのは疑う余地もない寝息だからだ。能力を使ってカモフラージュをしながらサボタージュとは良い度胸だ、とシンタローはノートに視線を落とす。確かに、この程度の問題ならばわざわざ受ける必要はないんだよな。
午後一番の数学という怠い組み合わせにシンタローは保健室の寝心地の良いベッドを思い浮かべ、静かに手を上げた。

「先生、気持ち悪いんで保健室行ってきます」


数学の担当はシンタローを送り出すと黒板に視線を戻し、ぽつりと呟く。

「この問題、如月に解かせようと思ってたんだけどなぁ」

どんだけ運の良いやつなんだ、と続けると教室内の生徒は皆シンタローの悪運の良さというか、ここぞというときには一切発揮されない感の良さに頷いた。
しかしシンタローの悪運はこの程度で終わるものではない。担当は簡単にシンタローのことを備考欄に書き込むと生徒の方を向き直り、そして一人の生徒に目をつける。
始終、良い姿勢で真面目に授業を受けていたカノだ。勿論、カノは能力を駆使し爆睡しているのだが、能力のお掛けで良くも悪くも昼寝がバレていない。

「よし、今日は自棄に気合い入ってるな、鹿野。お前、これを解いてみろ」

担当がカノを指名する。返事はない。無論、カノが爆睡中だからだ。
もしここにシンタローがいたのならすかさずカノを起こし、答案を然り気無くカノへと見せるだろう。しかし今現在シンタローは保健室。
後にカノは語る。

シンタローくんの悪運ってさ、悪運の悪っていう字を他人に回すところまでだよね。


え、年の差がなんだって?
大丈夫、パロディだから大丈夫!
キドとセトは隣のクラス。キドは基本的に寝ないけど、多分一番安全に寝れる。セトは頭を教科書ですぱーんっ!ってやられる人です。
年度末くらいに先生の教科書が折れてたりふにゃふにゃになってたり角が丸みを帯びたりしているのは大体セトのせい。


シンカノ


シン「カノが彼女、なんつって、ぷふっ」
カノ「詰まんないし死ねばいいと思う(真顔)」

なんかこんなのばっか考えてます。

甘さ+10

シン「カノが(略」
カノ「やだ、もうっシンタローくんたらっ!///」


途中で飽きたセトカノ



昔から胸の内を渦巻く困った感情がある。
それは言葉にしてしまえば意味を失い、言葉にしなければ意味を成さない。
端的に言ってしまえば、言葉にするかしないかの二択であり、またしてもしなくても結果は変わらない。どちらにせよ意味などないのだ。
けれど、その投了への結論が出せない今の状況を敢えて言葉にするなら『ジレンマ』だった。



冬のことだ。
クリスマスも大晦日も元旦も過ぎたある寒い冬の日、季節感も顔負けの薄いTシャツと前開きのカーディガンという軽装のカノが俺を初めて誘ったのは。
一体何を考えていたのか、はたまた何も考えてなかったのか。ただ一言言えるならば、魔が差したと言うべきか。

思えば、その日のカノは何処か可笑しかった。何時もなら部屋に入ったら真っ先に暖房を付けるか、暖まるまで自室に篭るかだというのに、その日に限っては何時までも暖房の付いていない部屋に留まっていた。
最初は気付いていないのかと様子を見ていたのだが、カタカタと指先を震わせてるのを見て痩せ我慢だと気付いた。よくよく見れば唇だって青い。
どうしてそんなことをするのかと悩んだが、元からカノの考えが理解できるわけがないと理解するのを諦めた。だから代わりにココアに淹れてやるとカノは嬉しそうに顔を綻ばせながら両手で無地のマグカップを包んだ。
ココアを半分くらい飲んでからだろうか、カノは無地のマグカップを見つめながら少しだけ顔を歪ませ、それからはっと小さく頭を振り誤魔化すようにマグカップをテーブルの上に置き何時ものように胡散臭く笑いながら「ねぇ、セト。今日は寒いね」と言った。
カノの言葉に俺は「そんな薄着してるからッスよ」とわざと素っ気なく返す。
本当は首回りの緩やかなTシャツから覗く白い肌が脳裏に焼き付いて仕方がない。これでカノが厚着をしてくれれば御の字だと思っていた。
しかしカノは俺の予想などを嘲笑うかの如く「厚着は嫌だ」と一足してみせ、それから「セトが暖めてよ」なんて両手を伸ばしてきた。
それが抱き締めて、とかいう可愛いおねだりじゃないことは知ってる。その手を取ってしまえばもう元には戻れないこと、望んでいた形にはなれないこと。それらの全部をひっくるめたところで、目の前に差し出された両手には敵わない。
駄目だと頭では分かっていながらも望んだ形になれないことを恐れ、せめて今だけでも一番近くにいられる方法を選んでしまう。

この感情に名前を付けてはいけない。



俺は気が付いたらカノの手を掴み、ソファーへと押し倒していた。
カノは唖然としていて、あまりの自分の性急さに思わず歯噛みをした。早すぎた、少し会話を交えてからの方が自然だった。けれど、焦らしていたらカノの気が変わってしまうかもしれないという恐れもあった。
やけくそのような気持ちで顔を見られないようにカノの首筋へと顔を埋め、舌を這わせるとビクッとカノの体が跳ねる。カノに逃げられないように、必死に頭を回転させる。

「溜まってるんスから、あんまり煽るようなこと言わないでくださいッス」

手首を強く握りしめ、ずっと見つめてきた鎖骨に歯を立てた。そうしているとカノが膝で脇腹を小突いてきて、何かと顔を上げると目を真っ赤に染めたカノが真顔で「ヤるなら部屋に行こう」と言ってきた。
欺いてる。見るからに能力で取り繕われた顔に苛立ちを感じ、カノの服を胸の辺りまで捲る。そして薄く色づいた胸の飾りを指できゅっとつねった。

「ひゃっ……ぁ、ちょっと!」

カノはびくんと身体を震わせ目を閉じる。

「敏感なんスね。もしかして期待してた?」
「んっ、そんなわけないだろ!」

指から逃れるように身を捩りながらカノは部屋に移動するよう再度促す。
カノは共有スペースに誰かが入ってくるのを危惧しているようで忙しく周りに視線をさ迷わせている。自分から誘っておいて全然行為に集中出来ていない。
そりゃもちろん、誰かが入ってきたらカノもそしてセトも色んな意味で終わりだろう。だが、自分との行為を蔑ろにされているようでムッとした。

「誘ったのはカノッスよ?」
「そ、れとっ……これとは、別だ!」

飾りを口に含み、くちゅ、と鳴らす。カノはその音にかぁ、と顔を赤くするとソファーに顔を押し付けるように目を逸らした。





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