カゲプロ | ナノ


シンカノ、微妙に死ネタ
こころがなければ、きっととうにあきらめていたさ。



某日、施設が取り壊されることなった、皆ともお別れだ。

某日、キドという少女を見つけたが、お別れをした。

某日、キドと一緒に過ごした、お別れをした。

某日、施設が取り壊されることとなったがキドと一緒になった。最後まで一緒には居れなかった。

某日、セトがいた。話せなかった。出れなかった。

某日、マリーを見つけた、僕では無理だ。

某日、セトが笑った。セトは動こうとしない。

某日、施設はもう駄目だ、何回やっても直らない。

某日、やっとキドとセトと一緒に外に出たが、やっぱり駄目だった。

某日、某日、某日、某日、某日、某日、某日、某日、某日、某日、某日、某日、某日――――……。




繰り返される日々を指折りで数え初めてから、指が足りなくなってから一体幾つもの時が過ぎたことだろう。
今回も駄目だったよ、ジャック犯により足を射抜かれた。こうなってしまうと後はもうパニックになった客に逆上した犯人によって僕は殺されてしまう。このパターンは十四回目だ。
施設が壊された後、死んでしまったらしい僕は気が付いたら時間軸を遡るようになってしまっていた。最初は普通に死んで、でもそれでは駄目だと試行錯誤を繰り返すうちにキドとセトが仲間に加わっていた。
どうしてこの二人だったのかはよく覚えていない。ただ何度もやっていくとパターンが自然と頭の中に入っていき最善の選択を探すようになっていた。その過程で見つけたのがマリーとキサラギちゃんだ。この二人には出会い方の正確な順序が必要とされる。
一刻一秒でも長く生き延びるには二人の力が必要で不可欠だ。
今ではもう誰一人として失いたくはない。なのに、どうしても誰かは殺されてしまうし死んでしまう。
僕は一体どうしたら良いのだろう。

「カノさんっ!」

キドの力で隠れていたはずのキサラギちゃんが何故か飛び出してきた。
彼女の力は、人を惹き付ける。ざわっと周りの気配が変わった。
まずい、慣れない痛みが走る足では犯人を押さえることはおろか今の僕には彼女を止めるだけの力はないのだ。

「おい、あれって……アイドルの、」「如月モモだ!」「どうして、ここに」「生初めて見た」「サイン」
危機感に欠ける暢気な人質の声を他人事のように聞きながら無我夢中に走ってくるキサラギちゃん。今はまだ犯人も茫然としているからいい。だが、いつまでもは持たない。如月モモというカードは向こうにとっては願ってもいない切り札で、多分僕はこれから皆の足手まといになるだろう。それだけは許せなかった。

「来るなっ!! キサラギちゃん!! 早く戻るんだ!!」

早く死ななきゃ、リセットしなければいけない。こんな世界では駄目だ。もっと良い世界を見つけなければ。

「――嫌ですっ! わたし、私が、如月モモが人質になりますから! 他の人を離してください!」

凛とした声、僕が彼女を誘わなかった世界では彼女は自殺を繰り返していた。雑誌の特集と目撃情報を見て、もしかしたらと誘ったのがきっかけだった。
彼女は最初、僕が見つけた時、信用できないと言った。二回目はセトを向かわせた。セトには見つけられなかった。三回目はキドで、和解することは出来なかった。四回目に、やっと彼女の能力の全貌が分かった。後はテンプレート通りに会話をして、気が付けば如月モモはマリーの親友として僕らの仲間に加わっていた。
そんな彼女は十三回も僕の足が撃たれ殺される場面を目撃している。その間、決まって彼女はキドとマリーと一緒に真っ青になっていたのだが、僕は何処で間違えたんだ?

「止めてください……っ、撃たないで、カノさんを殺さないでくださいっ!」

いつの間にか、目の前まで来ていたキサラギちゃんは僕の前に立つと庇うように手を広げた。

「き、みは……何を考えてるの……君が、キサラギちゃんが死んだらマリーはどうなるんだよ!」
「私なら大丈夫です! カノさんが死ぬよりはましです!」
「やめろ……ふざけるなっ、逃げろ、早く逃げろよ!! 僕のことはいいから!」
「良くないです! カノさんが死んだら、どうなるんですか!! どうもならないわけがないでしょう!?」
「……っ、でも、僕はもう助からない! 君が道連れで死ぬ意味なんかないんだ!!」
「あります!」

キサラギちゃんの声は強く、だけど語尾が震えていた。それもそうだ。彼女は普通の高校生なんだ。銃を向けられて怖くないわけがない。
頼むから、逃げて怯えてくれ。いつ、引き金が引かれるか分からない。それでも彼女は逃げられない僕を守る。逃げようとしない。
銃で撃たれるか、失血死を待つばかりの僕なんか置いて逃げてくれればいいのに。ここで死ぬ意味なんかないのに、君はあると何の迷いもなく断言した。

「仲間を見殺しにするような私なら今此処で死んだ方が何百倍もましです!!」

あぁ、そういうことなのか。頭の中には唯一この事件から逃すことが出来た幼なじみの顔が浮かんだ。彼がもしこの場に居たのなら間違いなく足を撃たれていたのは彼で、そうしたら僕がやることは一つだ。
顔を上げると確かに見えた。緑と白の長い髪が。
振り上げられた金属が犯人の頭に触れる前、ゆっくりと引き金が動いた。

「そんなに死にたいなら、今死なせてやるよ」

「えっ……」

こんなに早く動くとは考えてなかったのだろう。キサラギちゃんは目を丸くした。

「生憎、人質なら間に合ってるんだ。寧ろ、本気だってことを知らせる必要があるだろう?」

ぐっと指に力が入った瞬間、僕はキサラギちゃんのフードを力強く引いた。あっ、と情けない声を上げながら後ろへと倒れていくキサラギちゃんと反動で持ち上がっていく僕の体。
パァン、と軽い音を上げながら弾丸が放たれ、そのまま僕の胸へと吸い込まれていく。瞬間的な熱さと尾を引いていく痛みに声もなく悲鳴を上げた。涙でぼやける視界には、倒れ伏す犯人の姿と泣き出しそうなキド達の姿。

ごめんね、



意識が飛んだ。


そうして今日もまた僕は繰り返す。
マリーがキサラギちゃんの携帯を壊し、デパートへと向かう。僕はテンプレートの流れに沿うよう、ゆっくりと彼女達の後ろ姿を眺めた。
キドがふと振り返る。僕は皆から目を離し、周りに誰かがいないのかを確認する振りをした。

大丈夫、今度こそ必ず救ってみせるよ。

目的地の自動ドアを掻い潜り、冷たい空調機の風に目を細めていると、キドが声を上げた。人にぶつかってしまったらしい。
僕が急いでフォローに回ろうとするとキサラギちゃんが唖然としているのに気が付く。どうしたんだろう、何があったんだろう、と視線の先を追うとそこには赤いジャージを着た、無愛想で何処か挙動不審な男が立っていた。
キサラギちゃんが小さく「お兄ちゃん……?」と呟く。
カノは暫く呆けたように固まっていたが、男が視界から消えるとすぅ、と笑みを浮かべた。

もしかしたら、助けられるかもしれない。



延々と繰り返してきたカノの話。
シンタローがカノにとってイレギュラーだったらいいなって妄想してたら出来ました。多分、この話でシンタローがイレギュラーになれたのはアヤノとエネが居たからで、それが同時に起きたのはある意味奇跡なんじゃないかなぁ、みたいなノリ故、シンタローが出てくる確率もまた凄く低そう。アヤノが自殺に至るまでの理由に届かず、エネがシンタローのところに辿り着かない世界とかもありそうですよね。
ちなみに話はデパートでシンタローがぶつかるところまでなんでシンタローは喋りません(笑)
でも、カノにとっては王子様ポジション間違いなし!←




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