カゲプロ | ナノ



※温いR-15


 がたん、がたん、と揺れる電車の、人気のないシートに身体を預け携帯を確認する。

「今日中には帰れそうにないね」

 そう声を掛けるが返事はない。隣に座っているセトは気難しそうな顔で車内の電光板を見つめ、何やら携帯を忙しく弄っている。

「どうしたの?」

 携帯を覗き込もうとするとセトはバッと顔をあげ、携帯を懐に仕舞った。口を開こうとするとタイミング良くぷしゅー、と電車が止まる。疎らな人影が更に減り、数人だけ乗る。離れた席に腰を下ろすのを見届け、セトの方を向くとセトが立ち上がった。

「セト?」
「電車、間違えた」
「えっ!?」

 何を言うでもなくセトは僕の手を掴むと扉へと足早に向かう。だが、この電車を降りたからといって引き返せるわけでもない。何故ならこの電車は終電で、僕らが降りた駅は本数の少ない駅だ。もう電車は来ないだろう。

「ちょ、これ終電! てか、何もこの駅で降りなくてもよくないっ?」

 扉をくぐり、戻ろうと促すタイミングで扉が閉まり、電車がゆっくりと進む。あーぁ、とセトの方を見遣るとセトはホームから見える位置にあるホテルを眺めていた。

「セト、どうしたの」
「いや、泊まるところ探さなきゃッスね」

 まさかタクシー拾うわけにもいかないッスから、セトは僕の手を握ったまま改札へと歩く。
 さながら弟を引率する兄のような構図ではあるが敢えて文句は言うまい。キドに何て伝えようか考えながら真っ暗になった夜空を見上げると自棄に電光板やネオンサインが多いことに気が付いた。

「ねぇ、セト」
「なんスか」

 改札を抜け、駅郊外を歩いているセトの足は何処か探し物をしているかのようだ。泊まるところを探しているのだろうけど、なんか違和感を覚える。特定の、決まった何かを探すように見えて仕方がない。そういえば電車の中でも熱心に携帯で何か見てたっけ。

「本当に電車間違えてたの?」

 びく、とセトの肩が揺れたような気がした。やはり、と息を吐く。

「なに、欲求不満?」

 セトが苦々しそうな顔で此方を見る。その表情から察するに外れというわけではないのだろう。

「もう少し情緒のある言い方をしてほしいんスけど……」
「はぁ……本当なんだ。家まで我慢出来なかったわけ?」

 家でやるかって言われたら悩むところだけど。だって二人きりというわけじゃないわけだし。呆れたように、出来るだけヤル気ないですって感じにアピールして興でも削がれてくれればいいのに。それでもセトは首を振りながら繋いでいた手を引き寄せ、ぎゅっと僕の身体を抱いた。道路の真ん中で。

「ちょっ、何処で盛ってんだよ!?」
「アジトじゃ、カノ、声押さえるじゃないッスか」

 セトはそう言いながら身体を道端の電柱の影まで持っていくと首筋に顔を埋め、ちゅう、と鎖骨の辺りを吸った。

「あっ……セト、やめっ! ここ何処だと思っ、んっ!」

 腕を突っ張り、セトを退けようとするがセトはよりいっそう強く抱き締める。塀に背中を預けるように押され、足を割り開くようにセトの足が入れられた。セトの指が歯列をなぞり、人差し指がぐっと舌を押した。

「……ぇ、ぐっ……!」
「カノ。ここで声を出しながら犯されるのとホテルで一緒に楽しくヤるのとどっちが好きッスか?」

 答えたくないし、まず人の口に指を突っ込んどいて何を言ってるんだ! そういう意味合いを込めて睨むとセトが笑いながらホテルが良かったら頬にキスしてくださいッスと言い指を抜いた。究極の選択ではないか。
 外でヤりたくないし、でも路上でセトにキスしろとか。悩んでいるとセトは頬じゃなくて、と閃いたように笑うので仕方なく胸ぐらを掴みあげるとセトの顔を引き寄せ、一瞬だけ唇を落とした。

「ホテルならキスって普通、逆でしょ……っ!?」

 誤魔化すように言えば見るからにニヤけたセトが幸せそうな顔で僕の身体を抱き締めた。

「だって、カノの貞操観念分かりにくいんスもん。カノからしてほしかったッス」

 馬鹿じゃないのか。分かりにくいのはお前の方だ、と口には出さず、冷えるから急ごう、とセトを急かした。


星降る夜のありふれた幸福


「カノ」
「なぁに」
「ホテルに入るときは欺いててほしいんスけど、いいッスか?」
「女の子に?」
「そう、女の子に」
「巨乳? 貧乳? ロング? ショート? 身長は?」
「貧乳ショートの茶髪で少し猫っ毛の低身長。ちょうどカノみたいなのがいいッス」
「君も好きだねぇ」
「そりゃカノが好きだから、俺の基準は常にカノを中心に回ってるんスよ。街で可愛い子を見つけても『あぁ、カノの方が足きれいだなぁ』とか『カノの方が目が大きい』とか気が付いたらカノと比べちゃってて……って、あれ。どうしたんスか。顔が真っ赤ッスよ?」
「お、女の子と比べないでよ! 可哀想だろ!」


(あーもうっなにあいつ! 恥ずかしいとか思わないの!!)


「か、かの……なんか、俺、怒らせるようなこと言っちゃったスか?」


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面倒臭い貞操観念のカノ。
キス:口はいいけど、頬はいや。触れるだけならいいけど、舌は入れないで。
キスマ:首筋はいいけど、鎖骨とか胸とか太股はやめて。
愛撫:耳はいいけど、胸は触るな。まじ触るな! 男の乳首で喜ぶな!!

エロ本読んでもいいけど、僕以外で抜かないでね。

入れるか悩んだけどカノさん完璧面倒臭い彼女みたいになってるじゃないですか(笑)



お題は花洩様より




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