カゲプロ | ナノ



※シン♀カノ





「は、え……嘘だろ? お前、それ……」

驚いたように身を跳ね、距離を置くシンタロー君。でも、その手の形は依然僕の胸を掴んだ時の形状を留めており、彼自身信じられない気持ちで一杯なのだろう、手は感触を思い出すように数回握ったり開いたりを繰り返していた。
僕は肩の力を抜きながら連動するように能力を解除した。能力を使うことにより圧迫されていた空気がふわりと力を失い、いつもより身体が軽い。
髪の毛を拭っていたタオルを無造作にシンタロー君に投げつけ、ソファーに腰を下ろした。

「あーもう、君は何処までギャルゲの主人公を地で行くわけさ」

呟いた言葉はきっと何時もより何トーンか高く聞こえていることだろう。



僕、鹿野修哉は所謂女の子である。
生まれた時からずっと、胸だって女性器だって、実際に見たことはないけど月経があることから子宮だってある筈だ。だけど、僕にとって女の子であるという事実はあまり芳しくない。寧ろ、マイナスだった。
修哉という名前から分かるように僕の親になる筈だった人は僕を男の子として欲していたらしい。
物心つく頃には一人だった。色々あってキドと出会って、セトと出会って、僕の中の性の知識は二人を中心に染まっていく。
女の子とは、キドのように愛らしい子のことをいうらしい。自身の短く跳ねた茶髪と、キドの真っ直ぐな緑色の髪を比較して止めた。違う、僕は女の子じゃないらしい。
男の子とは守るものだとセトは言った。びくびく震えてる癖に、と笑うとセトは今に見てろと息巻いた。
守るもの、守りたいもの、そう思った時、二人の顔が浮かんで、嗚呼、そうか。僕は二人を守りたいのか。
でも、僕は女の子で、女の子だから捨てられて、女の子みたいに愛らしくなくて、嗚呼、嗚呼、嗚呼、

女に生まれたくなんてなかった。



「ねぇ、シンタロー君。君の目には今、僕はどんな風に映ってる?」

上に着ていたサイズの合わないぶかぶかのパーカーを脱ぎ捨て、Tシャツ、タンクトップと順に脱いでいく。そんな僕をシンタロー君は絶句したように固まって見ていた。
キドよりもずっとカップの小さなブラジャーは、キドが何時も何も言わずに買ってきてくれるもので、悔しいことにサイズが合わなかったということは一度もない。可愛らしくレースのあしらわれたワイヤーのブラジャーのホックに手をかけると、やっと現実に戻ってきたシンタロー君が慌てて手を抑え込んだ。
それでも、ホックに掛かっていた手を引かれると勝手にブラジャーは外れ、肩紐のずれたそれが不格好に胸の前で揺れた。

「な、に……してんだよ」

何時もより低い声。髪の毛で隠れて見えないけど、多分凄く怒ってる。そう思うと、堪らなく疼いた。

「……今、誰かが来たらシンタロー君、通報されちゃうかもね」
「そんなこと聞いてるんじゃない……そんなことが聞きてぇんじゃねぇよ」

掴まれた手に力を入れられ、骨が軋む音がする。うっと小さく唸るとシンタロー君はハッとして手の力を弛めた。
その、今にも壊れそうなものを見る目が気に入らなくて、右足を捻るとそのまま膝をシンタロー君の脇腹へと叩き込む。

「ぐぅっ!?」

不意討ち過ぎる攻撃にシンタロー君は情けなくなるような声を上げながら床へと転がった。蹴られた脇腹を抱えながら恨めしそうに睨んでくる。
爪先でシンタロー君を仰向けに転がし、肩に掛かっているブラジャーを床に投げ捨て、シンタロー君の上に跨がった。

「お前……ほんっと、ムカつく……」
「ありがと」

シンタロー君は裸の上半身を視界に入れ、顔を真っ赤にしながら顔を逸らす。

「変態、こんな体でもシンタロー君って興奮しちゃうわけ?」

シンタロー君の手を掴み、乳房へと運ぶ。中途半端に膨らんでしまった歪な胸に。

「なんだよ……その、こんな体って」

目を逸らしたまま、シンタロー君は気まずそうに口を開いた。どうやら、無言の方が恥ずかしいという結論に至ったようだ。

「シンタロー君、見て。真っ直ぐ、正面から」

シンタロー君の手に胸を押し付けながら頬に手を添えた。ゆっくり、でも確実にシンタロー君は此方を向いてくる。真っ赤に潤んだ切れ長の瞳が、心地悪そうにぎゅっと細められた。

「ほら、こんな中途半端なの……変でしょ?」

見られたくないけど、見られたい。
胸を騒がせる不安が時の流れを遅らせる。
聞きたい嫌だ聞きたくない聞きたくない怖い嫌だ知りたいもっと嫌だ聞きたい知りたくない受け入れられなかったら?

「何処が、何処が変なんだよ?」

むすっと結ばれた唇から溢れたのは、

「え……だって、こんなに、僕だって、え? いや、なんで、小さい僕いや、こんなの絶対に変だよ」

認めたくない。認めたい。認めてほしい。頭が真っ白で、ショートしそう。だって、こんなの想像してなかったから。
言葉が可笑しくなる僕にシンタロー君は落ち着けと笑い、それから自信満々に

「二次元じゃ、貧乳はステータスなの知らねぇのか?」

と言った。
とりあえず、僕は「さいてー」とだけ言っておこう。


欺いておりました






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