カゲプロ | ナノ




※セト←(カノ+マリー)?



「寝ちゃったね」

カノはソファーで眠るセトの顔を確認しながら困ったように笑った。
私はカノの隣に並び、同じようにセトの顔を確認してくすりと笑った。

「うん、寝ちゃった」

覗き込んだセトは、初めて会った頃のような幼い顔立ちではなくなってしまったが、こうして顔を弛緩させ目を閉じている姿だけは今も変わらない。そのほんの少しの面影だけで私は幸せを感じられた。

「よっぽど疲れたんだろうね。風邪なんか引かれたら大変だから毛布持ってくるよ」

カノはセトを名残惜しそうに見つめていたが、体調を優先したらしい。くるりと身を翻すと部屋の方へと歩き出した。

「あ、待って。私も行く」

私は慌ててカノの後ろに付く。カノは横目で私を見て、「別にセトを見てても良いんだよ?」と言った。
セトの寝顔は確かに見ていたかったが私にはそれが不公平に思え、またセトに毛布を掛けるという仕事をカノに取られるというのも癪だったから仕方がない。
私は自分の子供っぽさを隠すように「カノだってじっと見てたくせに」と返した。見てても良いんだよ?、なんて言葉は付け足さなかった。理由はカノなら「あ、そう?」とか言いながら本当に任せるかもしれないからだ。

そんなことを考えているうちにカノはセトの部屋から毛布を一枚持ってくると「マリー、ちょっと悪いけど部屋の扉を閉めてくれないかな?」と言った。
部屋の扉を閉めると両手で毛布を抱き込んだカノが「ありがと」と笑う。
私は少しだけ上に見えるカノの顔を見上げながら手持ちぶさたにセトの毛布に触れた。カノはそんな私を見て、小さく笑うと、

「マリーも向こうに着いたらセトの毛布でお昼寝しちゃう?」

なんておどけてみせる。

「カノは?」

私が訊ねるとカノは数秒考えるような素振りを見せ、ゆっくりと首を振った。

「ううん、僕はまだ眠くないからいいよ」
「じゃ、私も寝ない」

変な意地だ。我ながら恥ずかしく思うけれど、カノは特に言及するわけでもなく「そっか。じゃあ、一緒にお茶でも飲もう」と提案してきた。
私はそんなカノの雰囲気にいつも助けられているんだと思う。救われてる、追及しない距離感に一定の心地好さすら感じている。
こういう時、私は自分の幼さが心底嫌になるのだ。

さて、セトが寝ている場所まで戻ってきた私達はセトがまだ寝ていることを確認すると顔を見合わせながら笑った。

「まだ寝てるね」
「うん、まだ寝てる」

カノは抱えていた毛布をばさっと広げると端を掴み、片方を私に差し出した。

「マリー、そっちをセトの肩が出ないように掛けてくれる?」

私はセトに毛布を掛けられる喜びと、カノが私にセトの近くを譲ってくれたという申し訳なさとの板挟みになりながらも結局嬉しさが勝り、カノから毛布の端を受け取った。
そっと肩の辺りに毛布を乗せるとカノは「お疲れ様」と私の頭に手を乗せた。
全然、私はカノの好意に甘えてばかりだよ。嬉しかった筈の気分も申し訳なさからくる羞恥には勝てず、私は顔を伏せた。
そんな私を察してか、カノは殊更明るく、

「さて、マリー。美味しい紅茶でも飲もうか」

と言った。私が顔を上げると「勿論、マリーの紅茶をお願いするよ」なんて笑いかけてくる。
私が唯一、カノに勝てること。それは森で何年も何年も繰り返し淹れ続けた母の紅茶。
カノは優しいから、私が得意な流れに持っていってくれる。私はそれに敢えて気づかないふりをしながら、世界一の紅茶を飲ませてやろうと息巻いた。





「ん、」

セトは緩やかな意識の覚醒の中で目を醒ます。

周りを見渡すと見慣れたアジトの共有スペースが目につく。どうやら自分はソファーで眠ってしまったらしい。
ゆっくりと体を起こすと肩からぱさりと毛布が落ちた。

「あ、セト。おはよう」

声に顔を上げれば反対側のソファーに腰を掛けながら雑誌を読んでいるカノがいた。カノは雑誌を閉じ、空のティーカップが二つ並んだテーブルの上にそれを置くと、

「起きたんなら悪いけどさ、その毛布、あの子に掛けてくれないかな」

と此方を指差しながら言った。否、正確には俺のすぐ横で寄り添うように舟を漕いでいる少女、マリーのことだ。
カノはマリーを見ながら「ちゃんと寝坊助のセトの面倒を見ててくれたんだから感謝しなよ」と笑う。その笑みは何処か優しさを帯びていて、此方も嬉しくなる。

「そっスか。マリー、お疲れ様」

マリーの柔らかな髪を撫でながらソファーから立ち上がり、そこにマリーを寝かせると上から毛布を懸ける。
それからカノの隣に座り、カノの頭を無造作に撫でてやった。カノは迷惑そうな顔をしながら手で払うような素振りをしたが拒絶はしなかった。
それが可笑しくて撫で続けていたら「調子に乗んな」と肘で突かれた。地味に痛かったので思わずカノの方を見るとカノは少しだけ微妙な顔をしながら「セトのくせに」と言う。
照れるでも怒るでも何でもない。カノは時折酷く感情があやふやで、だから能力で補ってしまうのかもしれない。マリーが来てから大分豊かになってきてはいるのだが、こうして自身でも良く分かっていない感情を能力で誤魔化さないということは信頼してくれてると取って良いものか。
世話の掛かる弟のようで、されど自分を外に連れ出してくれた兄でもあるカノの面倒臭いところを再確認しながら、ぐっすりと眠るマリーが起きたら三人で一緒に散歩に行こうと何となく思い付いた。


頑張りたがり屋さん



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キドさん本当にごめんなさい。リアル忘れてました。

そしてマリーにとって何だかんだでセトカノがお兄さんだったら可愛いなって思いながら書きました。
カノが少しセトに対してツンツンしてるのはセトカノにし過ぎないようにと努力した名残です(笑)

セトにとってカノとマリーは可愛い弟と妹だったら良いですよね。
カノは、どうでしょう。セトもマリーも案外兄弟なんて枠にいないのかもしれませんね。





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