カゲプロ | ナノ



ヒビカノ



時たま酷く置いてきてしまったもう一人のことを思い出し、一人になりたくなることがある。
そんな日は決まって夜寝静まったアジトを抜け出し、外の空気を吸うようにしていた。
それは今日も例外ではない。俺は何時ものようにこっそりとアジトを抜け出すと住宅街の裏に回る。
だが、今日は少しだけイレギュラーが発生した。

「カノ、さん……どうして、ここに」

住宅街の角を曲がるとそこには見慣れた猫目の嫌らしい笑みを浮かべた男がいたのだ。

「やぁ、ヒビヤくん。取って付けたようなさん付けありがとう」

君が裏で僕を呼び捨てにしていることが如実に分かって、僕は嬉しいよ。
嫌味ったらしい笑顔を浮かべながらカノ、さんは言った。
俺は地味にこの人のことが苦手だ。好きか嫌いかでは限りなく好きからは遠い早く自爆しないかな、に分類される程度には。

「ははは、なんか凄く嫌そうな顔してるね。僕、ヒビヤくんに嫌われるようなことしたかなぁ」

「そう思うなら、少しは申し訳なさそうな顔でもしてみてください」

ごもっともだ、とカノ、さんは笑いながら俺の横に来た。いや、来ないでください。

「でもヒビヤくん、もう夜も遅い。悪いことは言わない、コノハ達が心配する前にアジトに戻るんだ」

ふと真顔になって、保護者面する。

「それはカノ……さん、も同じでしょう?」
「それ、そんなに言いにくいなら止めてもいいんだよ?」

反論は受け付けない。何となく、カノ、さんがそう言っているような気がした。
たまにみせる、この人の高圧的な雰囲気が嫌い。人を心底見下したような態度を、無意識に行ってしまう人間性が怖い。
多分、俺はこの人が嫌いだから呼び捨てに出来ないんだ。

「ねぇ、ヒビヤくん。空はね、夜でも青いんだよ」

それでいて、諦めが早い。
不穏な空気を一瞬にして消してしまえるのは、俺を子供と判断して相手にしてないからだ。
言うよりも付いている方が安全で早いと結論を出していて、もし俺がすごすご帰るようならそれはそれで、俺はそれまでの存在にしかなりえない。ムリゲーも甚だしいチキンレースさながらの、

「空が青いのは、きっと優しく泣いてくれるからだろうね」

貴方は泣かない。

よく分からないけどそう思った。

「まるでド●えもんみたいですね」

「君には夢がない。夢を見るのは若者の専売特許だ」

少年よ、大志を抱け。ただし、身の程を弁えて程々に。
なんてカノ、さんは付け足した。
全く夢がないのはどっちなんだか。






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