カゲプロ | ナノ




「愛してるッス!」

真っ赤な花束を差し出しながら言った。

「ごめん、ムリ」

と、コンマの猶予も与えず切り捨てる口調にがっくりと肩を落としながら「今日のは何がいけなかったんスか?」と訪ねる。

「今時、花束とか古くない? いや、別に古き善き時代を否定してるわけじゃないけどさ。うん、僕も嫌いじゃないよ。ただ、赤っていうのがいただけないなぁ……。あ、明日は青とか黄色とかにしようとか思ってるなら止めてね。花は嫌いじゃないけど、場所は有限だから」

カノは特に気にした様子もなく花束を受け取ると近くの花瓶を手に取り、台所へと向かった。俺はさも当然とばかりにカノの後ろに続く。

「うん、生きは良いみたいだね」
「そりゃ、店長に頼み込んだッスから」
「何週間持つかな?」
「ちょ、なんで枯れる前提なんスか!?」

瑞々しい茎の断面に触れながら笑うカノに少し誇らしげに胸を張ると、調子に乗るなとばかりにカノは意地の悪い笑みを浮かべた。けど、そんな表情すら俺には年相応に幼く無邪気に見えて、ああやはりカノが好きだ。
思わず、想いを伝えようとするとカノはすかさず人差し指を唇に押し当て、「駄目だよ、セト。そんな衝動的な感情に身を任せてたんじゃ、僕は一生かけても君を信用することができない」と言った。

「理性的な感情に愛が含まれている、なんて微塵も思ってもいないくせに、よくもまあそんなこと言えるッスね」
「あれ? セトはそれを証明してくれるんじゃなかったの?」

信じてもいない笑顔。それがカノの全てだった。
俺はそれを引くるめて、

「今から愛される準備でもしてろッス」

と、カノが手に持っていた花瓶を取り上げ、部屋の窓際の一番日当たりが良い場所に陣取った。


君が愛されるまで、

俺が愛されるまで、



――――――……





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