カゲプロ | ナノ




シンカノ


ポッキーの日というのは些か理不尽だ。なんて下らない思考回路。
こういうふざけたイベントは正直、嫌いだ。
それはただ単に自分が非リア充という理由からくる妬みなのか、はたまた同じ形状なのに圧倒的にこの11月11日という日に敗北している菓子に対する同情なのか。それとも、

「シンちゃん、あーん♪」

目の前でゆるっゆるの表情筋をぶら下げ、だらしない顔で俺にポッキーを差し出しているカノに対する苛立ちなのか。
俺は全力で最後のをプッシュしたい。

「うぜぇ!カノうぜぇー!」
「えー?シンタローくんポッキー嫌い?」

ポッキーを片手にあざとく小首を傾げる仕草に思わず殴りたくなるが、俺は歳上。年長者だ。クールに、そう冷静に、もっと余裕を持ってみようぜ。

「あ、もしかしてチョコとか甘いものが無理だった?なら、ごめんね。無神経だったよね?うわぁ…見るからにシンタローくんが非リア充で可哀想だなぁとか思って少しでもこういうイベントに参加させてあげようとやってみたんだけど、これじゃ逆交換だったよね。ごめんね、シンタローくんが本当に童貞で彼女いない歴=年齢とかそういうオーラでならポッキーの日なんて祝ったことないんだろうなって、」

「カノうぜぇえええ!!!」



ポッキー関係…ない?
そして、シンカノじゃない件←


カノ捏造


鹿野という名字は所謂当て字である。幼少期に捨てられた自分にちゃんとした戸籍も名前も存在しない。
僕を拾ってくれた人が言うには、僕は薄い毛布と『かの しゅうや』と、それだけ書かれた紙を残し捨てられていたらしい。
本来、そんなこと言っていいのかと思われるだろうが僕の拾われた施設は自分でいうのもなんだが粗悪な環境下だった。
拾ってくれたのが奇跡とも思える、そんな場所。
一日一食ご飯が貰えるかどうか、そんな次元で僕は生きてきた。
これは、キドと出会う前の話である。



みたいな暗い話が読みたいです。でも、個人的には甘いのも捨てがたい。

セト(10)×カノ(25)



「しゅうや」

と呼ぶ拙い声にカノは読んでいた雑誌を閉じた。
それから声の方へゆっくりと振り返り、そこに姿がないことを確認すると視線を足元に落とした。そこには目を爛々と輝かせながらカノをじっと見つめる小さな少年の姿。
カノはにっこりと笑いながら少年の脇に腕を通すと、軽い未成熟な身体を持ち上げ自らの膝の上にのせた。

「どうしたの?」

少年はポカンとしていたが、カノの膝にいることを認識すると嬉しそうにカノの首筋に抱き付いた。
勢いよく抱きつく少年にカノは少しだけ苦しそうに顔を歪めるも、すぐに笑顔を浮かべ、宥めるように背中を軽く叩いた。

「…セト、苦しいんだけど」
「しゅうやしゅうやしゅうやしゅうや」

少年――セトは、瀬戸は“しゅうや”こと鹿野修哉のそんな小さな抵抗が嫌だったのか、より一層その細い腕に力を込めた。
独占欲の強い、子供らしいともいえるセトの束縛は案外嫌いではない。寧ろ、些細な繋がりとはいえ、こうして小さな身体から与えられる無邪気な温もりは人間をみるカノにとって何よりの癒しであった。

「セト、何かいいことでもあったの?」

カノはセトを名前では呼ばない。
それを強調するかのように言葉の端々にカノはそれを散りばめておく。多分、セトはそれを知らない。



六年後、セトが高校に上がってカノが三十路突入!更にセトがあっさりカノに身長を抜いたり、呼び名をしゅうやからカノにしたり、マリーと出会ったり!謎の恋愛感情に戸惑いながらもカノを口説いたり!
年の差ぷめぇ!
キドさんはカノの幼なじみ。
セトはカノの元恋人でありやや歳上の先輩♂の忘れ形見です。ちなみにセトが生まれた段階でカノは15歳。セトが3歳の時にセトの両親が亡くなり、身寄りのないセトを18歳のカノが引き取りました。
だから、恋愛対象にはなりえない大切な存在である。だが、セトが我慢できなくなってカノを襲って、拒みきれなかったカノが自己嫌悪!みたいな話も悪くないと思いました



・何のCPで書こうとしたんだろ…


『蚤のサーカス』というものをご存知だろうか。
まず、透明な蓋をした箱を用意する。そこに蚤を閉じ込めるわけだが、蓋を蚤が跳ねたら頭を打つような高さに調節する。
すると何度も蓋に頭を打ち付けるうち、蚤は蓋に頭を打たない程度の高さしか跳ばなくなり、次第に飛ぶことを止める。
一つだけ、一つだけその蚤を元に戻す方法がある。それは蚤を他の調教されてない蚤と同じ場所に置いておくこと。
逆にいえば、これをやらなければ蚤が元に戻ることはない。
跳べば頭を打つ。痛い。失われた本能の中には、そんな刷り込みがあるのかもしれない。

だから、もし、君を壊して俺だけの箱に閉じ込めてしまえば君は本能を捨て俺だけのものになってくれるような気がしてた。


―モモカノ―


笑顔が綺麗ですね、と言うと彼は少しだけ寂しそうに口を結んだ。
それから、その寂しそうな面立ちすら隠して彼は、

「ありがと」

と、やっぱり綺麗な笑みを浮かべてみせるのだ。
でも、なんだか、その笑顔が偽物のように思えて、

「…っ!?き、キサラギちゃん!?」

気がついたら、カノさんを抱き締めてた。
真っ赤になりながら焦る顔は世辞にも綺麗とは言い難かったけど、さっきの笑顔より何番も素敵。
ずっと人間らしい。
こうして、触れあった体温すら愛しい。
きっと、これって、

「私にその笑顔をください」

愛ですよ。
腕の中で口を開いて固まってるカノさんがゆでダコみたいに真っ赤になるまで、カノさんが私を欺くまで、カノさんの声が震えてるのに気がつくまで、
とりあえず、貴方は私のものです。


―シンカノ―



「怪談ではさぁ、よく『こっくりさん』が引き合いに出されるよね」

雑誌の心霊記事を見つめていたカノが唐突に切り出す。

「…まぁ、メジャーな話だしな」
「そうそう、『こっくりさん』は有名だね」

だけどなぁ。なんて何処か納得のいかない箇所でもあるのか、カノは首を傾げながら記事を再三睨み付ける。

「確か、『狐狗狸さん』…低級の霊を下ろす降霊術の一つだったか?」

でも、俺が思うに…。

「低級の霊から未来を聞こうだなんて、聞いて返すだけなんて、」

「可笑しな話だね」

それじゃあ、利害が一致しない。
簡単に教えるわけないし、素人相手に下手に出て、あっさり帰ってしまうなんて。ほどほど有り得ないんじゃないかなぁ?

遮るようにして続けるカノに少しばかり呆気に取られた後、「そうだな」と平静を装いながら相槌を打った。

「だから、『こっくりさん』は禁止なんだろうな」



セトカノ



『一緒にいるのは辛い』



夜、俺の部屋にやってきたカノは数分迷った末にそう告げてきた。

「え……それって、」
戸惑う俺にカノはぎゅっと眉を寄せ、俯いたまま絞り出すような声で「別に、セトが嫌いなわけじゃないんだ」と言った。
なんすか、それ。意味、わかんないっすよ。
嫌いじゃない? 嫌いじゃないというなら何でそんなに辛そうなんすか?
「セトが好き、セトのこと大好きだよ。でも、一緒にいたら……壊れちゃいそうなんだ」
幸せすぎて、辛くなった。

カノの概念とか、そういうのは一切理解できないし、したいとも思わなかった。
でも、泣きそうな顔で、
「一緒にいたら、可笑しくなりそう」

なんて言ってくるカノに、俺はなんて返したらいいのか分からなくて。
知らないままでやり過ごそうとしていた数分前の自分が誰よりも憎らしかった。






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