カゲプロ | ナノ



※キド→カノ



リビングの隅に投げ出された雑誌を拾い上げる。

ところどころ折れ曲がってしまったページを指で広げながら、ソファーに視線を投げる。
そこには、誰もいない。もう誰もいないのだ。
この雑誌の持ち主は座ってないし、きっとこれからも座ることはないだろう。
彼奴は出ていってしまった。メカクシ団を辞めると言って出たきり、もう一週間も戻ってきていない。戻るつもりがないのだろう。
いつも一人分多く作ってしまう食事をラッピングして、後悔する。
こんなことなら、あんなこと言わなければよかった。

一週間前の夕食後、何が起因してかは覚えてないがカノと口論になった。
ただ、その時はこんな風になるとも思わず、カノの繕ったような笑顔と余裕が気に障るばかりだった。
セトが何度も止めようとしたし、マリーやキサラギは耳を塞ぎながら泣いていたような気がする。来たばかりで勝手が分からず、唖然としていたコノハとヒビヤには申し訳ないばかりだったが仕方あるまい。シンタローはエネに怒鳴られ、カノと俺をセトと一緒になって引き離そうとしていた。
結局、セトとシンタローが二人がかりで俺を押さえ、一番大きなコノハがカノを持ち上げた。
俺は、手が出せないから、悔しくて叫んだ。

『出て行けっ!もうお前の顔なんて見たくないっ!!』

するとカノの顔が、くしゃりと歪んで、

『分かった…キドがそういうなら、いや、言われなくたって…僕は出ていくよ。メカクシ団だって辞めてやる』

静かな口調で、確かな怒気を含んだそれが今も胸を抉る。
カノはコノハに小さな声で『大丈夫だから、おろして』と言い、コノハが困ったような顔で拘束を緩めると間からするりと器用に抜けた。

『僕の荷物、勝手に捨てていいから。ヒビヤくん、自分の部屋欲しいって言ってたよね?いいよ、あげる。自由に使って』

誰も何も言えなかった。
カノはそんな隙さえ許さなかったのだ。

『っ!か、かの…』

マリーが不意にカノに近づき、ぎゅっとカノの裾を掴んだ。
ついさっきまで俺と喧嘩していたこともあり、カノに対して少しだけ遠慮ともとれる距離を作っているようにも見えた。多分、カノも同じことを考えたんだと思う。
ふっとマリーを安心させるように笑みを浮かべたあと、

『ばいばい』

とマリーの手を優しくほどいた。

『もう二度と君たちに会うことはないんだろうね』

そういって、アジトからカノは出ていってしまった。
荷物なんて、もちろん何も持たずに。追いかけようとした団員に俺は、

『追うな、彼奴はもう団員じゃない』



思い返せば、変な意地を張っていたのはいつも俺だった。
そのたびにカノを振り回して、ねじ曲げて、誤魔化してきた。だから、カノが突き放してしまったら、最初から終わってしまう関係だった。
それが腐れ縁なんじゃないかと錯覚できるくらい長く続いてしまった。錯覚してしまったから、崩れてしまった。
もし、あの時、追い掛けていれば。なんて思わない日はない。
あんなに憧れていたフリルのスカートさえ、ただの布切れに見えた。俺は何に憧れていたんだろう。それをスカートを穿いた自分をどうしたかったんだろう。

アジトでカノの痕跡を見つける度に嫌気が差す。

「…お前の顔なんて見たくない、はずだったんだ」

でも、それでも、

『きーどっ!何、辛気くさい顔してんのさ』

肩を叩かれ、振り返ればそこにお前の笑顔があるような気がしてならないんだ。
きっとそれは下らない関係をだらだらと続けてしまったから。


カノの雑誌を持ったまま、ある部屋の前まで移動する。
その部屋に人はいない。ここの住民は住むことを拒否した。
だから、ずっとそのままにしてある。
部屋には大きな本棚がある。彼奴は読書が好きな奴だった。
放り出された携帯は枕元に置かれたまま、主の帰還を待っている。
雑誌をその携帯の横に並べ、ゆっくりとベッドに腰をおろす。

「なぁ、カノ…お前は今、何処にいるんだ?」



手を離したから終わりがきた




失って初めて気がつくものだと、失ってから気づいた。


―――――……



別にカノが死んだわけじゃないんだから探しに行けばいいんだと思う。
でも、それをしないのは、やっぱり当サイトのキドさんが意地っ張りなんだからなんじゃないかなぁ…。




お題はDOGOD69様より





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