カゲプロ | ナノ




※能力が消えた後の話
公式の展開とは一切関係御座いません。
捏造です。



自分には能力なんていらないと思っていた。能力に頼っているつもりなんてなかった。
でも、

「なくなってみると、案外不安なもんなんスね」

ソファーで寝ているカノの頭を撫でながら呟いた。
時計の針のチクタク進む音と寝息が支配する空間で水準値以下の思考を張り巡らす。
能力が消えて、俺が最初に思ったのはカノの素顔なのに、カノは今でも仮面を被り続けたまま。確かに、前みたいに完璧に隠蔽することこそは出来なくなってしまったが、それでもカノは偽物の笑顔を浮かべる。
それほどまでにカノにとって人の目を欺くという行為は習慣となってしまっていたのか。
俺は今、カノの心が覗けないっていうのが辛くてならないんス。
あった頃はこんな能力と忌み嫌っていたはずだというのに。

都合よすぎ。

なんて、カノは笑うのかもしれない。内心、何を考えているかも分からない笑顔を浮かべながら。

「もうすぐ、夏が終わるッスね」

最近ではめっきり聞かなくなった蝉の声と変わって、鈴虫や蟋蟀の声がガラス越しに聞こえてくる。
本当は窓を開けてしまいたかったが、それをしてしまうとキドが怒るので我慢だ。

「今年は皆で秋祭りに行けるといいッスね」

夏祭りは色々あっていけなかったから。能力が消えて、それから色々あった。

「そしたら、俺は少し旅に出たいッス。またか、とか言われるかもしれないスけど」

自分探しの旅に出たい。
能力が消えて、やっと一から自分と向き合えたような気がするから。

「俺が帰ってきた時、カノが笑っていてくれたら嬉しいッス」

それだけ伝え、カノから手を退ける。ソファーからゆっくりと立ち上がり、ブランケットをカノにかけてやる。

本当、カノの心が覗けたら。目を盗めたら楽なんだろうけどな、とか今更ながら思ってしまう。

「やっぱり、我が儘なんスかね」





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