ヒビカノ
あの人の笑顔を一言でいうなら、胡散臭い。
まるで無邪気な子供を演じる大人のようだ。
「夏って字がもう暑いよね」
「馬鹿乙」
「ちょっと、変なオチ付けないでよ」
いじけたように口を尖らせるのとか、わざとらしくて。
「あ、そうだ。実はアイスがあるんだった!ヒビヤくんも食べるでしょ?」
「カノさんが暑苦しいんで食べます」
あ、今、ピクッてなった。カノさんの笑顔が微妙に引き吊った。
さすがに堪えたらしいが、次の瞬間にはもう取り繕ってて「イチゴとメロン、あとソーダがあるんだけどさぁ」なんて笑いかけてくる。
「バニラがいいです」
今のカノさんの表情は明らかに怒気を含んでいた。
嗚呼、愉快。
子供相手に怒れないカノさん。拳がぷるぷると震えていて、きっと団長とか阿吽のおばさんなら殴っていたと思った。
やっぱり、大人。
「そっかぁ。でも、今ないんだよねぇ?」
諦めろ!諦めろ!
こんな感じだろうか?無論、
「じゃあ、買いに行きましょうよ」
カノさんの手を引きながら、にっこり。子供の愛くるしい笑顔。
「へ、へぇ…そんなに食べたかったんだぁ?」
「はい」
人殺しみたいな顔のカノさんに間髪入れずに返事をする。カノさんは一回深呼吸をすると、
「うん、じゃあ、買いに行こっか♪」
と、人懐っこい笑顔で笑ってみせた。
「……(逃げたな)」
カノを怒らせてみたいヒビヤみたいな