「ハロウィン?」
まだ九月じゃないか。
呆れたようにキドが言った。
「でも、もうそんな季節なんだなぁって」
雑誌の特集はすでにハロウィンだし、もう期間限定とか出ちゃっているわけで。
「キド、今年は何かやる?」
「そうだな…今年はキサラギ達もいるし、悪くないな」
頷きながら、キドが横に腰をおろす。そして身を乗り出すようにして記事を覗き込んできた。
うわっ…ちょっと、近いんだけど!
嫌でも意識してしまうキドの視線は残念ながら僕じゃなくて、僕の持っている雑誌に向けられる。
うん、全然悲しくないよ?最初から分かってたことだし?
「お菓子にケーキか、キサラギやマリーは喜びそうだけど…」
「あと、キドもね」
「あぁ…って!お、おまっ!?」
「シンタローくんは甘いの苦手そうだよねぇ」
「さらっと話を進めるなっ!馬鹿!!」
襟首を掴まれ、前後にかくんかくん…いや、ガクガクと揺すられる。
ぶれる視界に真っ赤なキドの顔が映り、ちょっとだけ優越感とか感じてしまうわけで、
「え?キド、甘いの嫌いなの?」
「あ、いや…嫌いってわけじゃ…って、おい待て!なんでまたそういう話になってるんだ!?」
あー必死なキド可愛い。
そう思ってると後ろから、
「まーた、キドからかって遊んでるんスか?」
と声をかけられ、同時に抱き締められた。
「セト?あれ、いつ帰ってきてたの?」
「うす、今帰ってきたところッス」
「ふーん、おかえりなさい」
重いから退けてほしいんだけどなぁ。人の頭に頭を乗せてる馬鹿に念じてみるが気がつく気配はない。
まぁ、セトだから仕方ないか。諦めて、キドに視線を戻すとキドがじっと睨んできた。
「え?なに?」
「…随分、セトと仲が良さそうだな」
「うん?キドもでしょ?なにを今更、」
そういうとキドはムッとしたように眉間にシワを寄せ、僕の雑誌を奪うとそれを丸めて、
「いったぁっ!」
思いっきり頭を叩いてきた。
え?本当、なんなの!?
全く理解できない僕とは裏腹にセトがくつくつと笑いを堪えているのがムカつく。
「気が萎えた、話の続きはセトとでもしてろ」
立ち上がるキドは見るからに不機嫌で、危ない感じ。でも、話の途中だし!
「えっ!?なんで?キドも一緒に話そうよ」
「カノ、何の話してたんスか?」
「ほら、セトに説明してやれよ。俺はもう行く」
うっ…なんか、本気で怒ってるよ。多分、これ以上続けたら殴られる。
仕方なく雑誌を閉じるとセトが横に…、さっきまでキドが座っていたところに腰をおろした。
「カノ、俺、邪魔だったスか?」
上目遣いに見上げてくるセトは不安げで、
「そんなことないよ」
思わず、庇ってしまう。
するとセトは安心したように笑って、僕の膝の上に頭を乗せてきた。
「あはっ…カノの膝枕ッス」
「馬鹿、重いよ」
嬉しそうに言うセトを無下に出来ず、そのまま放置していると次第に睡魔が襲ってくる。
かくん、と船を漕ぎながら前に倒れそうになっているとセトが起き上がり、僕の頭を膝の上に乗せた。
「どうぞッス」
ん、じゃあ…お言葉に甘えよっかな。
―――――――
ハロウィンの前の話。
うちのキドさんはキドさんだけに喜怒哀楽が激しくて地雷みたいになってる気がする…