カゲプロ | ナノ




夢を見た。

夢を見たんだ。

それは君が男の子だった夢。

不思議だね。

君が男の子でも、僕は君を愛してしまうんだ。

君は笑いながら、

「カノが女だったら良かったのにな」

と言った。

だから、僕は

「それだったら、僕はキドみたいなお嫁さんが欲しいな」

なんておどけてみせる。

すると君は目を見開き、驚きながら

「そうか、そういうのも悪くないな」

と頷いた。

「じゃあ俺はカノのお嫁さんになるから、カノは俺の妻になってくれ」

「なにそれ、」

君は

「だから、ずっと一緒に居よう」

「今度こそ、ずっとずっと二人で居よう」

キドの言葉がどうしてか凄く嬉しくて、涙が溢れた。

きっと、女の幸せってこういうことを云うんだろうなぁ。

僕、男だけど。

「嗚呼、でも、」

愛しいと思うほどに

「お前にはもう俺-キド-がいるんだな」

君は離れていく。

君が一歩後ろに下がった。

追いかけようとしたら、

「行くなっ…」

誰かが僕の手を掴んでいて。

ふと振り返った時、

「俺を置いていくな…っ!」

君が泣いてたんだ。

「キド、」

名前を呼ぶと、涙でふやけた目が僕を睨み付けた。

「ばかやろうっ!なんで、なんで、」

僕の背中を殴り付けながら、君は言う。

目の前の追おうとしていた君は笑いながら、僕の後ろを指差していた。

「忘れるなよ。それがお前の手に入れた可能性の一つだ」

「…どういう、」

「好きだよ、カノ。俺は俺の可能性のところに行かなくちゃ」

「ま、待って!」

今度こそ、本当に消えてしまいそうな姿に手を伸ばそうとすると、キドが

「行くな!」

と叫んだ。

君の手が僕を押さえつけるように回っていて。

泣きながら僕を引き止める君を見て、

僕は、





「…っ!…―ノ!カノっ!」

揺さぶられる感覚に意識が引っ張られ、ゆっくりと目を開く。
眩しい光が白に反射して、僕の視界を濁らした。
次第に慣れていく視界に、目の前の緑を認識する。
そこには今にも泣き出しそうな顔で僕を見つめているキドの姿。それとメカクシ団の皆だ。

「…?」

「カノっ…!目が覚めたのか!?」

キドが勢いよく飛び付くと予想以上に力が入らなくて、

「うわっ…!?」

そのままベッドに倒れてしまう僕を見て、焦ったようにセトがキドに手を伸ばす。

「キド!カノはまだ安静にしてなきゃいけないんスよ!」

「ぁ、わ…悪い」

途端、真っ青になったキドが気遣うように僕の体を割れ物でも扱うように撫でた。

「だ、大丈夫か?痛くないか?」

「う、うん…」

「ううん、だと!?やっぱり痛むのか!?セト!医者だ!医者を呼んで、「キド、落ち着くッスよ!」

再度、セトに怒鳴られたキドはやっと我に返ったのか、申し訳なさそうにフードを下げた。
セトが横で不器用に微笑んでみせる。

「……?」

どういうことなの?

「カノさん、覚えてますか?」
「…シンタローくん、」

疑問に答えるように壁に寄りかかっていたシンタローくんが此方にやってくる。
それから僕の反応を見て、やっぱりと呟いた。

「カノさん、倒れたんですよ」
「え?」
「過労だ、馬鹿」

キドがジト目で睨んでくる。シンタローくん達も呆れたような顔で見てくる。

「五日間、ずっと寝てたんです。先生も起きないのが可笑しいって」
「…五日、」

「その間、ずっとキド、眠らないでカノの傍に―…っぐふっ!」
「言うな!」

セトを沈めながら、キドが違う!違うからな!と必死に弁解している姿を見ていると自然、笑みが溢れた。

「ふふっ…愛されてるなぁ、僕」
「自分で言わないでください、気持ち悪い。…その、心配して…損しました」

「ヒビヤ、カノが起きなかったらどうしようって、」
「〜〜〜っ!コノハ!バカコノハ!お前は何も言うなぁ!」

「仲良いですよね、二人とも。いいなぁ」
「わ、わらっ…私たちも、な、なななっ…仲良し!」
「…っ!はい!」
「マリー!マリー!俺はどうッスか!?」
「…せ、せとはっ…ふ、ふっつーだ、だしぃー…」
「ガッテム!!!マリー!嘘っ…嘘って言ってくださいッス!!嘘だとっ!」
「あはははーマリーちゃん、思春期みたいですねー」
「俺はこんなにマリーのこと愛してるんスよーーっ!!!」ぎゅっ
「せ、せとっ…!や、やめてっ!」べち
「…ま、まりー…マリーがっ…マリーがぁあああ!!!嘘だぁあああ!!!!!」

駆け出して行ったセトを皮切りに皆、一人ずつ部屋から出ていく。部屋っていうか、よく見ると病院だった。
外から看護師らしき人の「病院内では静かにお願いします!」という声と、シンタローくんのテンパったような「しゅ、しゅみっ…しゅみませっ…」。言えてない、言えてないよ、シンタローくん。そして「プークスクス、ご主人様ぁー」なんて上機嫌な声は聞かなかったことにしておこう。きっと、今夜、彼は枕を濡らすことになるのだから。
ヒキニートの名前は伊達じゃなかった。さっきまでの澄ました印象が脆くも崩れ去っていく。

なんて、笑いながらキドの方を見るとキドも同じ気持ちだったのか笑みを返してくれた。嬉しい。

「全く、騒がしい奴らだな」
「そうだね」

キドの手が僕の頭に伸びて、優しく撫でる。

「良かった、もう起きないかと思った」
「……ごめん、キド」
「俺はお前を許すつもりはない。だから、謝るな」
「…キド?」
「俺を心配させた罰だ、…ずっと俺の傍に居ろ」

頭を撫でていたキドの手が、僕を引き寄せるように後頭部に回されていて。僕の頭はあっさりとキドの胸の中に収まった。

「…拒否権はないからな」

ぎゅっと力を込められれば、キドの温もりが広がっていき、安心した。


「拒否権なんて、いらないよ」


夢のような夢かもしれない




ねぇ、キド。

僕ね、夢を見たんだ。

その夢じゃ、君は男の子なんだ。

それで君は僕に「ずっと一緒。ずっと二人で居よう」って言うんだ。

可笑しな話だね。

僕はそれもいいかもしれない。

それでもいいのかもしれない。

そんな風に思ってしまうんだ。

いいわけないのにね。

付いていきそうになる僕を、僕の手を握っていてくれてたのは。

間違うはずもない、君だったんだ。

女の子の君。

「行かないで」

必死に僕を引き止める君を見て、僕は戻ってこれたんだと思う。


「ありがとう」

そういうと君は真っ赤になりながら、目を逸らす。

「ごめんね」

そういうと君は怒りながら、僕を叱ってくれる。

「おやすみ」

そういうと君は微笑みながら、僕の頭を撫でてくれる。

「おはよう」

そういうと君は、僕を抱き締めてくれた。



「おはよう、カノ」




―――――――……


※セトさん、本当にごめんなさい


・とある森男の青春奇譚


「まぁあありぃいいい!!!!!」

響き渡る絶叫。
セトは今、遊園地に来ていた。それもこれも先日の一件、マリーに冷たく接されたことにある。
あれからマリーは何が悪かったのか怒って話してくれないし、周りの皆も「まぁ…院内で延々と愛を叫ばれたらなぁ」とか訳の分からないことを言ってくるし。
釈然としない。
よって、ストレス解消に遊園地に来たわけだ。デパートの屋上にある遊園地の観覧車はこの街きっての高所であろう。
そんな場所から叫んだら、マリーに思いが届かないわけがないし、気持ちも良いことだろう。一人は寂しいのでカノも道連れにして。

「や、セトっ…さすがにこれはマリー…本気で、」
「玉の輿は黙ってるッス!」
「た、たまっ!?」
「知ってるッスよ!毎晩キドに掘られて、あんあん言ってることなんて!」
「言ってないよ!?」


俺のマリー仕込みの想像力が語ってるッス!
メカクシ団へたれ同盟のカノを無視して、俺は、

思いっきり、観覧車の扉を蹴り破った。


「ぎゃあああああ!!!おまっ…おまえっ!!セトォオオ!!!!」

ブーッ!音と共に観覧車がガタンっと勢いよく急停止し、開け放たれた扉からセトが顔を出す。そして、

「まぁあありぃいいい!!!!愛してるッスぅううっ!!!届け!俺の想い!飛べ!俺らのカノ!!」

「ちょ、やめっ…!せ、セト!落ち、落ちるっ!しゃ、洒落にならないからぁあああ!!!」

ぐいぐいと背中を押すセトの顔は、

(あ、これ…本気って書いてマジって読むやつだ)

「行け!行ける!カノ!信じてるッス!」
「やだっ!死にたくないっ!!死にたくない!!!ぎゃああああああ!!!キドォオ!!!」
「カノ!さぁ!観覧車が止まっているうちにっ!」
「うわぁああ」

「止めんか、馬鹿ども!」

「へぶしっ」

バシンと小気味の良い音を立てながら、セトが落ちた。
もう一度言おう、セトが落ちた。


「セトォオオ!!!??」

カノの叫び声が遊園地、いや、街中に響いたのではなかろうか。

「…セト、お前のことは忘れない。ついでに先日お前が食べた俺のプリンのことも忘れない、絶対に忘れないっ!」

その声に振り返れば、そこには

「キド!?」

「嗚呼、カノ、奇遇だな」

「どんな奇遇!?」

「まぁいい。あの馬鹿が散ってしまった以上、二人でデートするしかないな」

「いや、それよりセトがっ」

「大丈夫だ」

自信満々に言うキド。まさか、考えがあっての…、

「これはオマケのギャグだから死ぬことはない。仮に死んだとしても次の回ではけろっとだなぁ…まぁ、本当にヤバかった場合は『セトが死んだーっ!』『この人でなし!』のやり取りでなんとかなる」

ですよねー!
下で他の皆が頑張ってくれていることを切実に願う。

「カノ、目を閉じろ」
「ん?」
「早く」

キドに急かされるように目を閉じると、キドが僕の目を手で押さえる。そんな信用ないかなぁ。
それから、予想通り柔らかなものが唇に触れた。

「…ん、」

本当は見たかったけど、目を隠されたんじゃ仕方ないよね。
啄むように何度も角度を変えながら触れていたキドの唇が不意に開いた。そこから舐めるようにキドの舌が這わされ、

「…―っんぅっ!?き、んんっ…ふぅっ!」

所謂、ディープキスだった。

口内が蹂躙される。舌をからめられたと思ったら勢いよく吸われ、キドの唾液がそのまま僕に送られてきて、口の端から垂れる。
上手く息ができなくて、頭が打ち付けられたかのようにがんがんした。目尻から溢れ落ちる滴を僕の目を押さえていた手が、指が強引に拭い、流れるような動作で目を舐められた。

「ん、ぁっ!ぃたっ」
「カノ、」

くしゃりと頭を撫でられ、片目だけ開けてキドを見るとキドは不敵に笑いながら、また顔を近づけてくる。
反射的に体がピクリと揺れた。そんな仕草が面白かったのか、キドは可笑しそうに目を細目ながら、僕の額に唇を落とした。

「可愛いな」



―――――――

こうやって、微妙なお色気入れてオチを誤魔化そうとするのよくない。実によくない。

全国のセトファンの皆様、大変申し訳ありませんでした!!





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