カゲプロ | ナノ




今日の任務は偵察だけなんだとかで、キドとセトだけでいいらしい。


遅い朝食を食べていた僕にキドが少し出る、と告げた。

「何処まで?」
「△□市の南にある○▽までだ」
「ふーん」
「セトも連れていくつもりだから、今日はマリーとキサラギのこと頼むぞ」
「うん、」

セトも、行くんだ。
キドと二人っきりで。

もやもやしたものを感じないこともないけど、キドとセトなら別に大丈夫じゃないかなぁとか思ってしまう僕がいるのも確か。

「なんだ、寂しいのか?」
「いや、そんなんじゃないんだけどさ。…キド、気を付けてね?」
「嗚呼、大丈夫だ」

キドはありがとうと笑うと僕の髪をくしゃりと撫でた。キドに撫でられるのは嫌いじゃない。
セトだったら、

「よし、行くか」

立ち上がり、身支度を整えたキドがフードを深く被る。それから、

「セト!もう行くぞ!」

とセトの部屋の方に声を掛ける。

「うっす!今行くッス!」

少ししてバタバタと慌ただしくやってきたセトは寝癖、そのまんま。呆れた。

「セト、」
「あ、カノ。おはようッス」

にこりと笑顔。セトの爽やかなそれにちょっとだけときめいてしまったわけで。
誤魔化すように、

「寝癖、ほら、しゃがんで」

と面倒臭そうに言った。
でも、セトは嬉しそうに笑うと元気よく"はいっ"と返事をすると膝を折る。
こうでもしないと届かないのが悲しいかな。
手櫛で整え、フードを被せてやると、セトは間抜けな顔を晒しながら、

「えへへっ…新婚さんみたいッスね」

なんて言いやがる。

「馬鹿、そのまま行かれてキドが恥かいたら困るからだよ」
「カノは意外に照れ屋さんッス」

あははは、なんて笑うセト。なんだろう。調子が狂う。

「セト!おい、早く行くぞ!」

玄関からキドの声が聞こえて、慌ててセトが顔を上げる。
いかにも忘れてました、みたいな顔だった。

「わ、い、今行くッス!」
「あ、待って」

玄関に向かおうとするセトの横に並ぶと不思議そうな顔をされた。
いや、なんでそんな顔されなきゃいけないわけさ。

「僕も玄関まで行くよ」

お見送りくらいしたいじゃん?

なんて、続けるとセトは目元を綻ばせた。




「それじゃあ、カノ。本当に頼んだからな」

靴紐を結んでいるセトの横でキドが念を押すように言う。

「分かってる、大丈夫だよ。キド達も怪我しないでよ?」

なんか、夫を見送る良妻みたい。自分で思ったわりにキドが男前すぎて小さく苦笑いを浮かべた。

「行ってくる」
「えっ!?ちょ、早すぎッスよ!」

微笑みながら扉を開けるキドに続くようにセトが中途半端に結ばれた靴のまま立ち上がり、後に続く。
カノ、行ってくるッス!元気よく聞こえた声を遮るようにパタンと扉が閉まった。
暫く扉を見つめ、くるりと反対方向を向く。

なんだかなぁ。伸びをしながら今日の日程を考えていると、ガチャリと再び扉が開いた。
驚いて振り返ると、そこには、

「あれ?セト、忘れ物?」

肩で息をしながら、セトが近づいてくる。早かったね、と茶々を入れてやろうしたら、セトの手が僕の後頭部に伸びてきて。
そのまんま、流れるような動作で、

「行ってきますのチュー忘れてたッス」

口付けをする。
一瞬、触れるだけのそれに頭が真っ白になって。混乱する頭で思わずセトを凝視してしまう。

「はっ、え…?」

そんな僕に申し訳なさそうな顔をしたセトがくしゃりと笑いながら、僕の頭を撫で、

「行ってきます」

ともう一度、キスをした。今度は舌で僕の唇を一舐めして。ぬるりとした感触にビクリと肩が跳ねる。

「…っ!?」

うわぁあああ!!な、なななっ…なんでっ!なに、舐めてんのさ!!もっ、もう…!
ぼふんっなんて音がしたんじゃないかってくらいの勢いで熱が集中していく顔面。そのまんま、固まってしまった僕を見て、セトは満足そうな顔をした。
それから、

「続きは夜、覚悟してるッスよ」

とか、めちゃくちゃ良い顔で言うセトが勢いよく玄関から飛び出すのを見て、ふにゃふにゃとその場に座り込んだ。
というか、腰が砕けた。

真っ赤な顔と絶対にニヤけているであろう表情筋を両手で隠しながら、毒づく。

あのばか!朝っぱらから、なに考えてんだよ!!


行ってきますのアレ





―――――――



〜家庭的なカノくん下さいッス!〜


キドとセトが出ていってから、今日の日程を考える。

とりあえず、今日はキドがいないから、キサラギちゃんにはあんまり外出しないように言っておかないと。まだ力をコントロールしきれていないようだし。
それとマリーに洗濯機の使い方を教える約束をしていたんだった。ついでに洗濯物の干し方も言わなきゃ、後が怖そうだ。
シンタローくんにも色々教えてあげるべきだろうか。でも、なんか彼、出来そうなんだよね。なら、手伝わせるべきかな。
本当は一緒にマリーを外に出させてくれれば有難いんだけど、それはキサラギちゃんの方が向いてそうだね。
まぁ、シンタローくんも一緒に外に出してあげないと彼は彼で干からびそうだし、この際、使えなくてもいいから手伝ってもらおう。

昼食は確か、昨日キドが作った夕食の残りがあるからそれを温め直して。
嗚呼、そういえば今日は卵の特売だ。
なら、コノハくんにちゃんと寄り道をしない買い物をいい加減覚えてもらわないと。ヒビヤくんも一緒に付いていってくれるならいいんだけど、最近「コノハ、ネギ臭いから近寄りたくない」とか思春期っぽいんだよなぁ。
マリーとキサラギちゃんは論外として、シンタローくんは途中で挫折しそうだし。やっぱり、僕が行くしかないのかな。疲れて帰ってくるだろう二人に行かせるのはなんか悪いし。
仕方ない。シンタローくんの脱ヒキニートの為、三人で行くか。

「って、僕は何処のお母さんだよ!」


あ、そうだ。エネちゃんと写真を交換する約束してたんだった。

今日の風呂掃除当番誰だっけかなぁ。



――――――――


カノって何気に器用そうですよね





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