カゲプロ | ナノ



笑わせる話。

セトカノ幼少期妄想みたいなの


※セトに世界は案外…って言ったのはカノなんじゃないかっていう妄想。
またまた過去捏造注意。
セトがコミュ障っていうより、ただの引っ込み思案(笑)



それはマリーの一言がきっかけだったような気がする。

「セトって大分変わったよね?」

俺は笑いながら、

「そんなことないッスよ」

と言うと、マリーは

「それだよ、それ。昔はそんな口調じゃなかった」

なんて俺を指差すものだから、俺は内心少しだけ焦りにも似た何かを感じ、そんなことないッスよと必死に誤魔化した。
それからマリーが口を開く前にマリーの淹れてくれた紅茶に口を付け、美味しいというとマリーは嬉しそうに笑ってくれる。

「そう、良かった」

「俺の中じゃ、マリーの淹れた紅茶が一番美味しいッスよ。
(……大丈夫、誤魔化せたはず)」




セトには人には言えない秘密、所謂コミュ障だったという黒歴史がある。
それを乗り越えてしまった今では、全然そんな風に見えない!とかなんとか言われるが、こればかりは本人でも分かる。あれはかなりヤバかったのだと。


セトの入れられていた施設には同い年くらいの子供が何人かいた。
けれど、どの子も皆一様に明るく元気で、人と話すのが苦手なセトには入りづらいものであった。
最初は好意に話しかけてきてくれた子達もセトのびくびくとした態度と、もごもごとする様から次第と距離を置いていくようになる。

セトからしてみれば、一人は楽だった。何も考えなくて良いんだ。自分のことだけでいい。それは幸せな世界。
それでも遠くに見える子供達の仲良く遊ぶ様子に寂しくなってしまう。

でも、自分は。

あの子達と何て話せばいいか、分からない。
何かを話さなきゃと思うと途端に緊張してきて、恥ずかしくなって、苦しくなる。それで結局何も話せなくて、変なものを見る目で皆去ってしまうのだ。
まるで、話せない自分が異質であるかのように。

なんて世界は恐ろしいものなのだろう。


ボール遊び。
一人で壁にボールを投げて、返ってきたそれを投げ返して遊ぶ、遊び。
室内にずっといると頭から茸が生えてしまうと言われ、施設の塀の前で遊んでいた。
今思うと、我ながらかなり寂しい奴だった。

投げて、跳ねて、返す。単調なそれが何故か酷く面白いものに感じられた。多分、頭のネジが外れてたか何かしていたのだと思う。


不意に軌道から逸れたボールが庭の隅に転がっていく。

「あっ…」

唯一の友達を追い掛けるようにして走り出す。本当に唯一の友達だったのだから悲しい。

追い掛けて、やっと姿を捉えたボールの先には、

「…ぁ、」

金髪で目が猫みたいな、そんな感じの子。なんか、怖い。
手をぎゅっと握り締め、震える足を必死に押さえつけるが、爪先は正反対を向こうとしていた。これが本能というやつだ。とことん理性を裏切る。

「ねぇ、」

猫みたいな子が口を開く。
声、高い。とか、自分より少しだけ大きいその子が女の子なんじゃないかと一瞬だけ思った。

「この辺でキド…緑の髪の女の子、見なかった?」

知らない。首をぶんぶんと勢いよく振ると、猫はそっかぁと困ったように笑った。

「参ったなぁ…キド、泣いてなきゃいいけど」

いいから。そんなこといいからボール(唯一の友達)を返してくれと念を送ると、猫は思い出したように下を見て、にんまりと意地の悪そうな笑顔を浮かべたのだった。

「これ、返してほしかったらさ、僕と一緒にキド探してくれないかな?」

そして、反対するだけのコミュニケーション能力を持ち合わせてなかった俺は渋々彼に付いていくことになる。






「僕はカノ。君は確か、この間来た子だよね…えっと…んー…と、」

セトです、セト。本人を前に失礼ッスよ。
猫の名前…猫のような彼の名前はカノらしい。
うーんうーんと首を傾げながら悩む姿が、愛らしい。どうやら、自力で思い出そうとしているらしい。有り難かった。
実は隣に並んでいるだけでも…。

「まぁ、いいや。キド探さなきゃ」

まぁ、いいらしい。
飄々としてるなぁ、羨ましい。自分もこんな風に生きれたら、どんなに幸せだろう。


カノはキドという女の子を探して、施設内を探し歩いていたらしい。なんでも、照れ屋で隠れるのが凄く上手な子なんだけど、寂しがり屋で見つけてあげないと泣いてしまうのだとか。
ずいぶん濃いキャラだと思った。

しかしながら、キドという子と比較していうなら、カノという少年は何だかよく分からない印象が強かった。
けらけら笑う姿が時折、全部嘘だったかのように鎮まる。きっと、キドという子を心配しているのだと思う。
だけど、突拍子のない行動がそれを上手い具合に隠す。道化のようだった。

「ね、木に登れる?」

ほら、また。
コミュ障と自負していた自分は俯きながら首を横に振る。すると、カノは、

「じゃあ、僕がお手本見せてあげるから、」

どうして木なんかに、と見つめるとカノは「だって、上からの方が見つけやすそうじゃん」なんて笑ってみせた。
本当は木に登りたいだけだったのかもしれないと思ったのは、もう少しだけ後の話。

太い木の幹に手をかけ、しなやかに登る姿は本当に猫のようだったけど、線の細い後ろ姿が何処か不安を煽った。
本当はそのとき、カノはボールを地面に放置していたので何時でも逃げられた。従う理由なんてなかったけど、それでもそこにいたのはただ単純にボール以外の友達が欲しかっただけなのかもしれない。ボール、本当ごめんなさいス。

「…んっ…と!」

ふらふらと足を揺らしながら、木の枝に手を伸ばすカノ。何だか、今にも落ちそうで見てられなくなる。

危ない、危ないよ。

胸元を押さえ、はらはらしながらも声にならない悲鳴を上げる。
それからカノは塀のちょうど真横に当たる幹にまで行くと振り返り、此方に手を伸ばした。

「おいで」

笑顔で言うカノに肩がびくりと震えたが、それでも、気がついたら手を伸ばしていた。
それから、頑張ってカノのところまで登るとカノは施設と反対側の指差しながら、

「ここから施設の外に出られるんだよ」
「ぇ、…」
「行こう?」

ぶんぶんと固く首を振る。駄目!そんなの絶対に駄目だよ!バレたら怒られる!
必死に首を振る様にカノは困ったように笑いながら、体勢を立て直そうと足を浮かせた時、

ずるっ

そんな効果音を放ちながら、カノは塀の外へと体を傾けた。いや、落ちた。

「…――っ!!」

手を伸ばすも遅く、下からどすっなんて渋い音が聞こえた。慌てて下を見ると、そこにはぐったりと横になってるカノの姿。

「…っかの!!」

いつ以来だろう、とても大きな声が出た。
周りを見渡して、誰も近くにいないことに舌打ちした。なんで誰も助けてくれないの!
自分が行くしかない。どうしてか、そんな使命感のようなものを感じると不思議と外への恐怖が薄らいだ。
一回だけ深呼吸して木から足を下ろして、ゆっくりと手を離すと、どんっと足の裏に衝撃を感じる。
痛いけど、そんなことより、

「かのっ!!かの!!起きて!!」

カノのところまで駆け寄り、体を揺さぶる。
すると、カノは今までぐったりしていたのが嘘のように、起き上がり、

「やっと話してくれた」

と笑った。そこで騙されていたことに気づいた俺は、もう凄い怒った。

「そんなことのためにっ!どれだけっ…人を心配させたら気が済むの!?」

そんな俺にポカンとしていたカノも少しだけ反省したような顔をして、

「…君ってそんな風に怒ったりもするんだね」

否、反省してなかった。
むっすりと黙りこむとカノは何が可笑しかったのか、またけらけらと笑い出す。キッと睨むとカノは目元を押さえながら、

「でも、もう大丈夫でしょ?世界はさ、案外怯えなくてもいいんだよ?」

「あ、」

言われてから気づいた。自分が普通にカノと話せていたことに。

「じゃあ、改めまして。僕はカノ。君は?」

カァっと顔面に熱が集まって、でも、カノになら言えるような気がして口を開いた。

「せ、セトっ…です!」

それは大分しどろもどろなものだったけど、カノは満足そうに、

「うん、よろしくね、セト。もし、よかったら僕と一緒にキドを探してくれないかな?」

また手を伸ばしてくれるから、嬉しくなって手を取る。
うんとただ頷いたつもりが結構大きな声になって響いた。カノはうるさいよ、なんて笑いを堪えながら言うものだから、此方も恥ずかしくなって、誤魔化すように笑った。



これがセトとカノの最初の思い出。
カノのようになりたくて色々真似したけれど、結局どれも成長するにつれ、恥ずかしくなってやめてしまった。セトの黒歴史。

「…(カノに知られたら、なんて言われるか…)」

口につけたマリーの紅茶は今日も美味しかった。


笑わせる話。





好きになって、愛してしまって。
君の気持ちを尊重しすぎた。
そんな感じ、






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