カゲプロ | ナノ




※♂キドカノ、学パロ
視点がコロコロ変わります。




-キドside-


ばしんっなんて、教室に乾いた音が響いた。


「いったぁああ!!!」


昼休みのことである。



「キドちゃん、これまたキツいのを一発やったッスねぇ」

からかったようなセトの声を無視して、ちらりとカノの方を見る。

「シンタロー君!聞いてよ!!」

真っ赤な頬を指差しながら、真っ先に他の男のところへ。しかも、

「あー…腫れてますね、保健室行きます?」
「行くー」
「ちょっと、自分で歩いてくださいよ」
「やだー僕、怪我人なんだよー」
「それとこれは関係ないんじゃ、」


「……セト、少し右の頬を貸してくれないか」
「いやッスよ。キドこの間、片手で胡桃割ってたじゃないッスか」
「それをなんとか…」
「俺の頭を林檎か、トマトにでもするつもりスか」


嗚呼、気に食わない。
なんか、全部ムカつく。そんな昼下がり。
カノは彼奴と昼飯食べるとか言って、保健室から帰ってきて以来近寄って来ようとしないし。セトは無駄にニヤニヤしてるし。

「大体、なんでカノのこと殴ったんスか?」
「知らん」
「またまたーキドちゃんのことだから、照れ隠しなんじゃないッスか?」
「違う」

断じて違うからな。

「…俺は、何も悪くない」



-カノside-


保健室に行く途中、シンタロー君に、

「なんで、キドに殴られたんですか?」

と言われた。
原因はなんだったろう。

「……なんか、よくわかんない」

でも、よくよく思い返してみれば、凄まじく理不尽に殴られたような気がしなくもない。
そんなことを思いながら、痛む頬を擦りながら歩いた。

「照れ隠しか、逆ギレ…が、妥当かな…あっはっはっはー」
「カノさん、よく生きてますね」
「うん、よく言われる」

キドの拳は無駄に重い。それこそ、ボクシングでもやってたんじゃないかと疑いたくなるくらい。部活の勧誘だって最初の頃は凄かった。
キドは僕と違って身長あるし。あ、それを言うならセトもか。シンタロー君も例外じゃない…って皆どんだけデカイのさ!

「でも、キドが悪いっていうならカノさんの方から謝っちゃダメですよ?」
「え?なんで?」

シンタロー君の言葉に首を傾げると、シンタロー君は呆れたように、だけど少しだけ真剣な顔をして言う。

「カノさんの方から謝ってくれるとか、何をしても許してくれるとか、たまには反省させてあげないとキド、ダメになっちゃいますよ?」
「…そんなこと、キドに限ってないと思うけどなぁ」
「それ、その受け身の考えがダメなんですよ。カノさんはキドに甘過ぎます」

なんか今日のシンタロー君、先生みたいだね。


なんて会話をしたこともあり、保健室から帰ってきた僕はシンタロー君の目もあるので少しだけキドから距離を置いてみた。

「…カノ、その……、」

後ろからぼそぼそと話しかけてくるキドに条件反射で振り返りそうになるのを抑え、シンタロー君の方に行く。心がいたい。
ごめんね!キド。

「うっわぁ…カノ、勇者ッス」

セトの呟きが聞こえる。

「うるさい、馬鹿セト」

小さく返すとセトは何が面白いのか、ケタケタと笑い出し、それと比例するように背中に突き刺さるような視線と殺意が増したような気がした。

「…なにこれ、命懸け」
「…ぅ、くくっ…ぷっ…ふ、はっ…」

堪えるな!余計惨めじゃん!

「シンタローくん!」

セトから離れ、今度こそシンタロー君の席へと移動した。そしたら、

「…ぷふっ…」
「シンタロー君もなの!?」

「は、はやく…ぷっ…仲直り、できるとっふふっ…いいですね…くっ」
「本当にそう思ってる!!?ねぇ!?」

肩震えてるし!顔伏せてるけど口歪んでるの、めちゃくちゃ見えてるからね!

「カノ、」
「なに!?今度は!」

肩にぽんと手を置かれ、今度は何だと勢いよく振り返ると、そこには、

「ぁ…わ、わぁ…やったぁ…死亡フラグだぁー」

凄く良い笑顔のキドがいた。
でも、俺、キドが謝るまで話さないって決意が……決意が…けつい、が。決意しなきゃ良かったかもしれないと熱くなっていく目頭を感じながら、思った。





-キドside-


カノが無視するのがムカつく。
他の奴らと笑いあってるのがムカつく。
そこに俺がいないのがムカつく。
その笑顔が俺に向けられてないのがムカつく。

カノの笑顔が俺だけのじゃなくて、ムカついた。


「カノ、ちょっと来い」

人は怒りの沸点が度を超すと、逆に笑顔になるものなのだと初めて知った。
それが、やや引きつったものであるとは認識している。だって、カノがもう泣きそうだし。ていうか、

なんで俺が話し掛けてきただけで涙目なんだ!

「カノ、」
「ゃ、し…しんたろー、くん…!せとっ!」
「おい、"や"ってなんだ、"や"って」
「…ぅうっ…もうやだぁ…!」

「カノさん、ファイト!」
「お、おうえ…ぷっ…ふ、はっ…して、っは、くふっ…るッスよ…ははっ…ぷっ…"や"っ…"や"って…ぁはっ…キド、さけられっ…ぅ、ははっ」
「ちょ…せ、せとさんっ…ぶはっ…わ、わらわせっ…ふふっはははっ」

「応援ってなんだっけ!!?」

意味わからん。なんで、こいつらはそんなに笑ってるんだ。

「もういいっ!」

カノは吹っ切れたように言うと俺の方を向き、そして、

「僕、今回はキドが謝るまで許すつもりないからね!」

と、強い口調で言い放った。つまり、カノが俺を避けていた理由は、そういうことだったのか。合点。

「わるかっ―「だーめっ!ただ謝ればいいと思ってるでしょ!」

遮るカノに軽く苛立ちを感じながらも、

「そんなことない、殴って悪かったと思っている」
「おざなりに言わないで」
「思ってるって言ってるだろう」
「なにその、俺は謝りましたが?みたいな言い方」
「実際に謝ってるし、謝れと言ったのはお前だろ」
「別に僕は無理に謝ってほしいわけじゃない」
「じゃあ、どうしろっていうんだ?」

謝らないと許さないというし、謝れば違うという。
全くもって意味が分からない。

「……っ、」

カノがキッと此方を睨み付けてくるが、分からないものは分からない。

「何が言いたい?」

素直に尋ねるとカノの目がじわじわと潤んでいく。

「…ぃ、いい……もう、知らないっ…」

おい、知らないってなんだ。自己完結か。なんだか、蚊帳の外に出されたような気がして苛々が増した。

「そうか、お前は知らないのかもしれないが、俺はもう謝った。これ以上、謝るつもりはない」
「…っ!」

第一、どうして俺がお前に許されなきゃいけないんだ。
どうせ、今日はもう完璧、頭に血が上ってしまっていて、カノは許してはくれないだろう。それなら、謝るだけ無駄。暫くしたら、耐えきれなくなってカノの方から謝ってくる。
だから、俺はもう謝らないからな。

くるりとカノに背を向け、自席に帰る。後ろでごちゃごちゃとセトが騒いでいたが、無視。
もういっそ、早退でもしてしまおうか。




-カノside-



キドが席に戻っていってしまうと、ものすごくキドを怒らせてしまったんじゃないかという罪悪感に襲われた。

「カノ、ドンマイッス!」
「これからが勝負だよ、カノさん!」

外野がまた囃し立ててきて、

「〜〜〜〜っ!うるさいっ!元はといえば、君たちがっ…!」

君たちが、シンタロー君があんな提案しなければ、セトが煽るようなこと言わなければ、

「俺たちがいなかったら、キドと喧嘩しなくてすみましたか?」

シンタロー君の言葉に、なんて言い返せばいいのか分からなくなり、口をつぐんだ。
そりゃ僕だって馬鹿じゃない。悪いものくらい、分かる。
キドが最初に謝ったとき許さなかったのは僕で、許せなかったのも僕。シンタロー君もセトも関係ない。

「…ごめん、少し頭冷やしてくる」


教室から外に出て、そのまま屋上に行くと生温い風が頬を撫でた。

僕が許してたら、ずっとキドと仲良しでいれたのかな。
ただ許すだけの存在なら良かったのかな。

そんな僕って、

「キドにとって、なんなの」



どこまでが愛ですか
 どこからが愛ですか





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お題はDOGOD69様より






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