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『それでは皆さん、ゴールまで頑張ってください』

キンと響く甲高い兎の声が嫌に耳に障る。
この声質はどうにも好きになれないらしい。
黙ってしまった兎から視線を外し、時間を確認するとゲーム開始にはまだ四十分くらいあった。

「秀、これからどうする?」

井浦と昔からの付き合いであるらしい石川はあの井浦でも本当に気兼ねない間のようで始終意見を交わしていた。

「俺個人の意見だけど、カードを探すってのより、ゴールを探したい」

ゲーム終了時にゴール地点にいることがクリア条件だとするなら、早めに移動するに越したことはない。
ポイントの減退から察するに、おそらく誰もが至る結論であろう。
だとするのなら、もう一段くらい仕掛けがあっても可笑しくはないんじゃないか?
考えすぎても迂闊でもいけない。
だけど、これは所詮レクリエーション。
そんなものか。

「二手に分かれる?それともまとまってく?」
「まとまってこーぜ」

まとまって動くのは本当に正解なのか?
疑問が過り、違和感へと変わる。
分からないけど、一緒に動くのは良くないと誰かが告げていた。
同じ行動をするよりは、なんて考えで口を開く。

「俺はバラバラに動いた方がいいと思う。二手に分かれて定時に情報交換をした方が効率的にもいい」
「確かに、そっちの方が効率はいいよね」

ずっと黙って話を聞いていた渡部が同意する。

「別にそこまで本気にならなくても、」

遠慮がちに右手を上げる吉川さんに渡部は真剣な眼差しで返す。

「可笑しいとは思わないかい?第一ゲーム終了が二十一時、明らかに長すぎるし、第二ゲーム以降があるみたいだ。それに外を見てほしい」

言われるままに外を見ると、そこには見慣れない赤い光のようなものがあった。
遠目に見ても校門の辺りからぐるりと学校を囲むように引かれているのが薄く見える。

「…なに、これ」
「それにさっきからずっと外を見ていたつもりだけど、体育館に呼ばれた生徒が出ていく様子もなかった」

黙って話を聞いているように思えた渡部はずっとこんなことを考えていたのか?
驚き、言葉を無くす仲間を渡部は困ったように見つめる。

「だから、僕は体育館に行ってみたいんだ。でも、皆で行くより二手に分かれてゴールを探すのと分かれた方がいいかなって」

渡部の意見に井浦と石川が顔を見合わせ、そして肯定するように顎を引いた。
代表するように石川が口を開く。

「分かった、渡部の言う通り二手に分かれよう」

二手に分かれることが決まり、次にどのチームがどちらに行くかという話に移る。
だが、これが決定するのは存外早いものだった。
無駄に気を張らず、協調性を重視するチームにおいて、この手の意見は通りやすい。
もちろん、それも決断を下せる二人が居てのことだろうが。

「石川のところが体育館へ、俺のところが校庭側の赤い線を調べる。理想としては一時間後に昇降口で落ち合って、校舎内を探るっていうのは?」
「あぁ、問題ない。皆も何か意見があるなら先に言ってくれ」

誰も何も言わなかった。
それを二人は意見がないものとし、重い腰を上げる。

「須田、あかね、行こう」

不安そうな柳に手を差し伸べながら井浦がはにかむ。
何故にはにかむ。
そんな俺の視線に気づいたらしい井浦は無理矢理といっても過言ではないくらい強引に話の流れを変えた。

「石川!一時間後に昇降口!絶対に遅れんなよ!」

ばんっと机を叩きながら、石川を見て、それから吉川さんに視線を送った。

「…―…、―……―…」

何かを耳打ちしているようだったが、ここからでは聞こえない。
聞こえなかったけど、多分それは俺なんかが聞いていいことではないんだろうなって思えた。
別に恨みはないのだが、不思議そうに首を傾げる石川の姿が微妙に憎らしい。

「あ、そうだ」

渡部が唐突に声を上げた。
何か大切なことを思い出したようで慌てたように早口で捲し立てる。

「バンド、これ誰か一人が40ポイント、チャージしてた方がいいよ」

馬鹿の代表である吉川と石川が理解できないのは仕方ないとして、柳や井浦もいまいちぴんと来てないようだ。

「一時間毎に15ポイントを削られてたら、ゲームのクリアは無理だよ。だったら一人が40ポイントを支払えば二時間チーム全体を救うことになる」

意外にも理解の早い井浦があ、と声をだし、つられるように柳も顔を上げた。

「こっちの班の前半は僕が持つとして、そっちはどうする?」

発案者が最初に乗ることで反感を減らす。
そして変にぎすぎすした空気を生まないためには、

「俺が払うよ」

多分、井浦がポイントを出すのが一番不味い。
何かあった時、決断でき動ける人材が必要となる。
もし最悪の場合が起きた時のことは頭に入れておかないといけなかった。

「…須田、」
「悪いと思うなら、井浦は井浦なりに動いてくれ」
「……ごめん」
「とりあえず、俺らは俺らでヒントみたいなの探そうぜ」

しゅんと肩を落とす井浦を慰めながら、渡部をちらりと見た。
何処か、彼に誘導されてるみたいに思える。
今回はたまたま意見があったからあれだったが、これからは自分等で状況判断する力を身に付けるべきだ。
バンドのダイヤルを回し、支出ゲージを出す。

「入れるよ」
「うん」

数字を1から『40』まで移動させ、スイッチを押した。


カチッ

『2』


「あ、」

柳が声を上げる。
つられるように視線をやると彼はバンドを見ており、井浦も習いバンドを確認した。

「2ってなってる」

石川の班でもそれは同じようで、声を上げていた。

「これで二時間はポイントを気にしないで動けるな」

半信半疑ではあるが、信じるしかない。
石川は難しそうな顔で呟いた。

「じゃあ、一時間後、昇降口でまた会おう」

疎らに散った同級生たちが必死にカードやゴールなどを探しているのを横目に、不安げな吉川さんの手を石川が握り締めていた。
女一人は精神的にもキツそうだったが、それにより幾らか緩和されているようにも見える。
ずっと考えるような素振りをしていた渡部の視線がつっと此方を見た。

「須田くん、ちょっとお願いしてもいいかな?」
「あ、うん」
「これで外の様子を撮影してほしいんだ」

渡部から手渡されたのは一台のカメラのようなもの。
どうしてよいのかわからず、首を傾げていると渡部が困ったように笑った。

「予備、なんだ、それ。まだ一枚も使ってないからそれなりに使えると思う」

早くこんなレクリエーションを終わらせて、帰ろう。
それだけ言うと強引にカメラを押し付け、渡部は行ってしまった。

手元に残ってしまったカメラを手持ちぶさたに弄り、ポケットに入らないことを確認すると首から下げることにした。

「行こっか」

待っていてくれた二人の方を向いて言う。
なんだろう、体育館の方から凄く嫌な感じがした。
早く離れたいという気持ちが急かすように背中を押す。
ラブレターのない下駄箱から見慣れたスニーカーを取り出し、靴紐を緩めた。

時計を確認すると、

【16:46】


ゲーム開始まで、そう時間もなかった。








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