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時計の針を見ると二十分を過ぎていた。
後、十分以内に名前を書かないと学校から帰れなくなる。
帰りたいって気持ちはなくはなかったが、内容の分からないレクリエーションに参加すると告げてきた仙石くんたちの言葉に戸惑うように言い出す機会を失ってしまっていた。

「柳はどーすんの?」

眼鏡のいかにも委員長といった様相のひょろっとした男が近づいてくる。
彼は柳のクラスの学級委員である。

「え…あ、その」

嗚呼、どうしよう。
皆が出るのかどうか聞こうにも生憎僕のクラスは皆と離れてるし、隣のクラスには綾崎さんと河野さんで訪ねにくい。
どうしよう、どうしたものか。

「あー…柳、無理にはいいんだぞ?ほら、後十分くらいあるんだし」
「…ごめん」

気を遣うようなクラス委員に申し訳なくなる。
出るか、出ないか。
その二択が重い。
いや、でも仙石くんたちが出るっていうならおそらく石川くんたちも出るのだろ。
ならば、

「えっと…その、出るって方で」
「オーケー」

クラス委員が席に戻るのを見送り、どっと疲れが出たような気がした。
少し、少しだけ寝よう。




〜♪〜〜♪〜♪〜〜♪

校内放送の音楽に微睡むような徐々に意識が覚醒していく。
眼鏡をしたまま寝てしまっていたらしい、目を細めながら時計を確認する。

【15:00】

三時、ぴったり。
放送開始の時間だった。
身を起こし、黒板の方を向くと何処から運んできたのか薄い液晶のようなものが置かれていた。
一体、何処から。
そんな疑問を払拭するように隣の女子がそっと耳打ちをしてくれた。

「おはよ、柳くん。あれね、なんか志願者の締め切りが終わった辺りくらいに作業服を着た人達が運んできたの」

その言葉にクラスを見渡すと半分とは言わないものの、三分の二くらいに減っていた。

「帰宅志願者は四十五分には学校の敷地外って言われて、出ていっちゃった」

他のクラスもだいたいそのくらいだったような気がする。
そこまで教えられ一区切りかと思い、お礼を言おうと隣を見ると女子は瞬く間に逃げていってしまった。

そのタイミングで校内放送が始まる。

『えっと…皆さん、はじめまして、私はアンゴラ兎の…あぁ、アンゴラ兎というのはですね、飼兎の一変種でしてアンカラ地方が原産の淡紅色の瞳と白く長く柔らかい毛並みが特徴で、織物の原材料としても有名ですね。液晶の電源を入れますので少し待っててくださいね』

その言葉を待っていたと言わんばかりに付いた電源に女子が小さく悲鳴を上げた。
真っ暗だった画面が白んで、やがてやたらポップなアルビノの兎のイラストが出てくる。
そこで女子たちの中で可愛いと歓喜が上がった。
周りをよく見ると女子の方が多かったりする辺り、女の方がイベント事に強いということなのだろう。

『見えましたか?見えてないというクラスがありましたら、画面横の赤いスイッチを押してくださると助かります。いいですか、赤いスイッチですよ?十秒数えます』

1、2、……10。
十秒が過ぎるとブツリと放送の切れる音がし、画面の中の兎が話し出す。
どうやら、液晶テレビに内蔵されたスピーカーから音を出しているらしい。
詳しくは分からないが、あらかじめ音が入っていたのか、電波を送っているかしているのだろう。
液晶の周囲に有線のケーブルは見当たらなかった。

『はい、異常はないようでしたので改めまして。私はアンゴラ兎の白兎と仲間内では呼ばれております。以後、お見知りおきを』

ペコリと頭を下げる兎に女子のテンションが目に見えて高くなる。
人の少ないせいか、先ほどよりも幾らか涼しくなっている教室のお掛けとも言えた。

『では、最初にレクリエーションの説明をさせていただきます。ルールは簡単、今から画面上に簡略化したものを載せますね』

そういうとアンゴラ兎…白兎は画面の隅から文字列を引っ張り出してきた。


〜ルールは絶対であり規則である〜

『このレクリエーション…ゲームにおいてルールは厳守するものです。規律なきゲームはゲームとは言いません。よって違反者にはそれ相応の罰を受けてもらうことになります』

・参加者のリタイアは許されない。

『もしリタイアしたいのであれば、答えは簡単です。ゲームオーバーになってください』

・赤い線(レッドライン)を越えてはいけない。
・指示がない場合は自由行動。
・配布されたバンドは必ず付けること。
・ゲームは基本、三人一組で行うこと。

『えっと…四時までに三人一組のチームを作ってもらい、廊下に置いてあるバンドのダイヤルを回し、使用者一名とメンバー二名の各三名の名前をそれぞれ登録していただきます。尚、キャンセルは出来ませんのでお気をつけください。また四時までにチームが出来なかった人はゲームオーバー、欠員が出た場合もゲームオーバーとなります』

四時に第一ゲームの説明を行いますので、それまでルール違反のないように各自、自由に判断し行動してください。

では、頑張ってゴールまで来てくださいね。


そこまで言うと白兎は画面の外に消えてしまった。
画面を見ていた生徒たちは次第にチームの話し合いを始め、他のクラスや廊下の確認へと動き出す。
自分も動こうかと椅子から腰を上げた時、ふと疑問が浮かんだ。

果たして、このレクリエーションとやらはいつから計画されていたのか。
こんな大仕掛けなもの、簡単に揃えられるわけがないし、もし行うとしてもこんな時に自由参加で行うのか?
嗚呼、誰でもいいからきちんと話し合いたいと思えた。
兎のいなくなった画面上には大きく現在時刻【15:22】と次回【16:00】とだけ書かれていた。







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