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今日は七月七日、世間一般でいうところの七夕である。
七夕といえば五節句の一つで、天の川を隔て分かたれた彦星と織姫が年に一度相会する日と言われており、星を祭る年中行事だ。
元を辿ってしまえば、中国伝来の風習やら日本の神の信仰やらが習合したものとも言われている。
始まりは奈良時代、江戸時代には民間にも広がったらしい。
庭前に供物をし、葉竹を立て、五色の短冊に歌や字を書いて飾りつけ、書道や裁縫の上達を祈るのが本来の七夕だったりする。

最も、七夕の日に限って雨が多いと俺は思っているわけだけど。

「ねー、これじゃ天の川見えなくない?」

思わず言ってしまった言葉に皆の動きがピタリと止まった。
意気揚々とてるてる坊主を量産していた宮村の手が止まり、ずぅんと暗い空気をバックを背負う。

「ちょっと井浦、空気読みなさいよ!宮村もそんなに落ち込まない!」

短冊を笹に掛けていた堀が呆れたように宮村の背中を叩く。
ばしんといい音が聞こえたかと思うと無言の悲鳴を上げる宮村が床に転がっていた。

「〜〜〜っ!!いたい、地味に痛いよ!堀さんっ!」
「…ちょっと、足、足こっち来てるんですけど」

バタバタと暴れる宮村に仙石が眉をひそめながら声をかける。
あれは間違いなく、うるさい邪魔だって顔をしていた。

「会長は俺を労ってくれないの!?」
「いや、労るっていうより嫌がる」
「なにそれひどい!か、かいちょー!」
「まーまー落ち着けって」

涙目になりながら仙石に詰め寄る宮村を石川が宥める。
石川の手には油性ペン。
書き終わったらしい短冊を吉川に渡すと油性ペンを柳に回す。

「え、これってお願いを書くんでしたよね?」
「そうそう、なんでもいいから適当に書いちゃって」

楽しそうに七夕の飾りつけをする女子と宮村を中心にじゃれてる石川たちを横目に井浦は必死に願い事を考えている柳に近付いた。

「あーかねっ!あかねはなに書くの?」
「え、あ…その…お願いとか、全然考えてなくて」

困ったような柳の顔に井浦は小さく笑みを浮かべながら頷く。

「あーわかるわかる、まさかこの歳になってまで短冊書けとか言われるとは思わないもんなー」

特にあかねは真面目だから、適当にとか難しいでしょ。

付け足すように言われた一言に柳は小さく目を伏せた。

願い事なら、一つだけ。

「…井浦くんは何て書いたんですか?」
「は!?え、おれ!?…お、れは…別に大したこと書いてないんだけどさ」

井浦の恥ずかしそうに頭をかく自然な仕草が柳の心を揺さぶる。

「いう―…「あー!」

柳の声に被さるように聞こえた宮村の声に振り返るとそこには先ほどまでとは打って変わって泣き出した空があった。
雲の間からちらちらと見え隠れしていた筈の空はすっかり厚い雲に覆われていた。
これでは、とても星など見えない。

「降っちゃったか…」
「…そう、みたいですね」

がっかりしたような顔で柳が外を見つめる。

「残念だなぁ…」

ぽつりと聞こえた言葉に柳が隣を見ると、同じくがっかりそうに空を見上げている井浦がいた。

「井浦くん」
「ん?」

「ちょっと、外に行きませんか?」





「あちゃー…こりゃ、本降りになるのも時間の問題だねー」

雨が崩れた地面をべちゃべちゃと靴で踏みながら井浦くんが言う。
雨で服が濡れるとかは特に考えてないらしく、気にした様子もなく強くなりつつある雨の下をくるくると歩いていた。

「風邪、引きますよ?」
「いーのいーの、馬鹿は風邪引かないらしいから」

おどけたように笑う井浦くんが楽しげにくるりと回る。
濡れた前髪から滴る水滴が跳ね、重力に従い髪がぺたりと張り付く。

「あかね、公園に行ってみない?」
「…はい」



「ねぇ、あかねは傘ささなくてよかったの?」

びしょびしょに濡れて張り付いた気持ちの悪い服と重くなってしまった靴を引き摺りながら井浦くんに付いていく。

「はい、こっちの方が気持ちいいですし」

ふーん、と納得してないだろう返事をした井浦くんが公園のブランコの前まで来るとそのまま腰をおろした。

「うわっ、つめた」

なんてビクッと体を震わせる仕草が可愛くて、つい笑みを浮かべると、井浦くんが拗ねたように頬を膨らます。

「わーらーうーなー!」
「ふふっ…すみません、つい」
「ったく、恥ずかしいなぁ…」

それだけ言うと井浦くんは空を見上げ、溜め息を吐いた。

「あーあ、あかねと一緒に星見れると思ってたのに…」
「それは、」
「楽しみにしてたのにさ、こんな天気でがっかりうら」

困ったように笑う妙に大人びた表情に、少しだけ驚いた。
井浦くんの知らない一面を教えられたかのようで。

「僕も井浦くんと一緒に見たかった、です」

ブランコに座っている井浦くんに一歩近づく。
一歩、また一歩と。
自然と上がる井浦くんの顔を見つめながら、すっかり冷えてしまっていた井浦くんの手を握りしめた。

「…冷たい」
「あかねの手が暖かいんだよ」
「井浦くん、少しだけ突拍子のないことを言ってもいいですか?」
「いいよ」

目を閉じ、弧を書く井浦くんの手を離し、背中に回した。

「好きです」
「…っ、ん…うん」

驚いたように跳ねる背中も一瞬で収まり、最後は肩口に顔を埋めた。

「七夕…って、天の川なんて見えなくても、織姫様と彦星様は会ってるんだと思うんです。ただ、きっと僕らには見えてないだけで
「言葉だけじゃ、見えない
「見えないなら、どうか僕に縛られてください」

ゆっくりと紡ぐ言葉に頷きながらも井浦は小さく笑った。

「なにそれ、口説き文句?」



星祭の夜にて

願い事なら、一つだけ『どうか僕だけに唯一の愛をください』


――――――……


このあと、二人はびしょびしょになって帰って石川に怒られたらいいなぁ…
七夕関係ねぇや…
井浦は『今日、晴れますように!』とかだったら可愛いですよね(笑)


えっと…リクエストの『鈍感浦で柳→(←)浦、告白』のつもりです!
もう全然違っていて、すみません!
散々待たせといてっ!

リクエストありがとうございました!


――――――……





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