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案外、つまらないな。

ぷつりと耳に空いた穴を鏡で見つめる。
痛みがないといえば嘘になるが、思ったよりは痛くない。
ぽとぽとと滴る血が耳朶を伝い、白衣の肩口を染めた。

「…宮田さん」

後ろから聞こえた声にゆっくりと振り向くと、いつからいたのか扉の横には同じ顔の男が立っていた。
くしゃりと歪んでいるその顔に吐き気すら感じる。
俺と同じ顔で、俺と違う顔をする。
何もかもが違うのに、常に対比され疎まれ続けられる苦痛。

「見ていたんですか、趣味が悪い」

血は繋がっていても、他人。
俺達の間にある壁は高く、何処までも平行線。
もしかしたら俺達は生まれた瞬間に道を違えた、もう交わることのない、開いていくだけの直線なのかもしれない。
それならば、もっともっと遠くまで離れてしまえ。
机の上に予め用意していた脱脂綿に消毒を垂らし、耳朶を拭う。
耳にピリッとした痛みが走る。

「…何をしているんですか?」

牧野が恐る恐るといった様子で口を開く。
そんな牧野の声すら煩わしいのか、宮田は脱脂綿をごみ箱に捨てると立ち上がり、汚れてしまった白衣を診察用のベッドへと脱ぎ捨てる。

「見てわからなかったですか?ピアスの穴を開けてるんです」
「どうして、そんな急に…」

戸惑う牧野を無視し、宮田の足は再び机へと向かう。
机の引き出しから取り出した小箱を愛しそうに撫で、中から金属具を手に取ると片耳へと取り付けた。
そして牧野の方へと向き直る。

「もらったんです、とても…とても大切な方に」

片耳に添えられた手と物思いに耽るように伏せられた瞳に牧野は思わず目を逸らした。
だって、それは。

あの方と同じ、反対側のピアス。
無表情の宮田の顔に僅かに笑みが浮かんだような気がした。







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