「ん…」
ぱりっ。
箱に収まっている袋を開け、中から一本取り出し口に含んだ。
甘いチョコレートの香りが口いっぱいに広がって、それに歯を立て砕き、その破片を舌で転がし、咀嚼する。
「お前、プリッツ好きだっけか?」
俺の隣、ガードレールに腰をかけ、手持ちぶさたにコーヒーを揺らしていた石川が尋ねる。
「んー…」
たまたま食べたかったというのもあるんだけど、それ以上に一緒に居たかったといえば、この友人はなんて顔をするのだろう。
別に変な意味じゃないけど、人恋しかった。
「石川も食べる?」
言えるわけもなく、俺は誤魔化すように箱を突き出した。
「…聞いてねぇし」
ガックリと肩を落とした石川はコーヒーを一口、口に含んで、空を見上げる。
「もうすぐ、冬休みだな」
ぽりぽり。
溢れた破片を見ないふりして。
立ち上がった時にでも、払おう。
「無視かよ。そんなに、プリッツ旨いか?」
「うまいよー。石川も食えって」
「?……おう」
少しだけ眉間にしわを寄せた石川が遠慮がちに手を伸ばし、一本だけ掴んでは口に運んだ。
失敗したなぁ。
ほら、元気が売りの井浦があんな調子で喋っちゃうんだもん。
いや、あんな奴の言うことなんか信じてないんだけどね。
「冬休みになったらさ、皆でスキーにでも行かないか?ほら、スキーだと仙石とかも嫌がんないだろうし」
「何?経費とかは石川が出してくれたり?」
笑って返すと石川が安心したようにちょっと勢いついた。
「ばーか。何処にそんな金があるんだよ」
「えー!!だって、石川ん家、めっちゃ金持ちじゃん!!金で買えないものなんてないんでしょ!?」
「俺は何処の花輪くんだ!!」
「あははは!!」
そんな先の予定に意味なんてないんだろうけど、ちょっとだけ可能性を添えて。
そうだ。
俺が二週間後に死ぬなんて、まだ確証があるわけないんだし。
「まぁ、ツアーを組んで経費を削減させるとかなら、出来るんじゃね?」
「え、それなら貧乏な井浦にも払えるの?」
「まだ先のことなんだし、ゆっくり考えてみようぜ」
希望を持つのも悪くはないんじゃないかと。
「よっしゃ!!皆に相談してみよーぜ!!」
楽観視していた。
―――――…