謎の男、湯浦と別れてから一日。
あの後、店長に見つかった俺は全力疾走で家まで走るという苦境を強いられた。
息切れしながら玄関に倒れ込み、その音を聞き付けたもとが慌てて駆けつけ、一緒にいた北原に発見されたのは黒歴史。
そして、その後のことは語りたくもない。
その日の夜は湯浦の話が頭から離れなくて、なかなか寝付けなかった。
あまり眠れなすぎて、夜中もとに一緒に寝ようって言ったら激怒され、追い出された際に「そんなに一人が嫌なら、北原君と一緒に寝ればいいでしょ!!」って泣きながら言われ、ショックで俺も泣いた。
うらうら。
マジ意味わかんねぇ、うらうら。
「お、秀じゃん!」
紫。
イシカワオオムラサキ。リア充。
女じゃない幼なじみ。
よし、無視しよう。
なんて決意を固め、歩みを緩めることなく、無事に石川の前を通過した。
「おいっ!!秀!!無視すんな!!」
追いかけてきた石川に肩をガシッと掴まれ、イシカワオオムラサキが自己主張をしてくる。
いや、そんな自己主張しなくても片桐ブルー、君の自慢の紫は滅茶苦茶目立ってるから。
「あっれー!?石川じゃん!おっはよー!!」
切り替えて、石川の方を向けば呆れたような顔をしていた。
「マジで気づいてなかったのか?」
おはよう。
つかお前、耳良かったよな?
心配性な石川には申し訳ないが、意図的である。
だが、俺は悪びれる様子もなく石川に笑いかけた。
「わりわりっ!!ちょっとぼぉーっとしてたわ!!」
「大丈夫か?少し顔色わりぃみたいだけど」
「大丈夫!大丈夫!!井浦超元気だし!!」
本気で心配してくれる、石川のような存在が嬉しかった。
ずっと昔から俺はお前に一つだけ嘘をついてるんだ。
って言ったら、お前はなんて顔をするだろう。
二週間後に俺、死ぬかもしんない。
なんて、この友人にだけは絶対に言いたくなかった。
ただ、彼奴のいうことが本当なら俺はこの二週間をどうやって過ごそう。
俺は生きたい?
死んでも構わない?
分からない。
そんなこと考えてもみなかった。
でも、死にたいだなんて一回も思ったことないし、誰かを犠牲にしてまで生きたいとも思ったことないわけで。
「いしかわぁあ!!腹へりうらぁあ!!」
「うわっ!!なんだよ、急に!!」
「何か食べ物持ってねぇ?出来れば、プリっツ」
「たかろうとしてる奴が何言ってんだよ!!」
「なんだよー本当は持ってる癖にー」
「持ってねぇよ!!」
「じゃあさ!!コンビニ行こう!!コンビニ!!」
「あ?今から学校……ったく、仕方ねぇな」
「あ、あかね達も呼ぶ?」
とりあえず、今を楽しむことにした。
――――……