※注意
「ほ、り…さん?」
「宮村の血を全部、流して、私の血を宮村の中に入れたら…」
宮村を押し倒した堀を退けようとはせず、宮村は静かに堀の言葉を待った。
堀は小刻みに震え、伏せていた顔を上げると涙で歪んだ顔で宮村を見た。
そこにいつもの強気な堀は居ないと宮村は目を閉じた。
「宮村は私だけの宮村になるのかなっ…」
柔らかなその手に握られた一振りのナイフ。
嗚呼、俺はここまで彼女を追い詰めてしまっていたんだね。
後悔よりも早く彼女の白い肌に手を伸ばした。
「堀さん。大丈夫だよ。俺はずっと堀さんの宮村だから」
堀さん。
聞いて。
俺ね、堀さんと同じこと考えてたんだ。
堀さんがずっと俺だけの堀さんなら、どんなに幸せだろうなって。
だから。
「簡単だよ。俺の首を絞めればいいんだ。そしたら俺はずっと堀さんの宮村になれる。だから、約束して」
ずっと俺だけの堀さんになるって。
ナイフの握られてない手をゆっくりと自らの首に導いた。
「絞めて」
お願い。
堀さんは少しだけ泣きそうな顔をして、手に力を込めた。
でも。
「片手じゃ足りない」
ナイフを落とした堀さんは両手で俺の首を絞めた。
苦しい。
苦しいけど。
嬉しかった。
こんなに誰かを好きになったことなんてないから。
彼女が俺の為に身を痛めるなんて、幸せじゃない?
良かった、彼女にして。
良かった、彼女を愛して。
「でも、ね。俺だけが死んじゃうなんてフェアじゃないよね」
落ちていたナイフを拾うと驚いたのか、堀さんの力は少しばかり弱まった。
酸欠で血の回らない頭でぐらんぐらんに歪んだ堀さんの顔を見た。
力が上手く入らない。
緩く握ったナイフを逆手に持った。
「宮村?」
不安そうな堀さんにニッコリと笑いかけた。
「堀さんが俺なんかと一緒に死んでくれるわけないよね?」
狂気
どうやら、狂っていたのは俺の方だったらしい。
―――――……