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国王は言った。
決まってしまったことは変えられないのだと。
お前は勇者で、彼奴は魔王なのだと。
定められた運命の魔の手から、たった一人の大切な人すら救うことが出来ない勇者。
それが俺の運命なのだと。


彼と出逢ったのはとある闇オークションからだった。
数年前、まだ十代を半ばにして隣国との貿易を預かっており、その時の相手、大臣の趣味だそうで付き合わされていた。
次々と売られていく玩具を冷やかな目で見つめながら、横目でチラリと見た大臣は頬を染め、興奮したように鼻息を荒くしていた。
それから何ら変わらない、ごく普通のように出てきた緑色の毛並みをしていて、ボロ切れのような薄汚れた服を申し訳程度に羽織っていた線の細い青年。
不健康で真っ白な肌に真っ赤な首輪と無骨な手錠と足枷を嵌めていた。
調教師にジャラジャラと重い鎖を引っ張られ、彼が苦しそうな顔を浮かべると会場が僅かに淀めいたのを感じた。
それから顔を俯かせると、調教師に顎を掴まれ、無理矢理上を向かせる。
恐怖に脅えた瞳に思わず、札を握り締めた。
隣の大臣は高揚したように彼を見つめている。
嫌悪から顔を上げると。

たすけて。

彼と目があったような気がした。


「王子!どういうことですか!!奴隷を買うだなんて!!」

長年連れ添ってきた従者が反対した。
しかし、石川の揺らがぬ意志を表したような瞳と既に支払い済みであろう奴隷に、もう何を言っても無駄なのだと震えながら俯く奴隷を指差して、溜め息を吐く。
従者も伊達に王子の面倒をみていたわけじゃないのだ。

「全く…らしくないじゃないですか。衝動買い、しかも奴隷なんて」
「気に入ったんだ」

綺麗にするから風呂の用意をしてくれ、と頼む石川に従者は思わず青ざめた。

「まさか、ご自身で洗うとは言いませんよね?」
「まさか、俺のものに触れられるとは思うなよ」

自信満々な顔で奴隷を抱いた石川は下手に騒がれまいとそのまま従者を部屋の外へと出した。
それから抱いた奴隷を安心させるように傷んだ緑色の髪を撫でる。
不安そうに見上げてくる奴隷の額にキスを落とした。

「大丈夫…大丈夫だから」


井浦秀。

従者に調べさせた経歴には彼の名前が刻んであった。
それから出身や家族について事細かに。

帰りたいか?なんて聞けないくらい俺は秀に嵌まっていた。
一人の妹がいたらしい。
村が襲われ、その時行方不明となったと示されているが、きっと捕まって売られてしまったのだろう。
そうなってしまえば、もう俺でも捜すことは出来ない。

隣で眠っている秀の髪をすいた。
これしか方法はなかったのだ。
男娼として秀を迎え入れる。
反対がなかったといえば嘘になる。
けれど、下手に従者として招き入れるには身分がどうしても引っ掛かる。
秀が舐められるのが、他者の目に触れるのがどうしても許せなかった。
それでも形だけに留めておいたなら、何かは変わっていたのかもしれない。
鳴き疲れ、死んだように眠る秀に無理をさせてしまったのではと心配になる。
写真を通してになってしまうが、一回だけ見たことがある。
秀が元気一杯に駆け回り、はち切れんばかりの笑みを浮かべていた光景。
見たいと思う心の独占欲は強く、より絆を求めるようになった。
それなのに、この場所は手を伸ばすのには高すぎて、届かない。

「秀……――してる…」

呟いた言葉は思いの外、掠れてしまい、きっと届かなかった。


数年後の今、まだ俺は動けないでいる。
もうすぐ、秀が発つ。
俺に殺される準備をするために行ってしまう。
あの頃より、いくらか柔らかくなった秀の感触を確かめたくて何回も抱き締めた。

嗚呼、神様。


争いが運命というなら恋に落ちたのも運命なのに


どうして、俺から大切なものを奪おうとするのですか?

俺はまだ君に伝えてないことがあるんだ。


――――――……


一応、補足


石川…王子(勇者)
井浦…奴隷→男娼(魔王)

十代で井浦と出逢い、今が二十代前半くらいの設定です

―――――……




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