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「こんにちわ、大家の柳です」
「…井浦です」

先日、この家に越すことが決まった井浦さん。
何でも画家志望の学生さんらしい。
歳はだいたい同じくらいだろうか。
無愛想なさまが嫌に脳裏に焼き付いた。

「よろしくお願いします」
「…………」



「井浦さんって同じくらいですよね、歳。いくつなんですか?」

彼はいつも風通しの良い二階の窓際で絵を描いている。
この間、集金の時にちらっと聞いたのだが、学校は止めてしまったらしい。
目の前の銭湯の煙突に描いてある大輪の花を見ていると自然と笑みが溢れた。

「…別に大屋さんには関係ないです」

ボソッと呟く声と友人らに別れを言っていた声がいまいち一致しなかった。
時折、何処か遠くを見つめるその視線の先に何があるのか、僕は知らない。

「そんな切羽詰まって描いてたって良い作品はできないんじゃないんですか?」

お節介で迷惑がられていて、邪魔をしていることは知っているけど、この人の糸があまりにも細く弱々しく思え、目を離すと遠くへと飛んでいってしまうような気すらした。
繋いでいたい。
この人を繋ぐ糸でありたい。
そんな、変な感情に苛まれ、僕は毎日彼の元へと通いつめていた。

「そうだ、お茶。冷たいのと熱いのありますが、どちらにします?」
「……いらないです」
「冷たいのと熱いのです」
「…………熱いの、お願いします」
「はい、分かりました」

無理矢理にでもこの糸を持ってほしくて。

「あ、すみません!茶葉切らしてたみたいなんで、買ってきます!!」

僕は必死に貴方に笑顔を向ける。
いつか、きっと貴方の笑顔が見られると信じて。

―――――――……






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