main | ナノ







平日、とはいえ曜日感覚なんて無いに等しい井浦は珍しく散歩に出ていた。
立っているのは苦手でも、歩いているのは別に大丈夫だろうと高を括って。

「あ、井浦くん」
「よう、宮村」

メモ帳を片手にネタを探っていた宮村と遭遇した。

「井浦くん井浦くん、俺、今ネタがなくて困ってんだけど」
「言っておくけど、取材は本社を通してからだから」

幾度となくネタが詰まると取材を迫ってくる宮村に溜め息を吐いて、いいネタはなかったかどうか記憶を探ってみる。
が、外に出ている柳とは違って籠りっきりの井浦にネタなんてあるわけもなく。

「ちぇー…」
「そういえば、さっき進藤が野鳥の撮影をしていたけど」

進藤と言った瞬間、宮村の目が鈍く光った気がした。

「うん、それより井浦くん。不動産の娘の話、知ってる?」
「不動産?綾崎さんのところの?」
「うん」

宮村は楽しそうに笑ってから、はっと人差し指をたてると回りを見渡し、声をひそめて言った。

「な、内緒だよ?」
「あぁ」

「銭湯のフルーツオレが大好きなんだって」

「そんなことかよ!」

「えっ!ちょ、あんまおっきい声で言わないでよ!!スクープなんだから!!」
「宮村、よく首になんないな」

焦ったように首からぶら下げているカメラを抱き抱えた宮村に思わず、笑みがこぼれた。

「あははは…実はちょこっと載せてもらってるお菓子の記事の方が評判よくて」

暫くして落ち着いたのか、宮村は恥ずかしそうに頬を掻きながら言った。

「もう、宮村はそっちに転職した方が売れてそうだけどな」
「えー、俺、新聞記者がいいよ」

向いてないよ。
笑顔で言おうか悩んで、身動ぎをしようとしたら、

「うわっ…」

ガクンと誰かが後ろから膝カックンをしたかのように膝が折れた。

「お…」

地面と衝突する直前、宮村が支えるように胸を貸してくれた。

「あ、ありがと…」
「相変わらず、足悪いんだね」
「んー…悪いってわけじゃないんだけどな」

苦笑いをしながら、肩を貸してくれる宮村に感謝しながら、内心、違うのだと毒づいた。
うっかり、歩みを止めてしまったのが敗因。
いや、歩こうだなんて思ったのがそもそもの間違いだったのか。

「とりあえず、家まで送るよ」
「…ありがと」


「あ。後ね、井浦くん」
「ん?」
「俺、こうして道端で井浦くんに会ったりするの結構楽しみだったり」
「…………」


「あー!井浦くん!いないと思ったら!!すみません、宮村くん!!」

「俺、こんな大きな声で話してる大屋さん見るの初めてかも」
「そう?わりといつもだよ」
「ちょ、井浦くん!もう無理しないでください!ほら、中に入って!あ、宮村くんも遠慮せずにどうぞ」


――――――――…






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -