「いらっしゃいませー」
間延びした声の店員が今日も直立不動で視線も合わせず言った。
「こんにちは、石川くん」
「よっ!石川」
頭を下げた柳と控えめに手を上げた井浦。
それから、頭を下げた際に気になったのか、ピンクと黒のコントラストが描く一つの芸術と井浦は笑い、照れたように柳が髪を隠した。
そんな井浦と柳をみて、石川はお座なりに愛想笑いを振り撒くと鬱陶しそうに手を振って見せた。
つまり、仕事の邪魔だと。
石川はあんまり人と絡むのが得意な性格ではなかった。
その癖、面倒見が良いのだから勿体ない話だ。
井浦はそんなことを考えつつも、脳裏に過るのは向こうの友人。
石川とよく似た奴だ。
年齢は違うらしいし、親戚でもないらしいが。
面倒見が良いのは同じだが、石川より社交的だったと記憶している。
後は柳に似ている佐竹とか。
皆、性格は違っているのに他人とは思えず。
「そういえば、秀。堀がこの間、展覧会に間に合わなかったとか怒ってたぞ」
「うげ…マジかよ」
特に椅子や床に座っていることが多い仕事でもないわけだが、井浦の場合はちょっと特殊で何かに座っていたり、部屋に籠っていることが多い。
つまり、あまり長時間立っているのは苦手である。
石川は当然のように横からパイプ椅子を引き出すと柳に渡した。
「あ、すみません。どうぞ、井浦くん」
「ありがと」
柳が椅子を広げ、井浦に座るように促した。
「秀、無理すんなよ」
石川は相も変わらず、視線を合わせなかった。
そんな石川の様子に慣れているのか、柳と井浦は顔を見合せ少し笑った。
―――――…