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文化祭。

といえば、恒例であるのがお化け屋敷である。
文化祭の当日であるこの日、片桐高校のとある教室で問題は起きていた。

「はぁ!?オバケ役がバックレた!?」

「ちょ、堀、少し落ち着こうよ」
「そうだ、少し落ち着いた方がいいぞ」

堀の大きな声が教室にこだまし、今にもサボりの生徒を締め上げんとばかりに袖を捲った。
慌てて止めに入る石川と吉川だが、内心やはりいい気はしなかった。

「嗚呼、もうどうしてくれんのよ!」

苛立ちを隠そうともせず、暗幕の張り巡らされた教室の隅に貼られたシフト表を見た。
丁度、午前中を担当していた一部の人たちが消えたので、午前中、午後の人に頑張ってもらい、残った人が手分けして探し、午後から入れるにしても捜索に回すだけの人手はない。
何故なら、午後からの人はもう解散しているからだ。
それに今日は外向きの文化祭なのでかなり混雑している。
そう簡単に見つかるとは到底思えない。
無理だ。
最初から破綻してる。
頭が痛い。
なんで、こんな馬鹿ばっかりなのよ。

「あ、堀さん」

不意に宮村が手を上げる。
お化け屋敷だと散々言っていたのに魔法使いをやりたいと立候補してきた馬鹿である。
当然、却下した。

「なに!?今、凄く忙しいんだけど」

そんな呑気なことを平然とやってみせた宮村なのでまたろくなこと言わないのだろうと、高を括っていた彼女ではあるが数秒後その考えを改めることとなる。

「会長たち、午前中空いてるって」

宮村という男は変なところで準備がいいというか、決断が早かったりする。


ぽかんと口を開いたまま固まっているクラスメイトを横目になんてことなさそうに笑っている宮村は多分、かなり堀家に感化されていた。



「いい!?オバケなんだから暗いの怖いとか言わないでよね!特に仙石!!」

数十分後、宮村の呼び出しによりノコノコとやってきた仙石御一行はあっさりと堀に捕まることとなる。

「や、やだよ!」
「えー仙石くんも一緒にやろうよー」

既に顔面蒼白である仙石に対して、わりと乗り気である綾崎。
衣装のサイズは問題なかったらしく、彼女は今、白装束に血糊というなんとも不気味な格好をしていて、仙石の恐怖をより一層煽っていた。
ちなみに仙石に渡された衣装は所謂、花子さんだ。
あのトイレに住んでいると言われている。
本当は河野が着る予定立ったのだが、いかんせん胸の問題で無理だったらしく、綾崎が着るにも今度は逆に大きすぎて無理だったらしい。
だったら、京ちゃんが着れば良かっただろうというのが仙石の素直な感想だった。

「仙石くん、あんまり文句ばっか言っちゃ駄目よ」

迷惑でしょうが、なんて言ってくる河野も今日ばかりは何故か乗り気で仙石が着る予定だった鬼の衣装に身を包んでいた。

「だって…」
「だって、くそもないわ。もうすぐ開店だから早く着替えて持ち場に付きなさい」

かくして、仙石の意見はあっさりと堀によって却下されたのである。


「あ、一組はお化け屋敷だって。行ってみる?」

井浦のクラスは無難に展示物系、柳のクラスは喫茶。
それぞれの休憩時間を合わせて一緒に回ろうと前々から約束していた。

「仙石くん達も午前中、空いてるらしいので誘いましょうか?」

時計を確認しながら言う柳に井浦は苦笑いをしながら首を振った。

「まさか、仙石さん怖いの苦手でしょ、絶対断られるよ」

一組の方へと歩みを進めながら、他愛もないことを話す。
そして、一組に辿り着いた時。

「ギャアァアアアアァアア!!!」

一際大きな叫び声が廊下に響いた。
しかも、わりと聞き覚えのある感じの。

「せ、仙石さん…?」
「………」

嗚呼、一組といえばあの堀さんと価値観の狂いまくった吉川さんのクラスだ。
ついでに宮村。
石川と溝内が色々フォローしてくれてると信じていたのだが、教室の前にぶら下げられたおどろおどろしい看板が気味の悪さを引き立てていた。

「…行く?」
「あ、はい…一応」

心なしか青ざめた様子の柳が小さく頷いた。



道中は良くも悪くもお化け屋敷。
たまに視界の端にちらつく歪な人形の方がよっぽど怖かった。
なんて思うのだが、柳はそうでもなかったらしく井浦の腕にがっしりと掴まっていた。

「お、おおおばけっ…」
「いたっ!あかね、ちょ、腕痛い!いたいうら!!」

ぎゅうっと力を込められると骨がミシミシと悲鳴を上げる。
あかね、意外と力強い!

「…す、すみません!」
「ぁだっ!」

今度はガツンと足を踏まれる。

「なんで、あかねはこんなにドジなのぉー!!」
「おい、うるせぇぞ。そこの馬鹿」
「っ!石川!」

突如、後ろから現れたのは幼なじみである石川。
呆れたような顔でこちらをくるのだが、衣装はやはりお化け。
目が三つある。

「えっ?石川くんだったんですか」

意外そうな顔をして柳が近づいていったのは反対側にあるマネキン。
目が飛び出している。

「いや、こっちだから」
「あ、すみません!」

勢いよく振り向いた柳の腕がマネキンに直撃し、倒れたマネキンが壁を倒した。
そして、壁の向こうから聞こえる潰れた蛙のような声。

「…ピタゴラス」

感心したように石川が呟いた。

「せ、仙石くん!?生きてる?」

反対側から聞こえたのは河野さんの声。
どうやら、潰されたのは仙石さんらしい。

「あ、あの…」

倒れたマネキンを元の場所に戻していた柳がポケットから眼鏡を取り出した。

「大丈夫ですか?」

ちなみに這うようにして出てきた仙石が目にしたのは目が飛び出たマネキンであった。

「う、うぎぁあああぁあああ!!!」

「仙石さーん、」

幸か不幸か、叫んだ仙石のところへたまたま顔を出した井浦に幸いとばかりに仙石が飛び付いた。

「っ!?」

ぎゅうううっと力強いそれに胸が圧迫されるのか、少し苦しそうな井浦。
と、同時に少し面白くなさそうな柳。
井浦に近づくとガバッと後ろから抱き締める。

「井浦くんが苦しいそうです」

そのまま後ろへと引くと仙石も負けじと自分の方へと引いてくる。

「っ!〜〜っ!」

バタバタと足を振り、抵抗の意志を見せる井浦に石川も重い腰を上げた。

「おい、お前らいい加減にしろ。秀がマジ死ぬ」

井浦の肩に手を回しながら、さりげなく仙石を膝で押しやり、柳の肩を押す。
自然、三方向に引かれる形となった井浦が小さく喘ぐ。
正直、かなり苦しそうであると柳と石川は感じた。
それでも手は離さなかったが。


誰にも譲れない


「ちょっと、あんたたち何騒いでるのよ」


―――――……


うぉおお
なんか、酷いことになってしまった(中身的な意味で)
はい、今度、余裕のある時にでもまた文化祭ネタは書こうと思います!

申し訳ありません!


『片桐の文化祭で井浦総受け』


リクエストありがとうございました!

―――――……




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