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視点が変わることにより、いつもと景色が違ってみえることがある。
例えば、この男、石川透だ。
小さい頃からずっと一緒だった俺らは所謂、幼なじみと呼ばれるものだ。
互いが互いのことを親友と思っていると思いながら、密かに暖めてきた恋情。
決してこれ以上、近づいてはならないのだと築いたバリケード。
隣にいるのに触れられない、もどかしさ。
それらに別れを告げるように口火を切ったのは石川だった。

『秀…好きだ』

両肩を痛いくらいに捕まれ、顔を真っ赤に染めた石川の言葉に戸惑い、そしてそれ以上に嬉しくて。
一切視線を逸らさず言い切る石川に顔面に熱が集中するのを感じた。

そして、今。

「秀?」


心配するように覗き込む石川の顔がいつもより近く感じ、別に今までと何ら変わらないのに凄く緊張した。

「大丈夫か?」

前髪をかき分け、額に冷たい手を添えられると、ぼんって音が出るんじゃないかってくらいに顔が熱く火照った。

「…だ、だいじょうぶっ!」

唇を噛みながら短く発し、少し惜しいと思いながら石川の手を退かした。
それから、なんとなく気まずくて視線を逸らしてしまう。

「………」
「………」

気まずい沈黙。
目の前を一組のカップルが通りすぎていく。
嗚呼、やっぱり手を退かさない方が良かったのかもしれない。
仲良く繋がれた手が少しだけ羨ましかった。
手を繋いでなんて言えない。

「……」

男同士だから、表立って付き合ってなんて言えないから。
きっと石川だって窮屈な思いをしているはずだ。
それが許せなくて、よりいっそう下を向いた。

「秀」
「…石川?」
「……」
「いたっ!」
「ばか、どうせまた面倒臭いこと考えてんだろ」
「ば、ばかって…!」

コツンと小さく頭を叩かれ、バッと顔を上げるとそこには真剣な眼差しの石川がいて、喉まで出かかった言葉が勢いを殺した。
不覚にも珍しい石川の顔に心臓が高鳴ったのだ。

「……(ずるい…)」

告白されてから、ずっと石川がいつもより格好良く見えて、真剣な顔をされるとどきどきして。
俺ばっかり振り回されているような気がして。
凄く気に入らないのに。

「秀」

たまに見せる、見た人に安心を与えるようなこの恋人の微笑む顔がどうしようもないくらい、いとおしいのだ。

「…っ!」

するりと絡んできた手のひらの温もりに石川を見ると俺は知らないとばかりにそっぽを向きながら、何食わぬ顔で携帯を見ていた。

「俺は別にそういうの気にしないけどさ」
「…な、」

手を放そうと引けば、より強く握られ、逆に腕を引かれ石川の身体と密着するとそのまま石川のポケットの中に繋いだままの手を入れられた。

「う、うわっ…」
「秀が嫌っていうなら…」

「これでいいか?」なんて低い声で言われると顔に熱が尋常じゃないくらい集中して、声にならない声がはくはくと口からこぼれ落ちる。
違う、違う!
全然違う!
恥ずかしくて死んじゃうから!!
何一つ、まともに発することも出来ず、ただ真っ赤な顔を隠すように俯いた。
黙っていると握られた手を意識してしまい、また恥ずかしくなる。
でも、それと同時にほんの少しだけ嬉しくて、僅かに上がった口角が見つかってしまわぬようにそっと頭を石川の肩に預けた。

「ばか」


アイコトバ


恥ずかしいから絶対に俺からは言ってやらないと静かに目を閉じた。


――――――――


『ドキドキ浦と少し意地悪な石川』でした!

なんか、井浦が一人舞い上がってる感が否めなかったですね!
石川くんのは確信犯だったのかすら不明です
きっと井浦は恥ずかしくてそれどころではなかったのかと…

はい、大変遅れてしまいましたが、リクエストありがとうございました!

――――――……






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