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※高校卒業後、捏造


「もうすぐ春だね」

ぽかぽかと心地好い日差しが気持ちいいというように小さく目を細めた宮村。
葉の抜け落ちた木の枝先には可愛らしい蕾がちょこんと座っており、より春の到来を感じさせた。

「宮村は店、継いだんだっけ?」

公園のベンチに腰を下ろしながら井浦が言う。
両手に握られた缶コーヒーの片割れを宮村に渡すと蓋を開け、目の前の桜に視線を向けた。

「うん、元から高校を卒業したら継ぐって親との約束だったから」
「そっか…」

白い煙を上げるコーヒーにまだ冬は終わってないのだと言われているような気がして缶に口を付けると仄かに苦い香りが口内に広がった。

皆、卒業したらバラバラか…。

なんて至極当然、当たり前のことだ。
だから寂しくならないようにと敢えて卒業式の日は彼らと会うのを極力避けていた。
泣き顔だけは誰にも、特に彼らには絶対に見られたくなかったし、正直、お互いの連絡先は知っていたのだから会う気になればいつでも会える。
そう思っていたのに、いざ会ってみるともうあの日には帰れないのだと、戻れないのだと。
強く言い聞かせられているような気がして辛くなった。

「あれから二年かぁ…早いね」

高校を卒業してから二年。
皆と別れてから二年。
最後に宮村と会ったのは、上京する前日。
なんとなく立ち寄った高校の正門。
上京することを伝えると少しだけ寂しそうな顔をして、最後には笑って見送ってくれた。

思い出すだけで鼻の奥がツンとする。

『井浦くんはどうして上京しようと思ったの?』

真剣な眼差しで見つめてくる宮村。
まさか、高校を卒業したら急に寂しくなって、それが嫌で上京するとは言えなくて俺はただ。

『………』

不器用に微笑むくらいしか出来なかった。

あれから二年。
俺はいくつ変われたのだろうか。

「皆ね、井浦くんが向こうに行っちゃうって知らなかったみたいで凄く驚いてたよ」

連絡もつかなくて。

「ごめん」

皆を心配させてたと思うと自分の未熟さを思い知らされているような気になる。

「いや、別に怒ってるんじゃない」

コーヒーを煽る姿はあの頃と変わらない筈なのに、急に宮村が大人びて見えた。
飲み終わったらしい缶をベンチの端に置くとこちらを向き、高校時代から想像もつかないくらいの笑みを浮かべる。

「みんな、井浦くんと一緒で寂しかったんだよ」
「…そう、かな」
「そうだよ」
「…そうだといいな」
「うん」

頷くと宮村は唐突に立ち上がり、そして正面に立つとそっと手のひらを差し出した。

「実はね、高校卒業した後、皆で花見をしないかって話だったんだ。
結局、井浦くんがいなくなって、会長たちは進学して、俺も店を継いだりして、石川くんなんて散々嫌がってた癖に今は次期社長さんだし、みんな、それどろこじゃなくなっちゃったんだけどさ」

石川が次期社長かよ、なんて想像したら笑えた。
吉川さんと結婚したのかな。
そういえば、仙石さんと綾崎さん、明音は今何をしているのだろう。
北原やもとは仲良くやっているのか。
須田はちゃんと好きな人を見つけ、しっかり守っているのか。
そもそも堀さんと宮村は無事に結婚できたのか。
思い出せば、出すだけ、俺の知らない世界が溢れてくる。

これじゃ、[井浦くんに聞いてみよう]もできないではないか。
いや、いまだにやろうとしている辺り、まだまだ未練とやらは残っているらしい。
実に嬉しい発見だ。

「ねぇ、井浦くん。一つだけ聞いてもいい?」
「あぁ」

「二年間、どうだった?」

新しい環境での暮らしも悪くはなかった。
けれど、あの高校時代の濃い面子に比べたら何とも味気のない暮らしをしていたような気がして、思わず差し出された宮村の手に手を重ねた。

「まぁまぁ良かったよ」

悪戯っぽく笑うと宮村は苦笑いをしながら手を引き、それに身を任せるように俺も立ち上がった。

「井浦くんって意外と素直じゃないよね」
「そうか?」
「うん」

少しだけ宮村は身長が伸びた。
近くなった視線に戸惑いつつも笑うと不意に宮村が顔を近づけ、唇を押し付けてきた。

「…っ!?」

触れ合う程度で離れていったそれに目を丸くしていると宮村が悪戯っぽく、そしてちょっとだけ頬を赤らめながら頭を掻いた。

「…全然、気づいてなかったでしょ?」
「…あ、」
「これが俺の二年間だから」

手に力を籠めると宮村の手を握りしめるようになってしまい、余計に意識してるようで恥ずかしかった。
目を背けていると宮村が小さく手を引き、目を合わせるとやっぱり微笑んでいた。
それから、優しく目を細めながら。

「おかえりなさい、井浦くん」

と呟いた。
目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をしてから、宮村に微笑んだ。

「ただいま」


君の声がする


もうすぐで三度目の春が来ます。
だから、今度は一緒に過ごそうと笑った。


―――――……


えっと……ほのぼの宮浦です…
特に指定がなかったので思いっきり飛んでみました
はい…調子にのりました…

ほんっとうに!
ごめんなさい!!


リクエストありがとうございました!


そして、石川の親が果たして社長さんなのか…
金持ち=社長=貧乏人の価値観です
捏造してない部分なんてない点…

―――――……





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