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秀の笑顔が好きだ。
あの屈託のない無邪気な笑みを見る度に心の底から形のない何かが湧き出てきて、スッと胸に落ちる。
それが白いのか黒いのか、はたまた悪いのか良いのかなんて分からなくて、ただぐるぐると回って苦しくなる。
笑顔と一緒に聞こえる笑い声。
元気にはしゃぐ後ろ姿を眺めて、遠くに言ってしまうんじゃないかって不安になる。
何処か、何処か、俺の知らない遠い遠い何処かに行ってしまうというのなら、今ここで捕まえて俺だけのものにしてしまいたい。
手足を切り落として、俺以外を見ないように目隠しをして、鎖に繋いで。
でも、きっとそうしたら俺の好きな笑顔は消えてしまうんだと二の足を踏む。

「秀」

自分でも気持ち悪くなってしまうくらいの甘い声。
下に組み敷いた秀の細い体。
両腕を頭上で一纏めにし、ワイシャツのボタンを一つずつ外していく。
抵抗する秀の頬を張り、真っ白な肌に華を咲かせる。
目の縁に溜まった涙を舐めとると余計に秀の目から涙が零れ出て。

「××」

伝えたいのに言葉が見つからなくて泣きたくなった。
「秀…秀っ…」

ひたすらに名前を呼び、大切な幼なじみを滅茶苦茶に犯し、犬のように本能だけで腰を振る。
ぐちゃぐちゃで生温い、けれど気持ちの良い秀の中で果て、甘く響いた嬌声と腹部から胸にかけて感じる温かいものに秀も果てたことを知る。
小さな声が聞こえ、顔を上げるとそこには欲に濡れた幼なじみの顔があり、自身がまた熱を帯びた。

『いしかわ』

冷たい手が頬を撫でる。
俺の知らない艶のある秀の声に動きを止めると秀は笑みを浮かべながら呟いた。


『なんで、おしえてくれないの?』


大好きで大好きで堪らないくらいいとおしくて狂おしいほどに大好きな秀の笑顔がグラリと大きく歪んで、頬に添えられていた手が喉に食い込んだ。。


「…っ、」

バッと起き上がる。

「…夢」

ばくばくと心臓が掴まれたかのように激しく脈打ち、つぅっと額から冷や汗が伝った。
ぬちゃりと気持ち悪いものが足にまとわりついていて、吐き気がする。
シーツやら何やらを引き剥がし、いまだに勃起している自身に手を伸ばすとそのまま手で慰める。
脳裏に浮かんだのはあの妖艶な幼なじみの姿。
嫌がる秀を無理矢理押さえつけ、何度も何度も犯す。
想像するだけで息が荒くなり、自身に熱が籠った。
それを手のひらに吐き出すと一気に現実に戻されたような気がした。
だって、俺はあいつの。

「…恋人にはなれない」

手にこびりついた白濁をシーツで拭い、机の上に置きっぱなしになっていた携帯を横目でちらりと見る。
それから時計。
もうこんな時間か。
俺は今、どんな顔をしているのだろう。
それは秀に見せられる顔だろうか。
醜い俺ではないだろうか。

「…秀」

クシャリと前髪を掴みあげ、膝を抱えた。
夢の中なら俺はずっとお前を。

『なんで、おしえてくれないの?』

秀の手がまだ喉に食い込んでいるような気がして息が苦しくなる。

「…、教えられるわけがないだろっ…」

手を振り払うように大きく手を薙いだ。
教えたら、お前は俺に微笑んでくれるのか?
応えてくれるのか?

「…そんなわけないだろ?」

緑の髪が脳裏に過る。
快活な笑い声。
秀に似た色をした彼女、秀を思わせるような無邪気な彼女。

「秀」

どうしてもお前と比べてしまう。

『いしかわ』

あの甘く柔らかな声を思い出しては苦しみ、嘆く。
白く滑らかな肌に舌を這わせ、所有印を付け、四肢を絡め、身体を重ねたい。

『とおる』

艶のよい唇が紡ぐ。
後ろから抱きつくようにして首に回された手。
都合のよい幻覚。

「…×してる」

呟いて消えた。
暗い暗い感情を掻き消すように立ち上がった。
こんなことをしている場合じゃない。


「いーしかわ!」

ドンッと大きな衝撃に驚き、振り返ればそこにはいつもと変わらぬ秀がいた。
元気で太陽のように明るい、俺の幼なじみ。
大きく深呼吸。
表に出してはいけない。
だから、挨拶の代わりにその小憎たらしい頭に手を回すと拳でぐりぐりと頭を攻撃した。

「…っのやろ!」
「いたっ…痛い痛い!石川、ギブ!ギブアップ!!」

笑いながら絡んでくる秀を構いながら学校へと向かう。
別段、なんてことはない。
普通の光景。

「なぁ、秀」
「ん…なに?」

『なんで、おしえてくれないの?』

教えてもいいのか?
一巡。
伝えてしまったら、きっと終わってしまう。
それでも俺はお前に何かを伝えたくて。
でも、それ以上に傷ついてほしくないから。

「いや、なんでもない」

お茶を濁して、間違ってないのだと言い聞かせた。

「はぁ!?何、ハブられうら!?」

少しムキになって聞いてくる可愛い幼なじみの頭を押さえながら思う。
そう、思うだけで十分なのだと。
俺は、俺だけは知ってるから。
俺だけ知っていればいい。
綺麗なのも汚いのも、秀のことなら何でも知ってるから。

「ばか、そういうんじゃねぇよ」
「石川にだけは馬鹿って言われたくないですぅ!!」
「んだと、このばか秀が!」
「あ、いたい!今のは痛かった!!なきうら!!」

甘い甘い甘言に心踊らされながら、秀の手を掴んだ。
驚いたように顔を上げる秀に少しだけ目を逸らしながら言う。

「行くぞ」
「あ、うん」

戸惑いながらも手を振り払わない秀に、小さく溜め息をついた。
俺は男だぞ?なんて、俺も男だって返されそうなことを考えながら。
言う勇気もない癖に。
唇を噛み締めた。


夢現


夢の中ならば、あんな簡単に秀を抱き締められたのに。


これでいいのだと言い聞かせては、夢の中の秀を抱いた。
夢が現実ならと思い、それでも俺は現実の秀を求めてしまう。


「秀」

ぽすんと胸に顔を埋めた秀の髪を優しく撫でながら、その温もりに酔いしれた。


―――――――……


『石→浦』?
なんか、思いっきり趣味に走ってしまいました!
申し訳ないです!

もう夢の中で宮村の首を絞めている石川くんなら夢の中で井浦を犯していても何ら不思議はないと曲解の極みです

リクエストありがとうございました!!

―――――……




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