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「おにーさぁあん!!」


北原は可笑しい。
腰の辺りをキツく抱き締めているピンクのような物体を眺めながら井浦は溜め息を吐いた。

最近はもう確実に目的が違うだろとばかりに絡んでくるこの後輩。
別に嫌いではない。
嫌いではないのだが、どうにも苦手だ。

「北原」
「はい!今日もお兄さんはとても格好よくて、凛々しく可愛いです!!」
「…かわいって、おまっ…!」

こいつの言動は一々、からかわれているようで気持ちが悪い。
爽やかな笑みを携えながらサラリと恥ずかしいことを言ってくる。
男の俺に可愛いだなんて、とんだ辱しめである。

「離れろ!」
「お兄さんってさりげに良い匂いしますよね、何処のメーカーですか?」
「嗅ぐな!」

パシンと頭を軽く叩き、北原の腕を外そうと手を伸ばすとここぞとばかりに力を入れてくる。

「く、くるしっ…っつの!」
「絶対に離しませんからね!!」

変態。
そう、もし吉川さんにでもこの光景を見られたら更にドン引きされ、次の日にはあの頭の悪い記憶力により俺は校内は愚か、町内すらまともに歩けなくなるかもしれないのだ。
それだけは何としても避けなければならない!

「北原!」
「嫌ですよ!!」
「まだ何も言ってない」
「言われなくたって分かります」
「だったら、」
「それとこれは別なんです」

ムスッとした顔でこちらを一瞥するとすぐに頭を下げ、頭で腹をぐりぐりしてくる。
地味に痛い。

「お兄さんが好きです。好きだから一緒にいたいと思うのは間違いですか?」
「ま、ちがいというより…」

いつもより少しだけ低い声に不覚にも驚いた。
こいつ、こんな声も出るんだ。
俺と話す時とかいつも取り繕うように高い声、いや、それは別に俺だけじゃない。
基子にだって、きっと同級生にだって、こいつの態度は変わらない。

「…嫌いな奴と一緒にいると自分の嫌な部分を見せられてるようで不愉快だ」

嘘つきだ。
俺が嫌いなのは。

「お兄さんに嫌な部分なんてないです!」
「はぁ!?」
「俺はお兄さんと一緒にいるだけで、」

必死な形相の北原に思わず、手を離してしまう。
すると北原は腕を解き、俺の頬へと手を伸ばす。
ひたりと触れた手は暖かく、優しく頬を撫でる。

「…俺は、自分のことが前よりずっと好きになれました」
「…っ、」

一人称が違うし。

喉まで這い上がってきた言葉が消えた。

俺の前では決まって優等生を貫いてきた北原。
一人称はもちろん、僕。
変に整ったキャラが板に付いていて、俺はそれしか知らなくて。

「俺はおにぃ……秀さんのお陰だと思ってるしっ…だから…どうか、自分を否定しないであげてください」

ゆっくりと北原の唇が近づき、やがて俺の唇と重なった。
顔をあげるとそこには少しだけ寂しそうに笑う北原。
そんな顔すんな、なんて元凶が言えるわけもない。
なのに言葉が出てこなくて。
北原が次の瞬間には俺の前から去ってしまいそうで怖くなる。
足が震え、ひきつる。
誰かが去ってしまうのはいつだって怖い。
繋ぎ止めなきゃって思うのに動けなくて後悔する。

「…っ…」

言わなきゃ。
言わなきゃいなくなってしまう。
口から零れるのは、溢れるのはいつだって変わらない。
弱い自分が嫌いで、強い北原を見ているとそれが浮き彫りになってしまうような気がして目を逸らしてた。
それでも。
そんな俺でもお前が見てくれると言うのなら、


殻くらい破ろう


小さな呟きを拾った北原は俯いていた顔を上げると、井浦の首に抱き着いた。


――――――……

お、遅くなってしまい申し訳ありません!

『北→→→→←浦』


のはずだったんですが、なんか明らかに違うような…


リクエストありがとうございました!!


当作品は晴谷様に捧げます!!

――――……





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