「ふははは!残念だったな、柳くん!!」
とある週末の放課後、仙石はわざわざ遠い柳の教室に押し掛けると、冒頭よろしく柳に指を指しながら勝ち誇ったような顔で高笑いをした。
「今度の日曜!すなわち明後日、井浦さんとデートをします!!」
「井浦さん!」
バタバタと井浦のクラスに慌ただしく入ってきた柳に珍しいなと井浦は帰りの用意をしていた手を止めた。
「あかね?」
額に僅かな汗を浮かべた柳は何処と無く険しい表情で井浦に詰め寄ると両手を取り、ずいっと顔を近づけた。
急接近する顔に思わず赤面する井浦など眼中にないとばかりに焦った様子の柳は口を開いた。
「今度の日曜日、仙石くんと出掛けるって本当ですか?」
「あ、うん」
ものすごい剣幕の柳に圧倒されながら、井浦は小さく頷き、何かを思い付いたように笑った。
「ただの買い物だけど、あかねも来る?」
日曜日。
待ち合わせ場所についた井浦の視界にはもうすでに柳と仙石があった。
楽しそうに笑う柳とちょっぴり不機嫌そうな仙石。
そんな二人の対照的な雰囲気に一瞬声をかけるべきかどうか迷っていると、井浦に気がついたのか柳が手を振ってきた。
「おはようございます」
「おはよ、あかね。仙石さんもおはよ」
「…おはよ」
可笑しな仙石の様子に首を傾げていると、柳が少しだけ申し訳なさそうな顔を作った。
「あの…僕、邪魔だったでしょうか…」
「あ、…あかね誘っちゃダメだった?」
柳の様子に誘われるように上目遣いで見つめてくる井浦に仙石は静かに息を呑んだ。
これでは自分が悪いみたいではないかと。
「そんなことない!!寧ろ、柳くんと一緒に出掛けられて嬉しいくらいだ!!」
咄嗟、そのようなことを口走ってしまった仙石ではあるが、数刻後、自身のミスに気がついたのかバッと井浦の様子を伺う。
「あ、…そうだよね。…うん」
若干引いた様子の井浦に仙石は頭を抱えた。
そんな仙石に柳は笑いを堪えるよう口角をひきつらせながら仙石に耳打ちをした。
「…きもちわるい」
「はぁああ!?元はと言えば君が――…」
言葉を区切り、思い出したように振り返ると井浦がいて、仙石は誤魔化すようにゴホンと咳払いをすると井浦に声をかけた。
「井浦さん、これは誤解なんだ」
「そうですよ、仙石くんにはちゃんと好きな人がいますので」
「…っ!?(や、柳くん!!)」
「え…仙石さんって好きな人いるの?」
仙石のフォローも虚しく、柳によって注がれた油に井浦が反応した。
恋愛とかの話に釣られるなんて女の子っぽいなぁ。
なんて軽く現実逃避をしている仙石を無視するような形で柳は楽しそうに話を進めた。
「一回相談されたことがあるんです」
はい、柳くんに相談しました。
そして、宣戦布告されました。
なんて口が裂けても言えない。
「えっ…私、相談されてない…」
悲しそうな目で見つめてくる井浦に相談した時点で話はもう終わっちゃうからと放心しかけた心で思ってみる。
「それなら、柳くんもだろ」
「え…!?」
ボソリと呟くと、不意討ち。
まさか自分に振られると思ってなかったのか驚いたように柳は目を見開く。
「せ、仙石くん!」
「あ、あかねも私に相談してない…っ」
二人の友達に宛にされてないと、うるうると目に滴を溜め出した井浦に流石にいけないと思ったのか、柳と仙石は顔を見合わせる。
「そうだ、今日は買い物に来たんだろ?」
「何を買いにきたんですか?」
「……チョコ…」
「………」
「………」
不意に二人の言葉が止まった。
それからまた動き出すとぎこちない動きで井浦に尋ねた。
「ほ、本命?」
「本命」
冷たく言い放つ井浦に仙石は焦ったように食らいつく。
「本命だとっ!?相手は!?まさか例の後輩じゃないだろうな!!」
「…北原じゃないし…いや、あげるけどさ」
つか、仙石さんうるさい。
井浦にうるさいと言われてるとは世も末だなと柳は小さく笑いながらも他人事ではないのだと息を呑んだ。
当の井浦はそんな二人の心境に全く気づいてないらしく、赤く火照った頬を隠すようにそっぽを向いた。
「あの…井浦さん」
「あかねにも教えてあげない」
決して振り返ることなく言う井浦に結局、二人はこれ以上聞くことなど出来なく、いつもよりやや低いテンションで悶々としながら買い物に付き合うこととなる。
とある休日の災難
当日、期待に胸を膨らませながら下駄箱を覗く柳と仙石の姿があったとか、なかったとか。
―――――……
〜いつものテンション〜
「いいい井浦さんっ、ポ、ポッキー食べる?」
昼休み、昼食を終えた井浦が石川たちと談笑に花を咲かせていると仙石がポッキーを片手に近寄ってきた。
何処と無く緊張したかのようにひきつっていた口角を知らない人が見たら、怖いと一足してしまいそうであった。
まぁ、それは知らない人の話であるため、今回は関係ないのだが。
「食べ―…「あ、いいんですか?」
仙石の方に振り返り、笑顔で手を差し伸ばしてくる井浦を遮るように口を開いた柳に仙石は思わずポッキーの箱を握り潰した。
「うわっ…せ、仙石さん?」
「あはは、なんか仙石くん機嫌が悪いみたいですね。そうだ、さっきクッキー貰ったんですけど一緒に食べません?」
「あ、…うん」
すかさず仙石から井浦を遠ざけ、手を取る柳。
井浦は心配そうに仙石の方に視線を送った。
「や、柳くん!!」
「はい?」
「そ、そのクッキーは柳くんが貰ったんだろ?だったら、柳くんが食べるべきなんじゃないかい?」
「…確かに」
仙石の言葉に残念そうに肩を落とした井浦に仙石は何故か、とてつもない罪悪感に襲われた。
怨めしそうに睨んでくる柳を無視するように仙石は潰れたポッキーの箱を井浦に差し出した。
「さぁ、井浦さん。好きなだけ食べてくれ」
いじめだと柳が小さく呟いた。
だが、バキバキに折れてしまったポッキーではあるが、断るのは折角食べていいと言ってくれた仙石に申し訳ないような気がして、井浦はおずおずと手を伸ばした。
ニヤニヤと柳に視線を送りながらポッキーへと手を伸ばす井浦に勝ったとガッツポーズを決めた。
「あだっ!」
「おい、仙石。秀に変なもん食わそうとしてんじゃねぇよ」
垂直に落ちた拳を探るように振り返れば、そこには石川がいて、ポッキーの箱を仙石から取り上げると新しく買ってきたであろうコンビニの袋からトッポを取り出し、井浦に差し出した。
「お土産」
「…あ、ありがと」
差し出されたトッポを大切そうに抱えた井浦は僅かに顔を朱色に染めていて、柳が仙石の肩に手を落とした。
「石川さんに勝てるわけないじゃないですか…」
―――――……
『仙→♀浦←柳で休日デート』
うおぉー…デートしてない…!
そして、最後趣味に走ってしまいました、すみません!!
きっと二人は残念の星の元に生まれてしまったのだと変な解釈を…
後、バレンタインネタ、諦めきれなかった…
チョコは二人の下駄箱に入ってて、自慢気に見せ合いっこして肩を落とせばいいと思うよ
「お前もかよ!!」みたいな
ではでは
リクエストありがとうございました!!
当作品は、はな様に捧げます!!
それでは、またm(_ _)m
――――…