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「あ、」
「あ、」

それは偶然の出会いでした。

逃げたキーコさんを捜し、家を出たのはいいが如何せんにも宛がなく、家の周辺をぶらぶらと歩いていた谷原ではあるが、なんの幸運か、キーコの後ろ姿を捉えることができた。
そして、追いかけるように走った先には何と、宮村の友達の友達がいて(いや、友達か…)、ちょうどキーコを捕まえているところだった。

「えっと…」

この人は確か…。
名前は知らないけど、何回か見たことがある。
あの宮村の友達のイシカワとかいう人の友達であの声のでかい人だ。
うわっ…声のでかい人かぁ…。
あのイシカワなんとかさんの方がまだ…。
いや、センゴクなんとかさんのだったら、終わってたかもしれない。
そう思うとまだましだったかもしれないが、やっぱり。
苦手だな、と無意識に視線を逸らした。

「飼い主さん?」

緑の髪がふわりと風に舞う。
さっきまで音楽を聞いていたらしい、ヘッドフォンのコードが不自然に鞄から伸びていた。
べったりと抱きついて離れないキーコを引き離すように抱え直した緑の彼はゆっくりとした動作でキーコを谷原に差し出すと首を少しだけ傾けて見せた。
幼い仕草と中性的な顔立ち、僅かに見上げるような視線に思わず谷原は息を呑んだ。
それから戸惑いがちに頷き、キーコを受け取ると逃げないように抱き抱える。
少しだけ別れを惜しむように絡められた尻尾に苦笑いをしながら、彼はキーコの頭を撫でる。

全然、雰囲気が違う。

谷原は戸惑った。
だって、俺が知ってるのはあの宮村たちを引っ張るような明るい笑顔の人だ。

「…み、宮村とよく一緒にいますよね?」

思いきって聞いてみた。
宮村なんて名前が出てくるとは思わなかったのか、彼は少しだけ驚いたような表情を作る。

「お、おれっ…宮村と同じ中学だった…!」

谷原です!
言おうとして止めた。
というより、勢いが萎えてしまったのだ。
谷原だなんて言ったところで通じるわけがないし、じゃあ何?とか思われるのが関の山だ。
顔を俯けた。
恥ずかしくて顔も合わせられない。
逃げ出したい。
しかし、

「…たにはら、くん?だっけ?」

彼の声には少しばかり楽しんでいるかのような色が含まれており、そして何より彼の口から出てきた名前に顔を上げた。

「な、」
「知ってるよ、宮村の友達でしょ?」

悪戯っぽく微笑んだその瞳にブワッと胸から込み上げてくる何かを感じた。

「は、はい!」
「俺は井浦、井浦秀。いつも宮村がお世話になってます」

にこりと笑って差し出された手に、キーコが腕から逃げたのも気づかないくらい頭の警鐘が鳴り響いた。

嗚呼、駄目、落ちる。

谷原はまるで他人事のように内心呟いた。
見上げた井浦さんは意外と大きくて、ビックリした。
でも、それ以上に思っていたのと違いすぎて、胸が高鳴りすぎて苦しかった。

突然ですが、

これが所謂、ギャップ萌えってやつでしょうか?

兄「はぁ!?なになに!?マッキー一丁前に恋してんの!?相手は!?相手は宮村さん!?」
弟「ちげーし!しね!!」

―――――……


猫の話を書こうと思っていたので、初谷浦!
谷浦ステキ!!
なんか、全然見掛けなかったので書いてみました!!
マイナー!
だ・い・す・き・だー!!

以下にちょっと過保護なヨウジの後日談


―――――――……


愛しのマッキーがとうとう恋をしたらしい。
宮村さんはいいのか、宮村さんはもういいのか。
兄としては宮村さんなかなか良かったと思うのだが、やはり恋人がいるし、優しいマッキーとしては引くしかなかったらしい。
うちのマッキーは男です。
そして、新しい相手は宮村さんと同じ高校に通っている同い年の子。
名前は井浦秀さん。
マッキーが何回も上の空って顔で呟いてました。
新しい出会いがあったようで兄は嬉しいです。
何でも、うちのキーコさんになつかれているらしく、きっかけとしてはなかなかでしょう。
普段は明るく元気なんだけど、たまに見せる儚げな雰囲気というか、守ってあげたくなるような雰囲気にマッキーくんはノックアウトされたらしいです。
そんなマッキーに兄もノックアウトです。
そこで兄は兄としてはマッキーの恋を応援しようと偵察に来たわけですが。
お、宮村さんだ。
その横には金髪の女の子。
ここからでは何を言っているのかよく分からないが、とても元気がいい。
宮村さんの友達ということで彼女をマッキーの片恋相手と仮定しよう。
暫く歩いて、宮村さんと別れた彼女は紫頭の男と合流した模様。
最低限の会話だけして寄り添いながら歩く二人にまたか!と舌打ちをした。
いや、まだマッキーの片恋相手と決まったわけでは!
だが、確かに今の彼女は儚げで守ってあげたくなるようなっ…。

兄は少し事情聴取をしてみることにしてみました。

ピンクのツインテールの子と緑色のおかっぱの子だ。
ピンクのツインテールはなんとなく知っている。

「ちょっといいかな」
「あ、マッキーのお兄さんだ!」

やっぱりだ!
都合がいい。
単刀直入に聞いてしまおう。

「井浦秀さんって付き合ってる人いる?」
「え」
「え」

二人の顔が瞬間的にひきつる。
どういうことだ。
でも、ピンクのツインテールは直ぐ様笑顔を浮かべると楽しそうに口を開いた。

「うん!あの紫色したのがさっき通って行ったでしょ?その人と幼なじみらしくて、ずっと好きなんだよ」
「れ、れみ!!」

緑色の子が止めに入る。
どういうことだ。
レミちゃんと呼ばれたピンクのツインテールは少しだけ顔を俯けた。
それを見て、緑色の子は安心したように息をつく。

「でもね、彼は吉川さんっていう金髪の子とも付き合っててね、井浦さんは二股かけられてるの。後、井浦さん、モテるから柳くんっていうイケメンからも言い寄られていて、でも井浦さん一途だから…最近は三つ下の男の子にも追い掛けられてて」

早口で捲し立てられた言葉に思わず、言葉を失った。
まさか、井浦さんは幼なじみの男の子が好きで、ずっと思いを寄せていてやっとの思いで付き合えたというのに相手は井浦さんのことを好きでもなんでもなく、身体だけの関係を築こうとしていて、二股をかけられていて、毎日枕を濡らしていたところをイケメンに言い寄られ、戸惑う心を恋人に告げることも出来ず、三つ下の可愛い後輩に相談しようとしたら逆に告白され、揺れる心を持て余し、さ迷い歩いているところに一匹の猫が横切り、それを追うようにしてやってきたマキオを一目惚れさせるような美貌の持ち主で、そして、彼女は今、マキオの助けを必要としているだと!?
は、早くマッキーに知らせねばっ!


「レミ!!なに適当なこと教えてるの!」
「えへへ、ごめんね?」
「ああ、もう!本当にすみません、でし……あれ?」


「マッキー聞いてくれ!実は井浦さんにはっ」
「彼氏がいるんだろーはいはい」
「違う!井浦さんは今、お前の助けを必要としているんだ!!」
「はぁ?」
「聞いて驚くなよ!実は…かくかくしかじかで」

「………まじかっ」


――――――………

いつか、こんなダイナミック嘘をついてみたい

―――――……






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