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《四月一日》


「お、宮村だ」
「…げ」

マクドにて、たまたま居合わせた宮村と進藤。
お互い特に用もなかったせいか、進藤はトレーを片手に顔をしかめる宮村に手招きをし、向かいに座るように促す。
宮村は眉間にシワを寄せながらも進藤の向かいに座るとおもむろにバーガーの紙を捲り口一杯に頬張った。

そんなこんなで一緒に食事を取ることにした宮村と進藤であったが、先に来ていた進藤はもうすでに食した後らしく、チーズバーガーを頬張っている宮村を手持ちぶさたに眺めていた。

「こっち見んな、変態」

じっと見つめる視線がさすがにうざいのか、宮村は堀には絶対に見せないであろう類いの顔を進藤へと向ける。
そんな宮村の何が嬉しいのか進藤は笑いながらジュースを口に含むと、何かを思い出したように顔を上げた。

「そういやさ、宮村」
「俺、堀さんと付き合ってるからそういうの無理だから」
「いや、話聞けよ」

つんとした態度で目を逸らす宮村に相変わらず可愛いな、と思いつつも続きを話す。

「明日って何の日か知ってる?というより、覚えてる?」
「知らない覚えてない早く消えろ」
「ふふっ…そんなアホ可愛い宮村の為に明日が何の日か説明してやろう!」
「いや、まじいいから。そういうの」
「えー本当は知りたいくせにぃー」
「は?んなわけ…」

このやり取りを楽しんでいるかの如く、子供のように目を輝かせながら語ろうとする進藤に内心げっそりしながら宮村はバーガーを一旦口から離した。
それをトレーの上に置き、ジュースを飲もうとしていたところに電話が鳴り、会話が途切れた。
きょとんとしている進藤を放置しながら電話を確認すると。

「堀さんだ」

ぴ、という短い音とともに通話を始める。
電話越しに聞こえてくるのは愛しい彼女の声。
こんな馬鹿を相手にしていたという感じの疲れがどっと押し寄せてきたのか堀の声に安心したように溜め息を吐くと堀は慌てたように声を張り上げながら下手な嘘を吐き始める。
嗚呼、そうだ。
今日はエイプリルフールだ。
なんて思っているうちに電話も終わり、携帯を閉じて正面を見ると退屈そうにジュースを啜る進藤がいてなんだか笑えた。

「堀さん、なんだって?」

電話の内容が気になるのか聞いてくる進藤に宮村は悪戯を思い付いたように小さく口角を吊り上げた。

「明日、買い物に行かないかって」
「っ…、ふーん」

進藤の顔が一気に曇った。
そりゃそうだ。
だって明日は、こいつの。
でも、エイプリルフールに聞いてくるこいつも悪いのだと結論付ける。
更に進藤には千佳ちゃんという立派な彼女がいるわけでなんだかんだ俺じゃなきゃいけないという理由はないはずだ。

「進藤も千佳ちゃん誘ってデートでもしたら?」
「ん…」

歯切れの悪い返事。
少しだけ虫の居どころが悪いらしく、その顔にさっきまでの笑顔は一切浮かんでなかった。

「進藤」
「…なに」
「大嫌いなんですけど」
「あっそ、堀さん待ってんだろ、早く帰れば?」

楽しげに笑う宮村に沸々とした感情を隠そうとはせずに睨み付けてくる進藤。
珍しい。
進藤がこんな全面的に怒りを隠さず押し出してくるのは。
彼はあくまで中立であろうとするから。

「進藤」
「なんだよ?」

チッ、と小さく舌打ちが聞こえたような気がした。
進藤がいらいらすればするだけ宮村の顔に笑みが刻まれ、更に進藤がいらいらする。
今にも何かを壊しながら飛び出しそうな進藤に宮村もさすがにこれ以上怒らせる気はないのか、再びバーガーを頬張ると静かに呟いた。

「エイプリルフールだ、ばか」
「んなの聞いてっ、な……は?……はぁあああ!?」
「うるせぇよ」

ばんっと景気の良い音を立てながら身を乗り上げる進藤。
もう何も信じられないとばかりに大きく目を見開き、暫くすると頭を抱え込んだ。

「え、うそっ!おれ、宮村に騙されてた!?は?はぁああ!?何処!?何処までが嘘なの!?あぁあああもう何も信用できねぇええ!!」
「進藤」
「何?馬鹿な俺への蔑み?」
「ちげぇよ」

少し進藤が涙目になっているような気がしたが、構わず宮村は続けた。

「明日、…堀さんに」
「………」
「醤油買ってこいって言われたんだけど、お前荷物持ちな」
「…っ!」
「べ、別に用事あるならいいっ…その…」
「宮村!!」
「な、なんだよ」
「愛してる!!」
「は、馬鹿っ!お前、ここ何処だと思って…」
「しーらねっ!」

調子よく笑う進藤の切り替えの良さに苦笑いしながら最後の一口を飲み込んだ。
そして口の中一杯に広がるチーズの香りに進藤の手を掴み引き寄せるとそのままテーブルを跨ぎ、唇を重ねるとより深く味わうように舌を伸ばし絡める。

「…っん!」

ワックスで固められた髪に手を通しながら驚いたように目を見開く進藤。
進藤が手をついた拍子に倒れたジュースが机の上に水溜まりを作る。
苦しそうな進藤の様子に、渋々と解放してやると進藤はバッと口を抑えると宮村と距離を置いた。
そして、宮村の唇につぅと伝う銀糸に顔を真っ赤にする進藤に宮村は優しく微笑んだ。

「くたばれ」

そして罵倒。
進藤はうっと小さくえずきながら恨めしそうに宮村をじと目で睨み付ける。
倒れたジュースに諦めたように肩を竦めながら、宮村のジュースへと手を伸ばした。
それから進藤がジュースを口に含んだ瞬間、宮村が「間接キス」と呟いたことにより進藤は盛大に噎せかえることとなる。

―――――………


「それからさ、俺、気がついたことがあるんだ」
「へぇー」

のろけだ。
またあのやたら甘い友達同士だよな?と疑いたくなる話を聞かされていた谷原は諦めたように溜め息をついた。
とどのつまり、この人を選んでしまった俺が悪いのだ。

「四月一日『の』大嫌いってことはつまり残りの三百六十四日『は』大好きってことになるわけだ!寧ろ、エイプリルフールの嫌いは好きってことだから、俺達は一年中相思相愛という…」

多分、宮村そこまで考えてないと思うし、四月一日に嫌いと言われた=その他は全て好きなんだろうという曲解。
更にその一日すら好きとねじ曲げる意志。
普通なら逆の三百六十四嫌いと取るだろう。
この矛盾さえ、愛と片付けてしまうのだから凄い。
やっぱり進藤は凄い。
色んな意味で。

「そういえば、なんで誕生日、彼女さんと過ごさねぇの?」
「ん?あぁ…」

至極楽しそうに笑みを浮かべながら進藤は口を開いた。


「誕生日は千佳のと一緒に祝うことにしてんの。ほら、だって俺だけプレゼント貰うのは不公平じゃん。それに宮村と一緒にいたいし。千佳にはそれで手を打ってもらってんの」

嗚呼、敵わない。
ものすごい笑顔で語る進藤の今までにないくらいイキイキとした様子に谷原は携帯を取り出すと静かに救急車と警察を呼んだ。※別名:宮村

――――――――……






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