井浦くん。
名前を呼ぶと笑顔で振り返る。
いつも笑っているのに、その一瞬の笑みが全て異なるように思えて。
僕はそれをこの瞳に閉じ込めてしまいたい。
明るくて太陽のような陰りのない笑みが見たくて、僕は君に話しかける。
嬉しそうな顔、楽しそうな顔、いじけた顔、みんなみんな、いとおしい。
愛惜しい。
なくなってしまいそうで出し惜しみをしてしまった感情を流し続けることがこんなにも難しくて、辛いことなのか。
いっそのこと、止まってくれたら、どんなに楽だろう。
君という存在が僕にくれた無数の感情に色をつけるとするなら、
「井浦くん」
交差点のガードレールに腰かけていた君はゆっくりと顔を上げる。
夕日に焼けてしまった緑はまるで君ではないように思えた。
「あかね?」
ヘッドフォンを耳から外し、僕を見てくれる君に笑みが浮かんだ。
けれど、この色は僕じゃないんですね。
「仙石くん、もうすぐ終わりますよ」
そういうと井浦くんは少しだけ嬉しそうに顔を綻ばせたが、すぐに目を逸らすといじけたような表情を作った。
「別に待ってない」
「また喧嘩したんですか?」
「違うし…」
この人達は良く喧嘩をする。
もともと相性が悪かったのだ。
だから、僕はこの二人が付き合うだなんて思ってもいなかったし、水面下での変化になんて気づきもしなかった。
「じゃあ、一緒に帰りませんか?ちょうど、本屋さんに寄ろうと思ってたんです」
「えっ…」
少し意地悪だったろうか。
井浦くんは自分が悪いって思ったからこうして待っていたんだろうし、それを無に帰すような真似は良くない。
良くないけど、このまま素直に仲直りされるのは面白くない。
「駄目ですか?」
「え…ぁ…」
僕はズルい。
井浦くんが断れないのを知っていてこうして話しかけるんだ。
上目遣いでその困惑したような顔を見ているだけで新たな井浦くんの一面を知ったような気になれる。
ズキリと痛んだ胸を無視して、井浦くんに近づくとおもむろに左腕を掴んだ。
「嫌ですか?」
僕じゃ、駄目ですか?
僕だと、嫌ですか?
溢れた思いが僕を通じて君の左腕へと流れる。
強い力で君の腕を引くと、
「柳くん?」
仙石くんが来た。
「っ…仙石さん!」
瞬間、安心したように微笑んだ君は僕のことなど忘れたかのように仙石くんの方へと駆け寄った。
「なんだ、柳くんと一緒だったのか」
「はい、一緒に帰ろうって誘ったんですが、」
チラリと仙石くんの横に立っていた井浦くんを見ると少しだけ居心地が悪そうに身動ぎをした。
「ん?」
不思議そうに首を傾げた仙石くん。
「今日は一人で帰るんじゃなかったの?別に柳くんと一緒に帰ったら良かったじゃん」
あ、意地悪だ。
僕が言うのも何だけど、傷ついた井浦くんを見ているのは心苦しい。
「せ、仙石さん!」
「いいじゃないですか、仙石くんもそう言ってますし、一緒に帰りましょう」
井浦くんの手を引こうとすると、仙石くんが割り込んできた。
「ん?」
「仙石さん?」
「………」
無言で睨んでくる仙石くんは何だか新鮮だった。
ほら、いつもは気持ち悪いくらい甘いしね。
だから、ちょっとだけオマケをしてあげようと思う。
本当に少しだけ。
仙石くんの耳元に口を寄せると小さく呟いた。
「あんまり、井浦くんを苛めてるようだと僕が貰っちゃいますよ?」
不愉快そうに歪んだ顔に口許が緩んだ。
貴方が選ばれたのはまぐれに過ぎない。
本当なら僕じゃなかったとしても、きっと別の人が横にいた筈なのだ。
貴方は無理矢理捩じ込んできたイレギュラーだ。
だから、せいぜい井浦くんに愛想を尽かされないように頑張るしかないでしょう?
うかうかしてると、取っちゃいますよ。
僕だけじゃない。
石川くんも北原くんも須田くんも皆、彼を狙っている。
貴方だけが特別だなんて許さない。
「柳くんにも譲らないよ」
「え…?」
仙石くんは小さな声で返すと井浦くんの手を引きながら去っていく。
戸惑ったような井浦くんの横顔に笑顔で手を振ると、やっぱり君は笑顔を返してくれる。
僕だけの笑顔。
「だった筈なんだけどなぁ…」
小さく呟くとガードレールに腰掛け、手を繋ぐ二人の後ろ姿を眺めた。
夕日で真っ赤に染まっている二人。
あぁ、僕なんて。
全てが君色だったんだよ?
「仙石さん!」
「…井浦くん」
「ひ、昼間はごめんなさい!」
「いや、別にそのことじゃないんだけど…」
「ふぇ?」
「意地悪して、ご、ごめんなさい…」
「仙石さん…!別に仙石さんが謝ることじゃないよ!俺、そのくらいなら全然平気だし!!」
「…っ…(きゅんきゅん)」ギュッ
「うおっ…せ、仙石さん?」
「めっちゃ可愛い」
―――――――…
HAHAHA
井浦と仙石がナチュラルに付き合ってました
妄想って怖いね!
後、やなぎん、マジごめんなさい!
途中、性格悪すぎて仙石を道連れにしようとしたら失敗しました
彼のは喧嘩の憂さ晴らしと嫉妬ってことで
やなぎんはただの嫉妬です
彼は黒いって信じてる
そして、仙浦は何故か甘くなる(笑)
というより、彼らは一体何の喧嘩をしていたのか…
きっと石川とかに構われてる井浦に仙石が嫉妬している最中に井浦が仙石にちょっかいをかけたのではないかと思われます
それで今日は生徒会の仕事で遅くなるから先に帰れば?って言う仙石の冷たい態度に井浦が拗ねたって感じかと
つーか、後書きナゲー(笑)
―――――……