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気が付いたら、そこにいた。
びっくりするくらい自然に溶け込んでいた。

一体、いつからだったろう。
仙石は一本だけ少なく購入してしまった缶ジュースを両腕に抱え、首を傾げた。

そもそも、新年早々、集まろうとか言い出したのも彼だし、忘れる方がどうかしている。
だけど、いくら首を傾げたところで彼が何を頼んだのか、いまいちよく思い出せない。

本人に聞こう、携帯を取り出した。

しかし、気がつくと自動販売機とにらめっこをしていたりする。
どうやら、俺はよっぽど自分のミスを認めたくないらしい。

プライドだけは無駄に高い、と自負もしたくなる。

嗚呼、いつからだったろう。
俺たちがこうして集まるようになったのは。

仙石は自動販売機の前で静かに目を閉じた。


目覚めは良くも悪くもない仙石だったが、ここまで悪かったことがあろうか。
変な夢を見た気がする。

「…はぁ…。柳くんじゃ、あるまいし」

無意識に口に出した言葉に疑問符を添付してみた。

柳って誰だ?

どうやら、俺はまだ寝惚けているらしい。
顔を洗おうと仕度を始めた。


「どんな髪型でも綾崎って超可愛いよなぁ。仙石もそう思うだろ?」
「そうか?」

最近、髪を短く切ってしまったらしい綾崎さん。
長い方が好きでした。

「そういやさ、一組の石川が堀に告白してフラれたらしいぜ」
「うわぁ…石川、マジ男じゃん」

堀さんは止めといた方がいいよ。
いらないメールの処理をしながら、そう思った。
彼女は弱いから、弱い人にしか惹かれない。
弱くて、強くて、意志のある人。
守れる存在で守ってくれる存在。
弱くて、弱い俺には関係なかったけど。

「一組っていえばさ、吉川。あいつ、柳に告られたらしいぜ」
「え、あの柳?」

どの柳だよ。
世の中、真っピンクじゃねぇか。

「付き合ってんの?」
「吉川、返事してねぇらしいぜ」
「うわっ…最低じゃん。柳、どんまい」

曖昧女。
はっきりしない女。
誰だっけ、言ってたの。
というより、お前らは何処の女子高生だ。

「河野さんって石川好きらしいぜ」
「あ、知ってる知ってる!んで、石川も少し気があるんだろ?」
「堀どうしたよ、つか、あんな地味なのでいいのかよ」
「体目当てなんじゃね?ほら、河野さんって胸でかいし」

乗り換え男。
罪なき不幸者。
メールの新着。
あー…後でいいかな。
ゲーム開いちゃったし。

「そういえば、この間の校舎見学で井浦の妹見たんだけど、めっちゃ可愛かった」
「マジ?」
「しかも、顔が井浦にめっちゃ似てんの」

彼に聞いてみよう。
ははっ、ゲームオーバー。

「あ、俺、井浦が中学生の男子に迫られてんのみた」

「は?」

「おかえり、仙石」

楽しそうに笑う友人らに不快の意を込め、眉をひそめた。

「…井浦くん?」
「知り合い?」
「いや…」

知らない、筈なんだけど、そうじゃない気もする。

「井浦って異様に顔広いかなぁ」

それだけ聞くとゲームを終了し、自販機へと向かった。


「あ、仙石さん」

自動販売機の前には井浦くんがいた。
あれ?
なんでお互い会ったこともないのに分かるんだ。
いや、生徒会長だし知っていても当然なんだけど、なんで俺は井浦くんって分かったんだろう。
井浦くんは顔が広いから?

「仙石さん。生徒会長の仙石さんでしょ?」

井浦くんは笑った。
ほら、生徒会長だからだ。

「そういう君は井浦くんだろ?」
「うん」

聞いていた彼はもっと明るかったような。
気のせいだろうか。
というより、なんで彼は自販機の前にいるんだろう。
いや、飲み物を買うためだろう。
それから暫く話して、一拍置いてから、聞いた。

「ねぇ、井浦くん、君はいつからそこにいるんだい?」


返事があるわけないし、意味分かんないし。
でも、彼は笑って。

「メール、きてたでしょ?」

携帯を指差した。

「え…」
「俺、緑茶」

そう言って、校舎へと去っていく井浦くん。
不思議に思って、携帯を開くと。


『遅いけど、大丈夫?』

変に飾り気のない彼の言葉。
あれ?
彼って…。


がごんっ。


緑茶を購入した。
仄かに暖かいそれを両手に包んで。

「ねぇ、井浦くん」

思い出したよ。


『仙石さん?生徒会長の仙石さんだよね?』
『あ、うん』
『俺は井浦、井浦秀。仙石さんって凄い頭いいんだよね?あっ!仙石さんって音楽聞く?』


君は思い出すことも愚かしいくらい前からそこに居たんだね。

怖いくらい周りに溶け込んで、俺の背中を押す。
きっと俺だけじゃない。

携帯を取り出し、電話帳を開いた。
嗚呼、なんて言おう。
この素晴らしき世界の彼に。
目を閉じ、開けた世界には両手一杯に缶ジュースを抱え、電話をしている滑稽な俺がいた。

対比・結論

意味なんてないんだろうけど、あの世界があった可能性を知ることにより、愛しく思える。

俺はこの世界が好きだ。

――――――…

意味不って思ったあなたは大方正解です

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そして、仙浦じゃない件
―――――……






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