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「キス、してもいいですか?」

顔をこれでもかというくらいに真っ赤に染めた柳の急な発言についてこれなかったのか井浦はびっくりしたような顔で柳を見た。

「あ、あかね?」
「実は僕、今日誕生日なんです」

井浦の薄い肩に右手を掛けた柳は熱っぽい口調で囁いた。
そんな柳に今度は井浦が顔を真っ赤にし、手の掛けられた肩を凝視した。

「あ、あああ、あかねっ!?」
「駄目ですか?」

コトリと整った顔を横に傾げ、戸惑う井浦の顔を楽しそうに覗き混んだ。
そのまま、固まってしまった井浦の意志を無視するように肩に触れてない左手で井浦の柔らかな唇をそっとなぞると、僅かに唇が震えてみせた。

「…した」
「?」

ポツリと呟いた井浦の声を拾うように柳は左手を唇から離し、頬に添えた。
それからプルプルと震えた井浦は意を決したのか、口をゆっくり開いた。

「…舌、入れないなら…いいです」
「……っ…!?」

舌を入れてはいけないとは所謂死刑宣告でしょうか。
というより、何故敬語なんだろう。
よっぽど恥ずかしかったのか、井浦の目尻には僅かに涙が浮かんでいた。

「ど、どうしてもですか?」

思わず、気唾を呑みながら聞いてしまった。
すると井浦は悔しそうに唇を噛み締めながら、じわじわと目尻を濡らしていった。

「えっ!?あぁ!べ、別に入れなくても――…」
「……っ…ぅう…あ、かねっ…」

フォローをしようとするとますます井浦は震えてしまい、ついにはポロポロと泣き出してしまった。
どうしようかとあたふたする柳に井浦は更に目を潤ませていく。

「井浦くんっ…!!」
「…っ、ごめんっ…!」

井浦はそれだけ言うとそのまま、頭を隠すようにして座り込んでしまった。
本格的に嫌われてしまったのではないだろうか、よりによって誕生日に。
柳の脳内には最悪の展開が浮かんでいた。
とりあえず、原因だけでも聞けないものかと膝を折ってみるが、井浦の嗚咽を聞いていると声を掛けることに抵抗を覚えた。
本当に拒絶されたら、どうしよう。
伸ばしかけた手を中途半端に引っ込める形で停止し、少し前の自分を呪った。

「ごめんなさい、調子に乗りすぎましたよね?」

違うとばかりに勢いよく左右に振れる頭に少しだけ安堵した。
拒否されたわけではないようだ。

「井浦くんが嫌なら別にキスくらい、いいんです」

嘘。
キスしたい。
舌も入れたいし、繋がりたい。
でも、抱きたいって。
思うから言えない。

そんな柳の心中を察したのか、井浦は拳を握り締めた。

「…っ、…キスしたいっ…あかねと、したいよっ…でもっ!」
「でも?」

井浦の涙声。
聞いたこともない悲痛な音程に耳をつんざくような痛みを覚えた。
鈍器で殴られたような、しかし同時に鋭いナイフのような、声の通った部分が痛かった。
…井浦くん、痛いです。
痛いんです。
だから、どうか泣かないで。

「おれっ…あかねに嫌われたくない…!キスじゃっ…キスだけじゃ、止まんないよっ…」

キスだけじゃ、止まんない。
それは思い上がっても、いいんだろうか。
必死に涙で濡れているであろう顔を隠そうとする腕を掴んで、顔から離すとやっぱりそこには涙でぐちゃぐちゃになっている愛しい井浦の顔があって、クスリと笑ってしまう。
すると恥ずかしそうに井浦が眉をひそめるから。

「止まらなきゃいいじゃないんですか?」

今度こそ、形の良い唇にそっとキスをおとし、掴んでいた腕を離すとサッと口を押さえていて、やっぱり笑ってしまう。

「舌、入れていいですか?」

笑顔で尋ねると、真っ赤な顔をした井浦は仏頂面のまま、

「いいんじゃないの…誕生日なんだし」

と返した。
それから続けて、

「別に誕生日じゃなくても、いつでもいいけど」

なんて言うから、柳は嬉しそうに笑ってから、

「はい!」

力一杯、井浦を抱き締めた。


あまじょっぺぇ


―――――…

キスキスキスキ!!

誕生日とか、おめでとう!
二人で勝手にチュッチュッチュッチュッしてくれ!!

たまには素直じゃない井浦も悪くないかと思ったけど、ここの井浦にはあんまり関係ない話だったかも(笑)

―――――……






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